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尚王家に継承された東道盆――Museum Collection #2  那覇市歴史博物館

全国の美術館・博物館が所蔵する古今東西の名品を、学芸員の解説とともに紹介する「ミュージアム・コレクション」。
『本郷』155号よりお届けします。

尚王家に継承された東道盆                  

 那覇市歴史博物館が所蔵する国宝「琉球国王尚家関係資料」は、琉球を15世紀末から19世紀末まで統治した尚(しょう)王家に継承された資料です。1217点の文書資料と85点の美術工芸資料からなり、資料年代は、文書資料が18~20世紀初頭の琉球王国近世期から大正期にあたり、美術工芸資料が16~20世紀で中世期(古琉球)から明治期に及んでいます。

 その一つである黒漆(くろうるし)雲龍(うんりゅう)螺鈿(らでん)東道盆(トウンダーブン)は、黒漆塗の合子(ごうす)容器に獣面の脚が付いた大型の漆器です。表面を雲龍文の螺鈿で加飾し、内部には漆塗りの小皿を収納しています。このような、蓋付で中に小皿を収めた器を中国では攅(攢)盒(さんごう)と呼び、東道盆はこの攅盒が琉球へ伝わり、脚付の形に変化したものとされています。

 東道盆(トウンダーブン)という名称は『春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)』にある「東道(とうどう)の主(しゅ)」に由来し、主人となって客の世話をする、という意味から転じ、琉球では神仏への供物や賓客へ料理を供する器をこのように呼びます。冊封使(さくほうし)の饗宴等の公式行事で使用された他、中国皇帝や江戸将軍家への献上品としても活用されました。尚家に継承されたこの東道盆も、王家内の儀式等に使われたものと思われます。

 東道盆は、漆器の製作技術と形状は中国から取り入れ、木材と漆は日本から輸入し、螺鈿の材料となる貝は琉球近海で採集したものを使用しています。その姿は、日本と中国という大国の狭間にあり、その文化を巧みに取り込みながら、独自の文化として発展させていった琉球王国の歴史と重なります。

      山田  葉子(やまだ ようこ・那覇市歴史博物館主任学芸員)

●黒漆雲龍螺鈿東道盆  19世紀(琉球王国時代末期)
木製黒漆塗 印籠蓋造り 内部の皿は漆塗
    縦35.2cm 横56.1cm 高32.8cm    国宝


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