S・キング「図書館警察」

 スティーブン・キングは世界有数の人気作家であるとともにホラー界の重鎮でもある奇異な作家だと思います。なにせ、ホラーというのはこれまであまり脚光を浴びてきたジャンルではないからです。「へぇ~、趣味が読書なんだ。好きなジャンルは?」「ホラーです!」「あ……、そう……。変わってるね」となってしまうジャンルなのです。現に、「キャリー」というホラー作品でデビューしたS・キングでしたが、次作品「呪われた町」を出版する際、編集者から「この本だしちゃうと世間から完全にホラー作家と認識されちゃうけど、いいの?」とか言われたらしいし。それほど、ホラーというジャンルは読者にとって、そして作家にとっても踏み込みづらいジャンルなのでしょう。まあ、常に固定の少数ファンは確保できている安定したジャンルでもあるとも思うのですが。しかし、そんな編集者の心配もどこへやら、スティーブン・キングの出す本は売れに売れて売れまくっています。世界中で翻訳されて読まれています。30作品以上が映画化やドラマ化され、特に「スタンド・バイ・ミー」や「ショーシャンクの空に(刑務所のリタ・ヘイワース)」なんかは映画史に残る名作として知られています。最近では「アンダー・ザ・ドーム」のドラマ化とかありましたね。

 なぜこんなに売れているのか。「図書館警察」を題材に、私なりに分析してみましょう。分析というのがおこがましいくらいテキトーに。まず、なんといってもストーリーが面白い。設定がなじみやすくシンプルであるに関わらず、また、展開も先が読めるにも関わらず、王道のストーリーを貫き、そしてそれが面白いのです。次に、綿密な状況描写があるでしょう。主人公の身の回りにあるどうでもいいインテリアから怪物のグロテスクな描写まで綿密に、ホラー方向に綿密に書き綴ってます。ところで、私はスティーブン・キングの作品を読んで怖い、と思ったことはないのです。というか、ホラー小説を読んで怖いという感じになったことはないのです。「多分ここはすっごい怖いところだ!」とか思いながら嬉々として読んでいるのですが、おかしいのでしょうか? まあ、それでも楽しめてるからいいですが。

 作家の技量は私がとやかくいうまでもなく世界中で保証されているが、図書館警察の具体的なストーリーについてはどうなのか、作品点数の多い作家だからたまたまこの作品はハズレだったな、なんてこともあるんじゃないか、と心配する人もあるんじゃないかと思います。ですが、心配はいらない、と答えたい。この作品も安定して面白い、と。

物語はロータリー・クラブ(金持ちの集まりみたいなイメージ)で講演する予定だった人物が急遽出席できなくなったため、クラブの一会員である主人公が講演しなければならなくなった、というところから始まります。なんとか原稿を書き終えたが、どうにも味気ない気がする。第一級の講演とまではいかないまでもなんとか無難な講演までにはレベルを上げておきたい。相手はビジネスの取引がある連中だ。あまりみっともないものだと信用がおちる。そこで、一緒に原稿をみてもらった助手のアドバイスで図書館に本を借りに行くことにした。……というのが冒頭の滑りだしです。

 上記の滑りだし、ホラー展開、そしてタイトルの「図書館警察」。これらのヒントから大体のストーリーは想像できたでしょうか。そして、ストーリーの想像ができた方、その想像通りでほぼ間違いないと思います。しかし、ここで本書を読むのをやめてしまってはもったいない。本書の醍醐味は、というよりS・キングの醍醐味は、今はやりの「予想もできない超展開」などではないのですから。そして私は作中に出てくる「デイヴの野球の話」で不覚にも涙してしまいました。この「デイヴの野球の話」は物語の本筋には全く、一切、びっくりするほど関係ないのですが。

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