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棄権

敬愛する年上の人から「今回は投票を棄権した」とさらりと言われた。推しの候補者の行動が安直だったからみたいな内容だった。俺もこんな風に歳をとるのだろうか。権利を棄てると書いて棄権。歴史の中で何度も血が流され勝ち取った権利を棄権するということは何を意味しているのか。突然降って湧いてきたわけではない自らの権利を棄てるほどの何かって何だろう? と考える。答えが出ない。

    • Silence

      小学五年生の時、図画工作の彫刻の授業で「龍一」と彫った。友人は「清志郎」と彫った。その年の音楽会は担任に直談判して「ライディーン」を演奏した。でもじゃんけんで負けたので演りたかった小太鼓はできずシンバルを演った。音楽で体験した最初の挫折だった。初めて買ったレコードは「およげたい焼きくん」で2番目に買ったのは「KISS/Music from The Elder」、3番目に買ったVinyl が「千のナイフ」だった。ここのところ3月に入ってずっと「Merry Christmas M

      • 紫陽花と夕焼け

         思わず身構えるような強い雨が一晩中降っていた。こんなに激しく雨が降ると、晴れの感覚が一瞬思い出せなくなる。冬に夏の暑さが思い出せないのと同じだ。そのまま翌日の午後までぱらぱらと小雨が落ち、梅雨めいた風が吹いていた。夕方には路面が乾いたので、犬と近くの公園まで一緒に歩く。グラウンドの脇で懸命に匂いを嗅ぐ鼻先の、濡れた土に小さなプラスチックの包み紙が張り付いていた。木々の緑が何もない空に向かって伸びていた。‍   2ヶ月半ぶりに撮影に出た。ロケ先には紫陽花が溢れるように咲いて

        • わからない

          大学の恩師の言葉だ。当時大学で写真を学んでいた僕にとって大辻清司氏は、宇宙人的で規定外でまるで別の世界にいらっしゃるように神々しく、氏の沈黙にすら意味を探していた。写真という世界の入り口で小さく身をかがめ、注意深く僕らの足元の少し先を照らしながら、言葉少なく導く妖精のような方だった。実際、師にお会いしていなければ今ある僕はない。月に一度の金曜日の講堂で、まるで秘密を打ち明けるかのようにそっと話されるその一語一句を、拾い集めるように必死でメモをとった。そして一年を通じてゆっくり