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東大を出たけれど10「医者とパチプロ」

「田山幸憲って知ってる?」
 待ち席のパチンコ雑誌を手に取って、ふいに聞いてきたのは近くの東大病院の医者である。
「ええ。結構好きですよ」
 
 田山氏は当時有名なパチプロで、雑誌に連載していた彼の日記のファンも多く、その渇いた語り口と無頼な生き方に、私自身も漠然とした憧憬を持っていた。
 東大在学中にパチンコに出会い、自主退学の後に生涯をパチプロとして歩んだという彼は、自分の稼業の不毛さを十分認識しながらも、誰にも媚びずに自らの道を全うした愛すべき同門の先輩だった。
 当時大学を出たての私は、麻雀にのめり込んで人生のレールを踏み外しつつあった頃で、田山氏は、そういう生き方を正当化してくれる稀有な存在だった。
 田山氏が体の具合を悪くして病院にかかっていることは雑誌にも書いてあって有名だったが、そこの先生が偶然うちの常連客だったのである。
 

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