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【詩】真空と充溢

『真空は至高の充溢である』
シモーヌ・ヴェイユは書いた

まったくその通りだ
だが夭逝の哲学者は
続けて言う

『人間にこれを知る権利はない』

真空は一切を超えている
わたくしたちの認識を
遥かに超えた充溢なのだ

否定の神学において
無限と虚無は
全存在者と無は
光と闇は
ひとつのものの
異なった層を表している

『対蹠物の相互乗り入れ』
と彼女は言った

肯定の道では
すべての存在は
光源から出た光であるから
遡上してみなもとへ至る

否定の道では
光源が拡散して
やがて闇に溶け合う場所
その暗闇の最奥で
存在すべてを除去していく

自分自身を空にするとき
完全に満たされるのならば
わたくしたちは内側に
真空を受け入れる必要がある
シモーヌは踏み込んで
真空に堪えることについて
思い巡らせた

真空を埋め尽くそうとする
わたくしたちの想像力の働きを
宙吊りにする、
ということだ

充溢という恩寵は
不断に宙吊りにされた
その先で生じるかもしれない

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