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東大を出たけれど67「花」

 その客がいつものように荷箱を抱えて訪れると、同僚の彼女の表情は、ぱっと明るくなった。 荷箱には、色鮮やかな赤い花鉢が、所狭しとひしめき合っている。
「今日はゼラニウムだよ」
 花屋の彼が店の余りをこうして振舞ってくれるのは、特に彼女目当ての奸計というわけではなかっただろう。
 花屋はいつも、ガーデニング好きのオバさん連中にはもちろん、普段家で煙たがられているであろうオジさんたちにも、家族への手土産にどうぞ、と嫌味なく譲り渡してくれる。
 花屋自身は非常に感じのいい青年だったのである。
 それでも彼女が嬉々として花鉢を手にする様子が――、花の名前も知らない自分としては、なんとなく面白くはなかった。
 
 気のいい花屋の麻雀は豪快で、大振りの大輪を咲かせることが多かった。
 その鮮やかな手にも彼女は歓喜の様子を隠そうともせず――、私の心はまた沈んだ。
 枯れ薄のごとく頭を垂れる私は、花屋とは20000点差以上離されている。

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