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ビートルズの4人の名前の意味

 世紀のスーパースター、ビートルズの4人は、「ジョン・レノンJohn Lennon」「ポール・マッカートニーPaul McCartney」「ジョージ・ハリソンGeorge Harrison」「リンゴ・スターRingo Starr」で組まれたバンドであることはご存知かと思います。
 リアルタイムで味わった世代ではありませんが、筆者にとっても初めて一通りの作品を聴いたバンドで、中学生時代にはよく聴いていました。
 さて、バンドメンバーの名前の由来については、触れられているのを私は目にしたことがありません。どこかで触れられているかもしれませんが、少なくとも目にした範囲では見たことがありません。そこで、今回はこの4人の名前について解説します。と言っても、今まで読んできた方なら一部答えは出てしまっていますが。


ジョン・レノン

 ジョン・レノンの本名(オノ・ヨーコとの結婚前)は「ジョン・ウィンストン・レノンJohn Winston Lennon」です。「ジョン」はすでに説明したとおり、ヨハネのことでした。では、レノンは何なのでしょう?実はこれもケルト由来の名前の例として最初の方でさらっと触れています。
 「レノン」は、ゲール語のÓ Leannánを英語化したものです。「恋人の子孫」を意味すると解されています。つまり、ジョン・レノンはアイルランドにルーツがあるということです。合わせて「神の恵み+恋人の子孫」という名前になります。

ポール・マッカートニー

 ポール・マッカートニーは、「マッカートニー」について「マク」の付く名前で触れています。「カートニーの息子」という意味です。ポール・マッカートニーの本名は、「ジェームズ・ポール・マッカートニー」で、ファーストネームのジェームズ(大ヤコブ)は父と同じであったため、ミドルネームのポールを使っていました。
 ポールはそれだけで1回を使ってもいいほど重要な名前です。ポールの元の形はローマの氏族名「パウルスPaulus」で、ラテン語で「小柄な」を意味しています。「パウロPaulos」はペテロと並んで重視される使徒で、東方正教会ではペテルとパウェル(教会スラブ語によるパウロの呼び方)は首座使徒とされています。ローマ教会では教皇はペテロの後継者と称しているので、パウロはペテロほどには重視されていません。なお、パウロはラテン語名パウルスのギリシャ語音写です。したがって、ポール・マッカートニーは、つなげて解釈すると「小柄なカートニーの息子」という意味になります。
 パウロという名前は各言語に伝わっています。
 イタリア語では「パオロPaolo」です。元イタリア代表のサッカー選手だったパオロ・マルディーニ、パオロ・ロッシなどが知られています。
 スペイン語では「パブロPabro」です。画家のパブロ・ピカソで知られる名前です。ピカソの本名はとんでもなく長いのですが、ここではその話は割愛します。
 ポルトガル語では「パウロPaulo」です。ブラジル人小説家のパウロ・コエーリョで知っているかもしれません。あるいは、ブラジルの都市名サン・パウロで知られています。
 その他、条件反射のことを「パブロフの犬」と呼ぶことは一般に知られていますが、パブロフは犬の名前ではなくソ連の生理学者イワン・ペトローヴィッチ・パブロフ(ヨハネ、ペテロ、パウロを要素に持つ)のことです。彼が行った動物実験のことを指しており、パブロフは「パヴェル家出身の」を意味する姓です。

ジョージ・ハリソン

 ジョージ・ハリソンの「ジョージ」という名前は、ギリシャ語の「ゲオルギオスGeorgios」という名前から派生したもので、ge-「大地」+ergon「働く」で「農夫」を意味しています。ge-の部分には大地の神ガイアが隠れています。
 ジョージは、ドイツ語で「ゲオルクGeorg」です。ドイツの王侯貴族に多くその名前を見つけることができます。「ユルゲンJürgen」もゲオルギオスから派生したドイツ語名であり、リバプールFCの監督だったユルゲン・クロップや元ドイツ代表のサッカー選手だったユルゲン・クリンスマンなどで知っているかもしれません。
 フランス語では、「ジョルジュGeorge」です。思想家のジョルジュ・バタイユで知っているでしょうか。
 イタリア語では、「ジョルジョGiorgio」です。ファッションデザイナーのジョルジョ・アルマーニはよく知られています。
 スペイン語では、「ホルヘJorge」、ポルトガル語では「ジョルジェJorge」です。ブラジル出身のサッカー選手には「ジョルジーニョJorginho」という指小辞-nhoがついた愛称の登録名がよくみられますが、本名はジョルジェです。
 ロシア語では「ユーリィYurij」です。日本語で音写したロシア語の名前のユーリィにはゲオルギオスから派生したものとユリウスから派生したYulijの2種類があるものの、つづりと発音が異なっており、前者がメジャーな名前です。
 ジョージから姓に転化したもので、わりと聞くのは「ヨルゲンセンJorgensen」というデンマークの姓です。ヨルゲンソン、ジョージソン、マクジョージ、ジョーゲンソンなど、あまり聞いたことがないかもしれない名前ですが、おなじみの形のものがあります。
 ハリソンはハリーに接尾辞-sonがついた姓で、「ハリーの息子」を意味します。合わせて「農夫+家長の息子」という名前になります。

リンゴ

 リンゴはリンゴ・スター以外で聞いたことがない名前です。本名は「リチャード・スターキーRichard Starkey」で、「リチャードRichard」の愛称のひとつがRingoなのです。
 リチャードは、rik「支配者」+harduz「強い、勇敢な」で構成され、「力強い支配者」というゲルマン語を語源とする名前です。典型的なアングロ・フレンチで、歴代イングランド王にいくつもその名前が見えます。
 ドイツ語では「リヒャルトRichard」です。歌劇作で有名な作曲家、ヴィルヘルム・リヒャルト・ヴァーグナーが知られています。
 フランス語では「リシャール Richard」です。ブルゴーニュ公リシャールという人物がいます。
 イタリア語で「リッカルドRiccardo」、スペイン語・ポルトガル語で「リカルドRicardo」です。元ブラジル代表のサッカー選手だったカカの名前で知られるリカルド・イゼクソン・ドス・サントス・レイチがいます。
 リチャードの愛称には、リンゴの他に「リックRick」「ディックDick」「ヒックHick」「リッキーRicky」「リッチーRichie」「リコRico」があります。また、これらの愛称から姓に転化した「ディクソンDickson」「ディキンDickin」「ディケンズDickens」「ヒックソンHickson」「ヒギンズHiggins」「ヒッグスHiggs」などがあります。

 リバプールという、かつて奴隷貿易の拠点として栄えた港町で結成されたビートルズのメンバーは、ジョン・レノンはキリスト教(ヘブライ語)由来+ケルト由来、ポール・マッカートニーもキリスト教(ラテン語)由来+ケルト由来、ジョージ・ハリソンはギリシャ由来+ゲルマン由来、リンゴはゲルマン由来というイギリスの歴史が垣間見える名前が集まっていたのです。

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