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短歌

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【短歌】葬列へさえも日差しは降りそそぎあなたの薄いまぶたをなぞる

葬列へさえも日差しは降りそそぎあなたの薄いまぶたをなぞる お変わりはございませんか本日はお日柄もよくとりあえず死ね がら空きのエレベーターが昇ってくたかが生活たかが人生 まどろみのさなかに死ねる破れかけの卵の中で腐っていれば ぼくの手が消えたいきみの手を救うその手できょうは羽虫を潰す 「愛」の語を作った人は誰ですかあなたのせいでずっと苦しい 母親の通勤路沿いに新しいパン屋ができたらしい死にたい けんもぐもつかないことをことさらにつまずけぬままあるきつづける 明

【短歌】きらきらと川は斜陽を跳ね返し明日の不安を嘲っている

首元にかるい木綿の肌触りどうせ脱ぐ服どうせ死ぬ人 きらきらと川は斜陽を跳ね返し明日の不安を嘲っている 白雪を穢して惜しむこともない僕は地獄に堕ちるんだろう 降る雨も恥じらうような安寧があなたの眠りでありますように 木枯らしに揺れる信号機がならぶどうやら日々はしばらく続く ゆうやみの見知らぬ風にさらわれることが幸福なのだと知った 未だ見ぬ傷の痛みを生まぬため小指の糸を噛み切っている でも いずれ きみとわたしは別れるし平気な顔でケーキも食べる 制服で、だけれどわ

【短歌】地表ごと灼く祈りにも似た冬を死ぬまできっと待ちわびている

地表ごと灼く祈りにも似た冬を死ぬまできっと待ちわびている 晩酌のチューハイ缶は燃えるゴミはやく地球を壊したいので 失恋の予行練習かさねてはまだ見ぬ傷をなぐさめている 思い出を残して窓は閉ざされる23時のベルトコンベア あおじろく眠れぬ夜を媒介に布と肌とが溶け合っている 手放した車椅子へと射す西陽あなたのための世界の終わり つらいとか死にたいとかじゃないんですただ救済が足りないんです 聞く価値もなしと思えば手のひらに溜まりゆくのは下の句ばかり 売りつける相手を選

【短歌】ななつだけ叩いてひっくり返す夜 傾眠持ちのあなたの枕

柔らかいあたたかい肉わるいこをきちんと𠮟ってあたたかい肉 夕暮れになったらストーブつけてよしたまに風呂場で泣いててもよし 先生はああ叱るかもしれないが俺はあなたの日本語 好きです ああ無情、日曜ひとつ殺したよ 次はどの桃もぎに行こうか すれ違い殺してないか確認し去り際にまた殺した気がする 人間ががんばって四季をずらしたので赤とんぼはいま冬の季語です 殖えるにはヒトが一匹足りなくて切る、生物学的な幸福 もう今日は冷水浴びず済むようにブレザーにかけた朝の牛乳 籠の

【短歌】明日までのモラトリアムが冗長で記憶を飛ばす薬がほしい

死にたいや悲しいを生むこまったらいつでも呼べるきみを呼ぶため ひとつずつ夢を叶えて老いていくホールケーキを丸ごと食べた あの丘にプラネタリウムがあるのです だから終電乗り過ごしてね 五七五七七うまく使えない人を言葉で刺し殺せない なんとなく泣いたら許される気がして咀嚼音すら優しい今日は 明日までのモラトリアムが冗長で記憶を飛ばす薬がほしい いま特に不満はないのですけれど叫びたくってメーデーメーデー あいうえおやっぱりうまく言えないわねえあの表を燃してください