真っ白な部屋があった

窓が1つ ドアが1つ

窓からは駐車場と向かいのマンションが見える

ドアはずっと閉ざされたまま


窓をずっと眺めていた

駐車場で遊ぶ子供や いろいろな車や 夕日や 雨や

夜には こそこそと泥棒があらわれる

僕だけが泥棒を見ているのが愉快だった


いつまでもこのままだと思っていた

これまではなにも起こらなかったからだ


夜 泥棒と目が合った

驚いた

当たり前だけど

窓ってやつは こっちからもあっちからも 見える


泥棒がこっちに向かってくる

これはまずい ドアを押さえないと

ドアノブを握ろうとするけど 全然うまく握れない

握れない 握れない

何回か繰り返して やっと気づく これはドアじゃない

これは ただの絵だ


怖かった

泥棒が迫ってくるが そんなことがどうでもよくなるくらい

怖かった

僕はここでなにをしていたんだ ドアがない部屋で

僕は閉じ込められていたのか


ガタ、ガタ、


音が聞こえて 振り向くと

泥棒が窓をこじ開けていた

当たり前だけど

その気になれば 窓からも侵入できる


泥棒が ニヤリと笑う それから 真顔になる

僕の顔を見て 真顔になる

気がつくと げらげらと 僕は笑っていた

なんで笑っているのか 自分でも わからない


げらげら げらげら 泥棒に近づく

げらげら げらげら 泥棒の肩を両手で掴む

げらげら げらげら 力いっぱい

両手を前方に突き出した

目の前から消えた泥棒は 駐車場で大の字に倒れている

しばらく泥棒を眺めて 動かないことを確認する

動いてもらっては困る せっかく手に入れた着地点だ


当たり前だけど

その気になれば窓からも脱出できる

開け放たれた窓に背を向けて 助走のために距離をとった

ピョンピョンと軽くはねる げらげら

まだ笑いはおさまらない





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吉村トチオ
最後まで読んでくれてありがとー