ノックアウト(1914)

チャールズ・アヴェリー監督作品。

いわゆるキーストン・コップスものの一本。デブ君が拳闘で頑張ったり頑張りきれずに狂ったりする話。

開巻からしばらくは、アル・セント・ジョンがアーバックルの彼女に言い寄るくだりや、その後にアーバックルと投石合戦になる辺り、なんかただ撮ってるだけ感もあり、まだまだ映画黎明期だし、バスター・キートンなしのロスコー・アーバックルはこんな感じだったのかー、と微妙に退屈しながら見ていた。

そこに救世主チャップリン降臨である(ボクシングの試合のレフェリー役で2分間のみ出演)。出てきた瞬間に映画を完全にかっさらってしまうんだから凄い。

これは比喩でなく、チャップリンが凄すぎて、ボクシングで戦ってる本人たるアーバックルの様子がまったく目に入らないのである。

周りが「みんな頑張って体張ってるねー」くらいのところに、チャップリンだけ「1人物凄いキチガイがいるぞ!」くらいの動きをしている。それくらいに、パントマイムのレベルがまったく違う。驚異のアイキャッチ力。戦慄のスター性。

なお映画はその後、負けたらならず者にヤキを入れられるというプレッシャーに耐えかねたアーバックルが発狂、試合中にいつの間にやら手にした2丁拳銃を乱射しまくり、リング上リングサイドのみならず町を丸ごと恐怖のズンドコに叩き落とすという倫理観がパージされた展開になり、「『ラスト・ボーイスカウト』のオープニングは映画史的正統性を主張できるモノだったのか!」と私をガクゼンとさせたのであった。

その拳銃魔アーバックルを取り押さえる為に出動するキーストン・コップスの面々は、景気づけの為に虚空に拳銃をブッ放し続けており、完全に赤塚不二夫のマンガ(元ネタなんだろう)。

こういう設定の映画で私が重要と考える、「リングや舞台の側から客席を同一空間内におさめたショット」は、本作にはありません(セットが大変になるからかな?)。

ヒロインのミンタ・ダーフィーは、普通のカッコしてる時はさほど可愛くないところで(目のメイクが濃すぎて隈みたい)、ボクシング観戦の為に男装すると途端に超キュートに。

全編通じてギャグには映画ならではの過剰さにまだまだ欠けていますが、アーバックルがズボンを着替えるところで「カメラさんちょっとお願いしまーす」と画面をティルトアップさせる(下半身を映らなくする)というメタギャグはしっかり存在しました。

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