バレエ小説❤️グランジュッテ その6

 あの2 回目のパドドゥクラス以来、凜は雨野先生にクラスレッスンでもよく見てもらえるようになった。何かというと凜の前で足を止め、注意を促してくれた。それと共に凜のモチベーションもますます上がり、普段のナナ先生のクラスレッスンやコンクールレッスンが楽しくて仕方なくなった。
 努力すればするほど筋肉の付き方が変わっていくのを感じた。ふくらはぎの筋肉を回すのにはバー・オ・ソル、いわゆる床バーが分かりやすかった。ナナ先生のレッスンでは2週間に一回程度バー・オ・ソルをやってくれるから自分の体と向き合う時間が作れた。それによってハムストリングを使えるようになってきたし、立っているとどうしても使いがちな大腿筋に寝ながらだと力が入りづらいから、正しい筋肉を感じることができた。それに膝の向きだって、立っていると捻じれているようになってしまうのを寝ながら足をストレッチさせていくことで改善できた。
 6 年生になってからは週に4 回だったバレエの回数も5 回に増やした。学校の友達が受験勉強でバレエを辞めたり、学校の合唱部で忙しくなって4 回だったのを2 回にしていく中、凜だけはバレエに真っ直ぐだった。
凜だって、歌が好きだから音楽の先生に合唱部に入らないか、一緒にNHK 合唱コンクールに出よう!と誘われた時には多少揺らいだこともあったけれど、バレエを優先したいからときっちり断った。その時の音楽の先生の残念そうな表情は今でも覚えている。
ナナ先生からは今年のYAGP に向けてどのバリエーションを踊るかの話があった。凜も家で色々見てきたけれど、どんな踊りを自分で踊れるか、楽しみ半分、緊張感半分だった。
「凜ちゃん、ユースで踊る曲なんだけど、スワニルダの1 幕にしよう。これだったら表現力、ピルエット、ジャンプ色々揃ってるからいい勉強にもなると思うの。」
凜は嬉しさでいっぱいだった。と同時に大きな挑戦であることも感じ取った。
「はい!」
「凜ちゃんはジャンプが苦手だから、これからどうにかしてしっかり飛べるようになら
ないとね!振付、明日までに覚えて来れる?」
「はい。大丈夫です。」
凜は、堂々と答えた。なぜならもう何十回とみているスワニルダの1 幕のバリエーションの振付は既に頭の中にあるから。
 次の日のクラスレッスン後のコンクールレッスンで凜は初めて踊った。家ではママに「家を破壊しないで!」と言われながら何度となく踊ってみたけれど、広いところで踊るのは全く違った。距離感も上手く掴めないし、パとパの繋ぎでどうしても音がずれてしまった。
そして何よりひどかったのがグランパドシャ。全く飛べなかった上に、曲が終わった時の自分の体力のなさに愕然とした。
先生も苦笑いしながら
「これは相当頑張らなくちゃならなさそうね。まずは体力!そしてね、いつも言ってるけど、腸腰筋の引き上げが全くないの。上体の引き上げは何回もやって、自分の感覚を掴むしかないの。それから、出だしのとこのドゥバンの前の足!パラレルはありえないし、お尻だって後ろに付き上げて出してるでしょう!これも、筋肉!腸骨筋は縮めない!大臀筋は使わない!座骨は真下!」
と矢継ぎ早に全体にわたる注意をした。
 最後には凜も「はい。頑張ります… 」と弱々しげに答えるしかできなかった。

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