第31回 人事異動はキャリアの幅を広げるチャンス、掛け算で考えよう！

　春は変化の季節ですね。卒業、入学、就職、転職、異動・・・。皆さんの中にも、まさにこのただ中にいる方がいらっしゃるかもしれません。新天地に向けて希望とやる気にあふれている方もいれば、意に沿わない部署への異動など、自分の意志とは関係ないところで起こった変化に対して、ショックを受けたり、受け入れられない気持ちでいる方もいるかもしれません。
でも、このような意に沿わない異動、一見自分のキャリアにとって回り道となるような出来事が、実はあなたにしか出せない価値の源泉となり、あなたならではのオリジナルなキャリアを作っていくために非常に有効だと言ったら、あなたはどう感じますか？

　今のこの不確実な時代において、一つの領域に特化して専門性を高めていくことは、その分野に精通した人材として市場価値が高まっていく一方で、これは両刃の剣であり、専門性がAIなどで一気に代替される可能性が高いことから、大きなリスクとなりうる、というのはよく言われています。
　そういう意味で、一つの専門性を高めるだけでなく、回り道をして時には違う分野の仕事で経験を積んでおくことで、リスクヘッジができるというのはもちろんあるのですが、わたし自身が最近感じるのは、市場価値という意味でも、エンプロイアビリティ（雇用される能力）を高める、という意味でも、経験や才能の掛け算が重要であるということです。

　例えば、わたしの場合で言うと、キャリアコンサルタントとして専門性を高めていく努力はもちろんしつつ、キャリアコンサルタント資格保持者はたくさんいますので、そこに×（かける）社会保険労務士で、法律や制度にまで踏み込んだ相談に乗ったり、さらに×理系修士卒で、研究者のキャリア支援や専門的な研究概要の添削等も併せて行うことで、ほかのキャリアコンサルタントにはない自分の強み・自分らしさを意識しています。わたしはフリーランスなので自分で意識して掛け算を行ってキャリアの幅を広げてきましたが、企業にお勤めの方は、半ば強制的にこの掛け算が増えていくのです。

―営業にやりがいを感じていたのに、いきなり工場の総務部門へ。全くの畑違いで戸惑いしかない。だけど営業現場から遠い工場の人たちに、お客様のリアルな姿やお客様と接する中で感じてきたニーズを伝えることで、お客様と工場をつなぐ架け橋の役割をする。それがとても楽しいし、新たなやりがいになっている
―IT部門から営業企画へ。せっかくITの専門スキルを磨いていたのにと落胆したけど、営業企画の仕事でもっとITを使って効率化できることがたくさんあることに気づき、DXに着手。自分のスキルと経験を生かして新たな領域のチャレンジができて満足。

こんな風に掛け算をしてくことで、その人にしか出せない価値を提供することができ、その人ならではのオリジナルなキャリアとなっていきます。新たな部署での経験は「積み上げの足し算」ではなく、「掛け算」となってあなたのキャリアの幅を広げてくれるのです。

だからこそ、意に沿わない異動などがあったとしても、いつまでも以前の仕事に固執したり、腐らないでください。今の仕事に対して自分ができることは何かを考えて、まずは真正面から取り組んでみてください。きっとあなたの新たな可能性が開いていくはずなのです。
 
　思いがけない異動は、あなたのキャリアの掛け算をする絶好のチャンスです。ここぞとばかりに自分自身のキャリアの幅を広げて、この変化の激しい時代を、しなやかに進んでいきましょう。

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