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【緊急無料寄稿】終身雇用前提の退職金への課税見直しの本当のねらい

YouTubeチャンネルで個人の方への専門チャンネル「退職金・企業年金コンサルティングチャンネル」の運営、講師をしております大森祥弘です。

このコラムでは緊急無料寄稿と題して、政府が6月中に策定する経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)において終身雇用を前提とした退職金の課税を改め、勤続年数による格差を是正する(要するに退職金への課税を見直す)ことについて、個人の方へ与える影響に関する私見を述べたいと思います。

YouTube動画はこちらからご覧頂けます

6/10(土)16時からプレミア公開です!
*当初、6/9(金)19時配信予定でしたが諸事情で配信が遅れすいません。

退職金の課税見直しの狙いは労働移動の阻害の是正ではない

退職金の課税を見直す理由は終身雇用を前提とした退職金は円滑な労働移動を阻害するからこれを是正するためだとされています。

具体的な課税の見直し内容は退職金の課税について、勤続20年以下か勤続20年を超えるかにより退職所得控除額が変わる(勤続20年を超えて退職する場合は退職所得控除額の計算式が変わり、勤続20年未満と比べ優遇される)ので結果、退職金はそもそも税金がかかりにくいのですが長く働けばより取られにくいのです。

理由は簡単な例を出せば、退職金が1,800万円支給される場合でも退職所得控除額が1,800万円を上回る場合には退職所得(退職金の税額を計算するうえで算出する金額)が0円になり、課税所得が0円なので税金が取られないというものです。

ということで、まとめると勤続20年を超えて勤務している場合には20年以下で退職する場合と比べて退職金へ税金がかかりにくいのです。

これについて、以前、政府の税制調査会の委員からは労働移動を阻害するという意見が上がりました。具体的なシーンは次のようなシーンでしょうか。

22歳で大卒入社、40歳で勤続18年、課長手前の方で管理職に上がりにくいから昇給が見込めず転職を検討。ただし、退職所得の控除額が20年を超えて、より退職金に税金がかからなくて済む勤続20年を超えるまではあと2年ある。42歳になってから転職活動は40歳前に行動するのと比べてリスキーだし、勤続20年を超える手前の今、退職金に税金がかかるなら転職はやめておこう・・・

こんなケース、YouTubeで個人の方から2年半に渡り視聴者の方から退職金や企業年金の受け取り方に関して山ほど相談を受けてきた私、会社員勤めの仕事(企業を対象にした企業年金、退職金コンサルティング業界というニッチな業界に10年超身を置き続けていますが)でも、一度も退職金の課税がネックで転職を躊躇されている方から相談をされたことがありません。

何が言いたいかというと、是正するという事情は生じていないのです。

例えば、就労条件総合調査でも外郭団体の調査でもなんでも良いのですが1万人を超える規模で統計をとって(過去10年位データがあって)、退職金の課税が労働移動を阻害しているといえる事実があれば良いと思うのですがありません。

言い換えれば根拠がない課税の見直しが行われようとされているのです。

これはなぜ退職金の課税見直しをするのか、事情を正直に言えばいいのではと思うのですが、私も霞ヶ関の役人みたいな組織にもおりましたが高等テクニックは「変えたい理由を出さずに、他の理由のついでに変える」というものです。

なぜなら事情に応じた真っ当な見直しの理由を真正面から出すと批判されて進まないからです。では、本当の事情と狙いは何かという点について述べたいと思います。
*1つ1つ解説していくととんでもない文量になりそうなので、コンパクトにまとめるつもりです。より解説してほしい内容がありましたらYouTube動画のコメント欄などで教えてください。

本当のねらい①構造的賃上げを行い、社会保険料を上げたい

昨今、議論されている少子化対策の財源について「大筋でやること決めたが、財源はまだ検討中」といった感じに受け止めています。

この財源の1つについて、私は社会保険料と想定しています。ただ、社会保険料の引き上げは手取りが減ってしまい、少子化の改善にならないと批判されてトーンダウンしました。ただ、社会保障から給付するということは何かで収入を得ないと成り立ちません。

それでどうするかというと、現在の仕組みをなるべくいじらずに保険料を上げて(税率を上げずに給与から天引きされる保険料を増やす)、厚生年金や健康保険、雇用保険を経由して子育て支援資金に注入するという流れになると思います。

給与から天引きする保険料を給与が変わらない前提で増やしてしまうと批判されるので、給与を上げれば、保険料が自然に増える(何もせずとも増える)というスキームが作れれば解決できます。

では、どうやって賃上げできない企業も含めて給与を引き上げるのかというと長期勤続すると退職金に税金がかかりやすくなるという形を作れば、普通に考えれば退職金に税金がかからず済む範囲内で退職金を考えるでしょうから退職金の一部(特に定年退職に近い、すでに長期勤続している層に部分)を前払いという形で給与に上乗せする。そうすると、社会保険料を計算する上での給与に前払いの退職金分も含まれますので、社会保険料は多く得ることができる(庶民からすると多く払うことになる)わけです。

