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異世界で資本主義をチートする(前編)

 連載開始から好評をいただいている「資本主義をチートする」の本編は、いったんの完結となりましたが、すぐに「おまけ」が復活ということになりました。


 おまけというか、通常記事に戻っているので、口調がですます体ですが、とくに他意はないので、お気になさらずに。

 さてさて、「資本主義をチートする」の第1回から書いていたのですが、チート(=ズル・ちょっとした不正のようなテクニック)という概念が一般に知られるようになったのは、異世界転生もののライトノベルなどからでした。

 ざっくり言えば、現代社会を生きていた主人公が、異世界へ飛ばされて、右も左もわからないのだけれど、たとえば「本来の世界で何か特技を持っていた」り、「本来の世界の科学的知識を覚えていたり」して、それを活用しながら,あちゃらの世界ではヒーローになれてしまうという「ちょっとズルいお話」というニュアンスで使われるわけです。

 もちろん、↑のようになんだか微笑ましい可愛らしいチートもあれば、もう少しキナくさい、アウトなチート術もあります。こちらはオンラインゲームなどで、本来は正確に規定されているはずのパラメーターや持ち物をデータ的に改竄して「ゲームの中では無敵になってしまう!」みたいな仕業を「チート」と呼ぶこともあるわけで、こちらは犯罪です。


 というわけで、「資本主義をチートする」では、法を犯したりしない範囲を中心にしながら、「ちょっとしたテクニック」もあれば「あまり推奨されないグレーなもの」まで、いろいろな視点をお届けしたわけですが、まだお読みでない方は、ぜひご一読ください。

 無料の回だけでかなり役に立つと思います。


 さて、今回は異世界です。

「え?何を言ってるのこの人。現代社会を経済的に生き抜く話をしていて、突然異世界に飛ばされても、それは何の役にも立たないし、ファンタジーじゃん!」

というツッコミが入るかもしれませんが。ご安心ください。たしかにこれから異世界の話をします。それは今現在の現実社会とは異なりますので、僕たち私たちの生活とは、もちろん直結しません。

 しかし、異世界を通して、「今の社会を生き抜く術」がしだいにはっきり見えてくるのです。だから今回はあえて、異世界からスタートしましょう。


 ゲームやライトノベルにおける異世界の定番は、「ヨーロッパ風の外国で、かつ中世」みたいなところでしょうか。そこにドラゴンが飛んでいたりすれば、もうありがちです。

 しかし、今回は、和のテイストで行きます。古代日本と中世日本と江戸時代に飛ばされてみることにします。


 さて、ここで、あなたのおじいちゃんか、ひいおじいちゃんくらいを思い浮かべて欲しいと思います。今のあなたやお父さんは、もしかすると都市に住んでいるかもしれませんが、ひいおじいちゃんぐらいだと確実に「田舎」に住んでいた可能性が高いと思います。

 そのおじいちゃん家かおばあちゃん家は、農村で、たんぼや畑を持っていて、農家として暮らしていたという感じでしょうか。

 というわけで、ここで質問。

「そのおじいちゃんの持っている土地や畑は、いったいどういう経緯でおじいちゃんのものになったのか」

という質問を投げかけてみます。多くの人は、こう答えるはずです。

「いつのことかよくわからないけど、先祖代々うちはこのほにゃらら村で暮らしていたらしい」

と。

 「資本主義をチートする」の有料部分で、わたくしヨシイエが「日本の歴史に関する副業」をしているお話をしたのですが、それを踏まえて「なぜ、おじいちゃんたちがそこに代々いるのか」をざっくり言えば、次のようなことが8割以上の確率で言えます。

■ その村には、おなじ名字の人が複数いる。

■ それらの人が土地や田んぼを持っているということは、先祖は共通の可能性が高い。

■ その先祖は、そのあたりの土地をある程度まとまって持っていたから、子孫に分配することができている。

■ 先祖代々、土地を受け継いできたというのは、名字の最初の一人、もしくはごく少ない数名の先祖がいて、その子孫が増えたから。

■ たいていの場合、その最初の人物がそこに定着したのは戦国時代より昔。

■ 彼は戦力でその土地を奪ったか、あるいは権力によりその地の権利を認められたので、土地を所有する「領主」となれた。

■ つまり、その人物は武士かそれに準ずる身分であり、皇室の子孫か、あるいは貴族の子孫。

■ 結論から言えば、これを読んでいるあなたの先祖は、皇族か、貴族。

その確率は約8割以上。

ということなのです。


 ここで、いくつかビックリするような情報があったと思います。ひとつは

「うちの先祖は武士だったの?ずっと農民だったけど?」

ということ。そして

「うちの先祖は天皇の子孫だったの?ずっと庶民だったけど?」

ということです。

 この2点については、現在では誤解されていることが多いので、きちんとお話しておきましょう。

 あなたの実家や先祖が農民でも、「土地を持っている」領主であればほぼ武士と同じ動きをしています。ただし、それは江戸時代の武士ではなく、戦国時代の武士です。

 江戸時代になると「特定の藩に召し抱えられたものだけ」が武士を名乗り、名字帯刀を許されます。それ以外は実は名字を持っていても名乗れなかったので、その他大勢の姓のひとたちという意味で「百姓」と呼ばれます。

