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読書感想文

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読んだ本や文章の感想を書いたものです。
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#理科がすき

『「科学的思考」のレッスン 学校では教えてくれないサイエンス』(戸田山和久 著 NHK出版 2011)読書感想文

タイトルにもある「科学的思考」つまり「科学的に考えること」は「科学リテラシー」とも言い換えられるものだ。科学と社会が切り離せない現代においては、誰もが身に付けておいた方が良いものとして、ところどころで取り上げられる。 この本は東日本大震災の数か月後に出版された本だ。当時は科学(者)からの情報発信が問題視され、科学への信頼を大きく損ねた時期でもある。同時に、科学(者)からの情報発信を社会(市民)はどう受け取るのかも問題になった時期でもある。 最近は新型コロナウイルス感染症の

『コペンハーゲン』(マイケル・フレイン 著・小田島恒志 訳 早川書房 2010)読書感想文

この本に登場するのはニールス・ボーア、ヴェルナー・ハイゼンベルクという二人の物理学者とボーアの妻であるマルグレーテの三人のみである。そして、この本には彼らが原爆開発競争の最中、コペンハーゲンで交わしたとされる会話を史実に基づいて描いた戯曲が記されている。 三人のやり取りを通して、量子力学の黎明から原爆開発に至るまでのスリリングな内容がじんじんと伝わってくる。三人のやり取りは勢いが良く、彼らのつくり出す空気感に引き込まれていく。 物理学を学んだ者であれば、会話に登場する様々

『我々はなぜ我々だけなのか:アジアから消えた多様な「人類」たち』(川端裕人 著・海部陽介 監修 講談社 2017)読書感想文

「我々」とはホモ・サピエンスのこと。現存するホモ属は“我々だけ”。ではなぜ、“我々だけ”なのか。本書では、この問いに迫る人類学が描く「景色」を体感することができる。 舞台はアジアに点在する発掘現場。そこで発掘される謎の化石。監修者である海部氏率いる研究グループは、最先端の分析機器・手法を駆使し、謎に包まれた化石たちを分析している。 研究成果から描かれる人類史の「景色」とは。“我々だけ”でない時代はあったのか。ワクワク・ドキドキする研究成果を著者である川端氏の独特の記述と共

『ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から』(三井誠 著 光文社 2019)読書感想文

コロナウイルス感染症の感染者がずいぶんと減ってきている。行動制限も緩和の方向に動いている。振り返えれば、コロナウイルス感染症に関する科学者側からの発信に不信感が募った時期もあった。科学技術が発展し、社会に浸透している現代においても、科学は不信がられる存在であり続けている。 この本は、アメリカにおける科学不信の現場について描かれているルポルタージュだ。 アメリカではキリスト教信仰の関係で、ダーウィンの進化論を教えない学校もあるそうだ。科学の視点で見れば常識だとされることを常