鬼舞辻無惨はなぜ敗北したか-鬼滅の刃より

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※注意。本文には鬼滅の刃最終回までの内容が含まれている。
ネタバレが嫌な方は閲覧遠慮を。

鬼滅の刃のラスボス・鬼舞辻無惨は太陽光によりあえなく消滅し、主人公竈門炭治郎を鬼の後継者にしようとする目論見も失敗した。
完全敗北といっていいだろう。

では、なぜ無惨は敗北したのだろうか?
大きく分けると4点の理由がある。
・目標のブレ
・手段のブレ
・目的達成後のビジョン不足
・戦略/戦術の稚拙さ
以下にその事例を通して敗因を見ていこう。

・目標のブレ

無惨は自身の弱点である太陽光(本作では鬼は太陽光を浴びると消滅する)の克服を目標としていた。
よくあるラスボスの目標である「世界征服」やら「人類の絶滅」やらを掲げていたのではない。
だが、この目標自体厳密にはブレがあったのである。
太陽光克服には2パターンの選択が考えられた。
1)人間に戻る
2)鬼のまま克服する

1)の場合、太陽光に浴びても消滅しなくなる。
ただし、人間に戻ると人間時代の病気や負傷が再現される可能性がある。
無惨は人間時代病気で死にかけていて、医師の投薬により鬼になったのである(これについては後述)。
人間に戻るとこのリスクがある。ただし戻って再現されるかどうかは無惨自身ははっきりとは知らなかったようである。
実際には炭治郎が人間に戻ると鬼時代に再生した右目や右手が機能しなくなったので、この選択肢を選んだ場合、無惨も人間時代の病気が再発した可能性がある。

なおこの選択肢は反無惨陣営(鬼殺隊、珠世)も研究していてしのぶと珠世が開発した人間に戻る薬で禰豆子や炭治郎は人間に戻っている。
これを入手する方法も考えられるが無惨は情報を知らなかったのかそういう選択肢は取っていない。
珠代に人間に戻る薬を投与された際は薬を分解して効能を受けなくしているのでこの段階では1)の選択肢を拒絶しているようにも見えるが、これは人間に戻っても鬼殺隊に殺される可能性が高く、また鬼殺隊に殺されず捕獲されて警察に引き渡されても数々の殺人事件の犯人として死刑になった可能性が高かったので人間に戻らなかったと思われる。
珠代に投与された薬は他にもあったのだがこれについても後述する。


他方、2)だと鬼のまま太陽光を浴びて消滅しなくなる体質になる。
つまり鬼として太陽光を浴びても死なずに暮らしていけるようになる。
これを満たしたのは鬼になった竈門炭治郎・禰豆子姉妹だけだがいずれも人間に戻る薬を別途投与されて人間に戻っている。
太陽光を克服した鬼として生きていけるかどうかは不明瞭である。
太陽光を克服し、かつ人間に戻る前の禰豆子を捕食して太陽光を克服しようとしていた様子から見るとこちらを目標にしていたようにも思えるのだが、同時点での禰豆子を捕食しても人間に戻らずに済んだかも不明である。
そういうリスクを全く考えていないとしか思えない。

無惨は1)2)いずれを初期目標にしていたのかがいまいちはっきりしないのである。
一応不死身になりたいと言っているのだが、それが人間としてなのか鬼としてなのかも不明瞭である。
太陽光を克服しても別の死亡リスクが生じる(例えば音に弱くなるなど)可能性もあるのだがそういう発想がない。
おそらく、太陽光克服という漠然とした目標のみを有していたため、いざ克服の可能性が出てきたときに深く考えずに行動したのだと思われる。
終盤は2)をメインに考えていたようにも思えるが1)を放棄したわけでもなさげである。

また無惨にはひっそりと暮らしたいという目標もあるのだが、これが太陽光克服と格別衝突する性質ではないにもかかわらず、太陽光克服の二の次にしているところがある。
例えば先述の禰豆子が太陽光を克服したことを知った際には人間に化けて暮らしていたにもかかわらず正体を人間に知られてしまい殺害している。当然存在が明るみになるはずだがそうした配慮が見当たらない。