 秀吉の時代から江戸時代にかけて「検地刀狩り」という制度で「領地の確定と職業軍人と元武将の選別」が行われました。その結果、「土地持ち百姓(みなさんの先祖です)」と「藩に属する武士」が切り分かれました。


 ところで、戦国時代の武士とはどういった人たちだったのでしょう。武器を持っていて、武芸を持っていて、領地を持っているということは、「支配者層」であるということになります。

 現在の庶民の8割以上の先祖は、戦国時代に土着した支配者層のなれの果てなのですが、全国に広がった武士とはつまり「皇族の子孫と貴族の子孫のうち、本家を継げなかった者たち」ということになります。

 皇室に子孫が増えると、「天皇を継げるのはただ一人」ですから、その他大勢の子供たちは「臣籍降下」と言って、家臣の身分に落とされます。その際に「源氏」「平氏」といった氏族の姓を貰うのです。ですから逆に言えば、天皇家の本家筋には名字がありません。

 その他、有名どころでは古代から天皇家を支えた貴族の「藤原氏」なんかもいます。彼らの師弟は「本家の嫡男は、中央(京都など)で貴族となるが、嫡子を継がなかった者は、地方官僚として現地赴任する」ことが起きます。国司・郡司・守護・地頭など、時代によって制度や名称はいろいろ異なりますが、「皇族や貴族が地方へ移動して土着する」のは戦国時代までずっと続いています。


 はい、ここで答え。「なぜおじいちゃんの土地は、おじいちゃんのものなのか」。ざくざくざっくりですが、まずは「皇室が認めた貴族であるあなたの先祖の領地(もしくは監督地)だったから」ということです。

 荘園のように「個人の領地」が原点である場合もあれば「赴任地(本当は公の土地)を、土着することで自分の利権にしちゃった」のが原点である場合もあるので、厳密には難しいところですが、どちらにしても

「天皇家がここを領地と認めとるから、わしのもの(わしのコントロール下にある)なんじゃい!」

と主張することは同じです。

 とまあ、そこまではいいのですが、実際には朝廷の権威が失墜して、鎌倉時代にはもう「武士の世の中」になってしまいます。

 本来であれば皇室が「あんたどこそこへ行って管理してね」と指示命令していたのですが、鎌倉時代以降は「源頼朝」が、部下となった御家人に「おまえ、あそこへ行って管理してこい」と言います。

 だいたいこの辺で「皇族、貴族だった先祖が武将化」してきます。

 戦国時代になると幕府の統制が効かなくなるので、「各地で武将化した元皇族、貴族が自分の領地を増やそうと戦いまくる」ということが起きます。

 はい、戦国時代です。でも、信長、秀吉、家康が登場して、それぞれの領地の境界を決定します。支配権も区分けしてしまいます。

 それがさっきも出てきた「検地刀狩り」であり、区分けが確定したらもう「実力で争わず、江戸幕府の裁定に従いなさい」となるので、武器は取り上げられるわけですね。


 ここで大事なポイントがあります。

「武器を取り上げられ、武士ではなくなったけれど、土地はそのままで取り上げられたわけではない」

ということです。

 土地の所有権は、元武将である領主に残されています。ですが、江戸幕府や藩も自分たちのコントロール権もあるぞ!と言いたいので、仲良くかどうかはわかりませんが、半分こして

五公五民などの年貢

が決まってきたのです。かなり真面目に半分こですね。

 そして、もとの領主である武将たちは土地の権利を認められて「庄屋・名主・長百姓」などと呼ばれるようになりました。

「うちの先祖は庄屋だったらしい」

「うちの先祖は元武士らしい」

という伝承が田舎にたくさん残っているのはそのためで、それはすべて戦国時代から江戸時代初期にかけての動きを示しているわけです。


 ではここで、第1回目のまとめです。今回は主に、戦国時代前後の「中世」の異世界を見てきましたが、何がチートだったでしょうか?

 いったいどこがズルいのか。

 それは、あなたの先祖は、元々皇族や貴族だったということを利用して、今の土地を手に入れているからチートだ!ということです。

 庶民は勝てっこありません。だって相手は皇族や貴族なのですから。

 あなたが異世界で先祖返りしたら「いきなり騎士だった」とか「実は王族だった」とか、そんな感じです。

 チートだ!チート!ずるいぞ!ということですね。


 あなたは確実に、過去の異世界に飛ばされたら、高貴な身分です。そこらへんの庶民とは違うのです。

 というわけで忘れないでくださいね!あなたの先祖は庶民ではなく、(チートでずるっこな?)高貴な身分であったということを。 


 次回はもう少し遡って、古代に飛びます。

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