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サウンドスケープ概論

音の風景

私ごとの話からで恐縮ですが、一時はギャラリーでのパフォーマンスや美術屋向けにやっていたのですが、最近では音の採取のみで外に出す事もなく、一人で採取して楽しんでいる事の一つに音の風景を採る、のような事をしています。

その音の存在はあまり知られる事なくそこに気づいた一部のミュージシャンがライブや音源のワンアクセントに使ってたりするのはたまに見かける程度で、それらは通常ほとんど意識される事もなかったりするような普段から存在しすぎていて感じられない音達。
ふとした瞬間の夏の田んぼや海、冬に振る雪や川の流れ、町の雑踏や、ビルの間。
耳を澄ませてみると、そこには沢山の音が広がっている事に気づくでしょう。

カナダの現代音楽家R・マリー・シェーファーはこの音の風景をサウンドスケープと名付けました。
それらサウンドスケープは自分的にわりと得手であるのでその概要など書いてみようかと試みてみます。

我々は音から逃れられないと言ったのはアメリカの有名な現代音楽家ジョン・ケージですが、彼の言うように実際に普段から常に音を聞く事から逃れられていません。
なぜそれを感じないかというと意識がそれをシャットアウトしているからです。
人工的な場所ですと無響室、無響室は現実的な場所ではないので音楽スタジオ、もしくは音のしない森の奥へ行ってみると分かると思いますが、そこでまず聞くのはキーンと言った耳鳴り、オイフォンと呼ばれる物です。
これは人間の神経系の何かしらの音とされ、脳が作り出す音、おそらく耳の器官である蝸牛の音の増幅装置が使われていないときのアイドリングの音ではないかと言われています。
また、それに加え音がしない無響室の場合、まさに心臓の音をリズムとして聴く事ができます。

音の風景は音を中心でなく、耳とその知覚を中心に広がります。

知覚と意識、聴くという事

人間には聞く音を選択する能力があります。
心理学者のコリン・チェリーによって提唱されたカクテルパーティー効果と呼ばれる物です。
選択できるという事はどういうことか、というと意識しない音は消えてしまいます。
また、自分の好みの音を選択して聞く事ができます。

また、人間の"聴く"という知覚の大きな特徴としてもう一つ挙げられるのがマスキング効果と呼ばれる物があります。
単純に大きな音は小さな音をかき消すという現象。
また、ある一定の周波数帯で音を発生させることで、同じ周波数の音が掻き消される現象のことで、カフェなどで流れるBGMが時計の音を消したり、遠くで動いている別のお客さんの音を何気なくカットしていたりします。

そういった中でいえるのは大きな音というのは権力そのものです。
大きなスピーカーを持つ人は何も持たない人よりも権力を持っていることになります。

音の風景を作り出すにあたりこれらは重要な知覚の能力です。
これらの知覚は場所と時間を変える事で大きくその音楽を変えて行きます。

基音と調性

音楽を作るにあたり調性というものが存在します。
サウンドスケープの中でもそのバックグラウンドに調性、基音というものがあり、まずそれらを探す事が最初の簡単なステップになります。
世界は音で溢れていて挙げきれないですが、大きな枠で捉えると下記のようになる、、と思いざっくりですが挙げてみます。
これら以外の音も探してみると簡単に見つかると思います。

自然

水、鳥の声、動物の声、虫の声、森や植物のざわめき、風、土の鳴る音、地震の起きる音、海、湖の波、火の音

水は人間の生きる術、水がなければ生きていく事ができません。
また森や木ははきだす二酸化炭素を酸素へ変えてくれます。
風はその種子を運んだり、それらの動かない植物たちへ動きを作り出します。
これらのサウンドスケープは季節により変容します。
その周りに育まれる生命、それらの音のどれを基音にするかという受容と選択を掴む為に聞いてみましょう。


郊外

水路、農地、動物や昆虫、走る車の音や電車、住む人々の生活音

中心街

人の声、車の音、ビルを通り過ぎる風の音、人の動く音、雑踏の音宣伝される音楽、公園、教会などの宗教施設、時計の音

公園、庭園

噴水、動物、風の音

工場、機械

工場の音、工業用機械やパソコンのキーボードを打つ音、車のエンジン音、飛行機の音、お店の空気清浄器の音、建物を取り壊す音、コンプレッサー、ドリル


人の作り出す、物たちの音、広告など人間の欲望を煽るもの、人から発生する無加工の音たちは生きる事そのものを音にしています。
人が作り出した時計の音は人に時を刻みます。
昼から夜へとそのサウンドスケープは移り変わり、その繰り返しにより、町は時間を経て、時間を積み重ねるにつれその中のオーケストレーションを変容していきます。
古い町並みから新しい町並み、住んでいる人々様々な町が世界には存在し、入れ替わっていきます。
その音の基調音がなにか耳を澄ませてみましょう。


しゃべり声、呼び声、叫び声、鳴き声、笑い声、食べる音、飲む音、衣服の擦れる音、心音、呼吸、手を打ったり、ひっかいたりする音

人がいる、ということはそれそのもので音を発しそれそのものでオーケストラを構成していると言えるでしょう。
音楽も人の出す音とするとサウンドスケープのごく一部の中に音楽があると言えるのではないでしょうか。
楽器を使った音楽は音で溢れた世界のごく一部でしかない事に気がつきます。
こうした捉え方の上で音楽をする我々にとって本当に鳴っている基音はなんでしょうか?

これらから基音を含め様々な音を探し出し見つけることができる世界、その世界の音のオーケストレーション、それらこそがサウンドスケープです

サウンドスケープデザイン

サウンドスケープを作るに当たりサウンドスケープデザインという言葉があります。
サウンドスケープデザイン
とは、世界のサウンドスケープを地球単位の果てしなく強大な音楽作品であると捉えるという方法です。
我々は聴衆であるとともに、演奏者であり、作曲者でもあります。

どの音を広め、どの音を増やしたいか、音環境のオーケストレーションを改善していく手立てでもあります。

環境の発する音を熟知し、これらをオーケストレーションしていく人をサウンドスケープデザイナーと呼びます。
サウンドスケープデザイナーの仕事は環境の再構成、自分の取組んでいる環境を知る事が必要不可欠です。
環境音が人を圧倒する時、サウンドスケープデザイナーは仕事をする必要があると言えます。
森の中で鳴り響くチェーンソーの音はまさに人間の権力を表す音ですし、鳴り響く鳥の声、その後ろで鳴る川の音は、動物たちにとって川が如何に重要な場所かを指し示しています。

このように、音というのは詳細に何かを語っています。

次回はサウンドスケープのもう少し専門的な理論的な話、音響心理学や音響生態学、記号学などの話をしたいと思います。
サウンドスケープ②へ続きます。

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