どうも目標の優先順位がブレていると思われる。

・手段のブレ

無惨は目標のみならず手段のブレについても各段階で起こしていた。

まず太陽光克服という目標に対する手段だがこれも複数の選択肢が存在した。
無惨が構想したのは以下の2つである。
A)青い彼岸花の摂取
B)太陽光克服した鬼の捕食

A)についてまず青い彼岸花について記す。
これは無惨が人間時代に投与された薬の原料である。
これを摂取した結果無惨は生存できたがこれにより鬼になったのである。
投与した医師は鬼になる前に無惨が殺してしまい、これがどういう意図で投与されたかは不明である。
つまり青い彼岸花の薬を摂取し続ければ病気が治った状態の人間に戻る、太陽光を克服するなどの効用があるのかはっきりしないのである。
ただし入手すれば何らかの効能は発見できるはずである。
この青い彼岸花の発見に無惨は1000年以上費やしている(無惨は平安時代の貴族である)。しかし、結局無惨は最後まで発見できず、また炭治郎たちも発見できずに終わっている。
発見したのは炭治郎の時代からさらに100年を経過した現代である。
なおこの青い彼岸花は数が少ない上に1年で2,3日昼間にしか開花しないという鬼には発見が困難な存在であった。

それでも鬼殺隊含め鬼狩りする人間の殲滅に固執せず青い彼岸花の獲得に注力していれば太陽光克服の可能性は高かったと思われるがどういうわけかこちらへ全力を注いだわけではなかった。

B)についても捕食で克服できるのか確証がない。捕食にしても身体のすべてが必要なのか一部でいいのかも不明瞭である。
禰豆子が太陽光を克服した情報を掴んた時点での無惨の態度からすると1000年間で初めて太陽光を克服した鬼を発見したようである。
これにしても襲う以外にもまず禰豆子の身体の一部を入手する、珠世やしのぶの研究結果を探るなどの慎重策を取るなどもとり得たがそれもとらなかった。
こちらも全面注力していたとはいいがたい。

無惨のA)B)の選択肢への態度は中途半端だったと思われる。

次に人的(鬼も含む)リソースに関する手段である。
これについては以下の手段があった。
α)単独で達成する
β)鬼を増やす
γ)人間の協力者を増やす

α)はどうも理想だったようである。
無惨は仲間(鬼)を増やしたくないと明言していて、おそらくは1人が理想だったと思われる。
よってβ)は不本意な手段だったと思われる。
鬼の増やし方であるが、基本は無惨の血を人間に注入する、である。
なお鬼化は確実にできるものではなく、無残の血が適合しないと死ぬ。
したがって運が悪いとただの殺人で終わってしまう。
また追加で鬼に血を分けることができ、無惨の血が濃い鬼(幹部格の十二鬼月)などは無惨が承認すれば自身の血で鬼にすることもできるようである。
この鬼は通常は無惨が情報を共有でき、また無惨が殺すことができる。
ある意味絶対に逆らわない部下なのである。
もっとも例外事例が複数あり、珠世は支配下から逃れることに成功し、また禰豆子は支配下に置くことに失敗している。
おそらくはこういう反逆を再三経験したことも増やしたくないとした理由なのだろう。
鬼同士も結束して反逆しないよう意図して争わせていたが、ために協力してA)B)の目的を達成することも果たせないという本末転倒な事態が生じている。

γ)については無惨自身が鬼化後も月彦など偽名を使い人間に化けて暮らしており、その範疇での協力者は存在した。ただし青い彼岸花獲得や太陽光克服した鬼の発見のための協力者ではなく人間としての生活を維持するための協力者であった。
他にも部下の童磨の運営する宗教「万世極楽教」の信者や堕姫の女郎としての客・遊郭の従業員などの協力者などが存在するがいずれも当人の人間としての活動時の協力者であり、上記の青い彼岸花獲得や太陽光克服には協力している素振りがない。
無惨には鬼の全行動を監視している割にはこうした人間の協力を仰ぐといった思考がまったくない。
人間には日中活動できるというメリットが存在したにも関わらずである。

