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【とあるPRマンの感想文】米TVドラマ『サバイバー: 宿命の大統領 シーズン1』

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『月刊 広報会議』の連載「映画で学ぶ広報術」へのオマージュとして、本や映画などの感想をPRパーソンの視点でレビュー。 
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【タイトル】"Designated Survivor -season 1-"(邦題『サバイバー: 宿命の大統領』)
【監督】Mark Gordon(マーク・ゴードン)
【主演】Kiefer Sutherland(キーファー・サザーランド)
【ジャンル】テレビドラマ
【発表年】2016年~2017年
【あらすじ】

舞台はアメリカ・ワシントン。大統領による一般教書演説が行われていた国会議事堂で大規模な爆弾テロ事件が発生し、大統領はじめ国会議員が全員死亡。指定生存者(政府の継続性を保証するため、安全な場所で待機を命じられた閣僚)である住宅都市開発長官のトム・カークマンが急遽、大統領職を継承することに……。全世界から注目され、経済や治安の悪化が予想されるアメリカ史上最悪の混乱の中で、大統領として事態に対処することを迫られる。国家転覆を企むテロ集団や複雑に絡み合う陰謀に立ち向かう政界サスペンスドラマ。

ジャック・バウアーが大統領に

この作品はアメリカの大統領が主人公の政界ドラマなので、ちょっととっつきにくいかもしれない。ただ、小難しい政治の話はほどほどに、爆破テロや暗殺、謀略などスリリングな展開で飽きない。大統領が国政を乗り切っていく話と並行して、FBIが黒幕を突き止めていくサスペンスストーリーが走っているので、一粒で二度おいしいドラマとも言える。

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トム・カークマン大統領を演じるのは『24』のジャック・バウアー役でもあったキーファー・サザーランド。本作では銃撃シーンは多いけれど、さすがに大統領なので彼が撃つことはない。ジャック・バウアーがちらつくことはないと思うのでご安心を。

役柄は真面目で誠実で、トランプ大統領とは正反対。難局を乗り切るほどに応援したくなる。連日2時間程度の仮眠で困憊の中、厳しい記者からの追及にも丁寧に向き合い、報道を通して支持率を上げていく。新型コロナウイルス対策の会見で、制限時間が過ぎたとわずか16分で質疑応答を打ち切り、会見を終えて帰宅した安倍首相とは大違い。

アメリカと日本では官邸と記者の関係性も文化も違うとはいえ、表裏一体である報道とPR自体がまだまだ未熟であるし、私たち国民の政治参加意識も低いので、自戒を込めてドラマを見ている。(参考:長野智子がトランプと闘う米メディアと比較し「日本の現状ひどすぎる」

反感を買うな、嘘をつくな、推測で話すな

そんな大統領の演説や記者会見も大変参考になるのだけれど、「とあるPRマンの感想文」として注目したい人物はホワイトハウス報道官のセス・ライト。

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爆弾テロの後、官邸のトイレの個室で就任直後の大統領の資質について批判をしていたところ、用を足して出てきたら話していた相手は大統領本人で、その的確な批判を評価されてスピーチライターになるところから始まる。(第1話)

ここでは、彼の広報スキルの高さと誠実な人柄が伺える、私のお気に入りの第4話を紹介したい。

ある日の記者会見、カーター報道官が記者に質問攻めにされたじたじになる。その会見の後、スピーチライターのセスはカーターにこうアドバイスする。

支配権を握るんだ。記者達は、君が弱気を見せるから攻撃してくる。
報道官が確実に即死する原因は3つ。記者達の反感を買うか、嘘をつくか、推測で話すかだ。
答えられない質問が来たときはかわせばいい。「確認します」「今はお答えできません」「後日報告します」と。

そして、「獣(記者)を手なづけて来い」とカーターに発破をかける。

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広報の教科書にあるような3原則だけれど、言うは易し、行うは難し。スピーチライターのセスは記者の前に立つことはないからこそ、こんなふうに強気にアドバイスできるのかもしれない。私も多くの記者会見や取材対応を行ってきたけれど、記者のみなさんからの鋭い質問には、毎回肝を冷やす。

余談だが、思い出すのは、横浜DeNAベイスターズのチーム広報だったときのこと。主力選手の怪我の回復具合を執拗に聞かれることも多かったが、チーム戦力に関わる情報なので、当然本当のことは答えられない。新米だった当初は、番記者さんに「まぁ、言えないのも分かるけれど、広報から何か言ってもらわないとさ。なんかシャミってよ」と言われ、現場広報の対応を学んだものだ。(シャミる=三味線を弾く。適当に調子を合わせてはぐらかすこと。)もちろん、本当に重要なネタの場合は記者さんも容赦しないし、そもそも広報を通さず各紙独自に取材攻勢をかけてくる。

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話を作品に戻す。次の記者会見。カーター報道官は記者からの追及に耐えかねて、会見場から逃げるように立ち去ってしまう。代わって壇上に上がるセス。記者からの厳しい追及に、「一つずつ質問に答えます」と覚悟を決め、見事に会見をハンドルする。

その仕事ぶりが評価され、スピーチライターのセスは報道官を打診される。一旦は断るも、カークマン大統領直々に、「尊敬できる人に任せたい。頼っていいか?」と請われ、報道官の任に就く。

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以降は、次々と降りかかる難局に、大統領報道官としてメディアと向き合いながら、彼自身も成長していく。誠実かつ毅然に立ち振る舞い、時にうまくはぐらかし、時に駆け引きをしたり。報道官として余裕がでてきたと思ったら、好みの女性記者と距離を近づけようと下心を見せ、大統領の家族に関するスクープでゆさぶられたり。「おいおい」と思うような行動もあるが、そんなところも含めて、主要メンバーでは最も人間味があるようにも感じる。

ホワイトハウスは新米大統領のカークマンとセス・ライト報道官に加え、ヒスパニックのイケメン首席補佐官のアーロン・ショア、大統領以前からカークマンを支えるエミリー・ローズ特別顧問の新米4人が主要メンバーで、様々な人間模様がありつつも、その後もなんとか乗り切っていく。

シーズン1は21話、シーズン2は22話まである。ABCでのテレビドラマはシーズン2で打ち切られたが、シーズン3はNetflixオリジナルとして2019年に全10話で配信された。私はまだシーズン3までたどり着いていないが、テレビドラマの続編をNetflixがオリジナルで制作というのは、TVシリーズの続編を期待していたファンにはかなり嬉しいことだろう。話はそれるが、Netflixオリジナルということで、大好きな池田エライザを楽しみに「Followers」を見たのだけれど……ストーリーも世界観も私には響かなさすぎて、2話の途中でギブアップしてしまった。残念。

さて、このブログでは「政治サスペンス」の政治部分について取り上げたが、シーズン1ではFBI捜査官による爆弾テロ犯の真相究明のサスペンスストーリーが緊迫感あり、難解でもあり、次の話が気になってどんどん見進めてしまう。シーズン2は爆弾テロ犯探しよりも、次々問題を抱える国政や外交での大統領府としての政策や立ち居振る舞いの方がウェイトを占めているので、サスペンス好きには少しもお足りないかもしれない。

大統領予備選挙真っ只中の今、本作を見ながらアメリカの国政のあり方や価値基準などの肌感覚を持っておくと面白く見れるかもしれない。ぜひご覧いただきたい!

※本記事内の画像キャプチャ等の引用元:Designated Survivor | Netflix Official Site


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