クリーピー 偽りの隣人(2016)

黒沢清監督作品。

メジャー進出後のキヨシ映画を無視しつづけるという態度は、さすがにそろそろ無理があるのではないかと観念しての鑑賞。

音と画面は相当良い。相も変わらず鳴り響きつづける重低音ノイズ。川口春奈が過去を思い出しながら語る長回しでの照明のコントロール。ピーナッツをミキサーにかける耳障りな音。私がキヨシを見限った『リアル』より、格段に良い感触の映画になっている。

西島秀俊が、香川照之と藤野涼子が帰ってゆくのを2階から見下ろすくだり。前後のシーンから考えての両家の位置関係的に、ありえないアングルになっている(「工事中 立ち入り禁止」と書かれた標識が見える)。違和感で観客をフックしようという意図的な空間のねじ曲げであり、こういう演出(遊びと言い換えても良い)が出来るくらいに、演出的にはキヨシは好調である。

となるとこれは脚本が悪い。

西島秀俊がアホみたいな説明台詞ばっかり言ってるのはまあギリギリ目をつぶれる範疇として(アホが似合う役者だと思う)、竹内結子のキャラクターが著しく納得性を欠く造形なのが大問題だ。ふつうこういうキャラクターは「聡明でないわけでないがちょっと鈍感」くらいにしないと、こんなアホがどうなろうがどうでもええわになる宿命である。

しかしそこは「僕は元よりキャラクターの内面なんかに興味がないよ」なキヨシ、この竹内結子は「聡明」でも「鈍感」でもなく純粋に「不可解」である。なぜ香川照之のキモさにイライラするシーンまでありながら、なおご近所付き合いを諦めないんだこの女! キヨシの「人間の中身なんて知ったこっちゃない」が悪い方向でサクレツと言えるだろう。

そんな風に、竹内結子が香川照之に取り込まれる段取りに一向納得がゆかない以上、藤野涼子が拳銃を持たされながら香川照之を撃たないシーンも威力を失うわけで、原作の発想のもとだったろう北九州監禁殺人事件的な、侵入者に洗脳され抗えなくなってゆく恐怖はまったく成立しなくなってしまう。

キヨシ的にはそんなこと承知の上で、どうも原作には登場しないと思しいあの万能洗脳注射を、「洗脳」の具体的画面的表象として出してきたのかもしれんが、そりゃ本作のような通俗サスペンスでサイコホラーの衣装を着たまま登場させてよいネタではないと思う。通俗サスペンスでそれを登場させたら、描くべきは「謎の密造工場」とか「悪の科学者香川照之の来歴」である。それが説明責任というものだろう。

全体的に『冷たい熱帯魚』なんかよりぜんぜん腕が上の映画だと思うが、当時すでに過剰演技で鳴らしていた香川照之にこの役をやらせてしまう辺り、予定調和感がぬぐえないのも問題。香川がどれだけキモ演技を披露したところで「アンタがそれくらいの演技出来るのは知ってます」としかならず、その意味では『冷たい熱帯魚』のでんでんのがはるかに応援したくなるワケである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?