こうした人的リソース強化へのためらいが結果として裏目に出たと言えよう。

・目的達成後のビジョン不足

無惨としては太陽光克服を達成した後は達成前同様ひっそりと隠棲したかったようである。
とはいえその後他の鬼がどう処遇するのかなどのビジョンは示されていない。
各鬼、とりわけ幹部格の十二鬼月はこうした太陽光克服の目的以外の目的(例えば猗窩座は強くなりたい、など)も有していたがそれが永続的に達成できるのか、また他の鬼も太陽光克服するようにもっていくのか、あるいは用済みとして全員処刑するのかなども見えていない。
こういう点も鬼殺隊との戦いにリソースを割かれた原因と思われる。部下の鬼が自身の目的達成のために騒動を起こし、存在が発覚して鬼殺隊の攻撃を受ける、あるいは鬼殺隊の討伐が目的化した鬼が出現すして攻撃を仕掛けてしまうなど鬼へのビジョン共有が無いゆえの暴走であろう。

・戦略/戦術の稚拙さ

無惨の戦略は
イ)鬼を増やす
ロ)鬼狩りに見つからないように暮らす

というものである。
イ)については目標達成の手段でもあるが手段のブレでも説明したように運用がまずかった。またロ)については自身の安全のためであるが
・複数の名義で人間に化けて暮らす(名前も偽名)
・鬼には自分の名前を言わせない(言うと死ぬ呪いをかけている)
など秘匿に注意を払った行動を一応とっている。
しかし、わざわざ他の鬼のところに出回ったり、敵の本拠地である産屋敷邸に1人で乗り込んだり明らかにバレやすい行動を自身で起こしている。部下にも列車での殺戮や浅草のような繁華街近辺での襲撃など目立つ行動を取らせている。


戦術としてはさらに稚拙さが目立ち、
・体力回復前に腹いせに医師を殺害
・幹部格の十二鬼月12人中5人を自身で殺害(うち4人は腹いせ、1人は敵である愈史郎に本拠地である無限城を操作されたため)
・太陽光克服した禰豆子を確保するより鬼殺隊との戦闘を優先
・十二鬼月含め部下の鬼が全滅後も撤退や禰豆子の捜索をせずに戦闘を継続
・反逆者である珠世をなにも調べずに捕食し各種薬物を摂取してしまう
・鬼化させた炭治郎を退却させずに鬼殺隊との戦闘に使用
・本拠地の無限城を自ら破壊
などミクロ的な感情による判断ミスを連発している。
十二鬼月の殺害は致命的で戦力が不足し、苦し紛れに最終決戦で格上げで上弦の月を補充し、さらに下弦クラスの鬼を作り出して無限城に配備したが能力不足は否めず全滅させられている。

敵への研究不足というのも多く、

・継国縁壱戦で見せた身体を分裂脱出させたことへの対抗策が高じられている可能性を考慮しない
・産屋敷家、継国家や煉獄家、胡蝶姉妹、竈門兄妹など鬼狩り各位の性格を知らない(真面目、正義感高いなど)
・現状の鬼殺隊の数、スキルを把握しない
など失態を続けている。

最終的に珠世が老化、細胞分裂阻止、細胞破壊という致命的な薬物を持っていたにもかかわらずこれを摂取してしまい、薬物分解前に太陽光で消滅するという事態になってしまった。更には鬼化した炭治郎の説得も失敗して人間に戻られている。

戦略戦術ともにお粗末と評するほかない。

終わりに
無惨の敗北は端的に言うと以上の4点が原因だが、更に突き詰めると学習力の不足だろう。
人生初期の失敗である医師の殺害を反省せず、以後もその場しのぎの行動が目立ち、大局にたった行動ができていない。
おそらく鬼殺隊がいなくても早晩自滅したのではなかろうか。

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