朝 起きる

一階へ降りて 様子を窺う

母は 昨日と 変わりなかった

黒い砂塵が姿を覆い

顔が見えない 手足が見えない どこも見えない

しかし いつものようにふるまう

朝食を準備している

自分の姿にも気づかず

 

 

今日は早いのね

声をかけられた

どう返答したものか わからず黙る

食べないの

声をかけられている

そんなもの 食べられたものではない

皿の上には 黒い砂塵で覆われた なにかがある

 

 

どうしてこうなったのだろう ベッドに寝転ぶ

なにがいけなかったのか 寝返り うつ伏せ

なにが起きているのか 両手両足を伸ばす

これからどうしたものだろう ベッドをつっぱね起き上がる

 

 

身を起こすと 笑えてくる

なにを頭を悩ますことがあるのか わかりきったことじゃあないか

 

 

山だ山だ山だ山だ山だ山だ山だ山だ

 

 

窓をあけ 街の中央にある真黒な山をにらむ

山の輪郭は常にゆらいでいる 黒い砂塵が蠢いているのだ

 

 

窓を閉めて 身支度を整える

下ろしたての下着をつけ 上着をはおり 靴下を履く

 

 

玄関へ向かいながら 口元がゆるんでいる自分に気づく

心地よい高揚感に包まれている 身体が軽い

 

 

全身全霊をもって 未知の存在に挑むのだ

動機も精神も肉体も充実している

山のふもとへ着けば 仲間がいるだろう

勇敢で屈強な精神をもつ同志だ

少年はたまらなくなって駆け出した

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吉村トチオ
最後まで読んでくれてありがとー