これを真正面から言うと、退職金で貰えば社会保険料も税金もかからなかったのに結局、社会保険料の引き上げじゃないかと言われます。

全くその通りなので、退職金の課税見直しの理由は「円滑な労働移動を阻害しているから変える」ということになるのです。

本当のねらい②企業年金の受け取り方の違いによる税金の違いを軽減したい

次に退職金の課税を見直す狙いとして、昔から課題になっている企業年金の受け取り方による課税の違いを軽減したいというようにも捉えています。

一言で言えば、現状、企業年金は企業年金なのに年金で受け取るより一時金で受け取った方が損しないケースが多々あります。

これはYouTubeで視聴者の方から相談を受けてきて、強く感じていますがこの一時金を選んだ方が税金が取られにくいという理由で勤務先の企業年金の仕組みもよくわからずに大損するような形で一時金を選択するケースも見受けられます。

理由は企業年金の制度を作った、設計したことがない、金融機関の本店のなかなかしんどいところでの業務経験がないFPの先生が課税の問題だけで企業年金の受け取り方は一時金が得!とコラムに書いてしまうので、一時金で受け取る方がとても多いです。

一方、年金で受け取ると確定給付企業年金でも企業型確定拠出年金でもiDeCoでも年金支給額に7.6575%(約8%)の税金がかかります(取られます)。

企業年金は10年、15年といった決まった期間支給されるのが一般的です(勤務先によっては終身年金などもあります)。

この間、ずっと約8%取られ続けるので簡単に言えば、年金支給総額の8%は税金が取られるわけです。また、公的年金と同じですが、現役時代の給与のような扱いになりますので企業を完全に引退した後の国民健康保険料、介護保険料の保険料計算に年金収入が含まれます。

つまり、社会保険料や住民税といった現役リタイア後に天引きされる額が増えるので、年金受け取りというのは敬遠されています。

これを退職金の課税を見直せば、税金が取られにくいという理由で一時金を選択する方が減り、年金を選択する方が増えるでしょう。そうすると、社会保険料が増えます・・・

ゴールは同じで、社会保険料が増えるということに気づかないと庶民は転職キャリアアップの方が終身雇用より良いのだ!という意識高い系に引きづられますが、こういう事情です。

本当のねらい③iDeCoのメリットが強すぎるので抑えて、新NISA優位にしたい

次にiDeCoの話をしましょう。
iDeCoは平成13年位からあった仕組みで、個人型確定拠出年金といい最近できたものではないのですが、2017年1月から全国民が加入できるようになりました。

結果、老後不安もあり、受け取り時非課税、税制優遇、社会保険料が削減できる!をセールストークにネット系証券初め金融機関各社がプロモーションを行い加入者が激増しました。

当初、iDeCoは自営業者(フリーランス、第一号被保険者)に加入できる人は限定されていましたが先に述べた2017年の改正で会社員、扶養に入っている方も加入できるようになりました。

この加入対象を広めたのはどちらかというと国税庁と厚生労働省が調整したというより、第2次安倍政権で打ち進めた印象を覚えています。
つまり、この加入対象を広げたことで本来、課税対象に含めていなかった人が加入できているので変な状態になっています。

ちょっと細かいテクニックで私は反対なのですが、少子化対策と逆行することがiDeCoで2つできます。

簡単に述べると1つ目に児童手当の所得制限を回避する。
2つ目に社会保険(厚生年金、健康保険)の扶養の上限である130万円を超えていても、iDeCoをうまく使うと扶養の範囲内のままでいられる。

この2つです。ここの穴を塞ぎたいので、退職金の課税見直しにより、iDeCoはそもそも退職金と同じで加入期間が20年を超えると税金がより取られにくくなります。

このいわば”受け取り時非課税”の枠が縮まると、iDeCoは60歳まで引き出せませんから新NISAの方がよっぽど良いということになります。

結果、iDeCoの掛金を減らし、新NISAにシフトする庶民が増えると思います。掛金を減らすということは給与、社会保険料の対象となる金額が増えるということです。

これも結果、社会保険料は上がります。

本当のねらい④選択制DC(選択制確定拠出年金)による社会保険料削減の抜け道を塞ぎたい


最後に選択制DCについても触れたいと思います。
この選択制DCという仕組みは、YouTubeの視聴者の方には「選択」という言葉があったら選択制DCだと思ってくださいと説明しています。

簡単に言えば、年収を自分で調整できるような仕組みで、毎月の給与が30万円だったとします。このうち、3万円を確定拠出年金の掛金にするといったことができます。給与か退職金か選択し、退職金の場合は確定拠出年金の掛金にできるといった作りになります。

そのため、確定拠出年金の掛金にしますとその分、給与が低く見えますので社会保険料は30万円を対象に計算されるのではなく、27万円を対象として計算されます(確定拠出年金の掛金とした3万円は社会保険料の計算対象に含まない)。

この仕組みは厚生年金、健康保険料が労使折半(企業と社員が半分づつ保険料負担)ということもあり、企業負担分の社会保険料も削減できることから企業型確定拠出年金を導入したい金融機関を中心にセールストークとして使われてきました。

ただ、この選択制にすると述べたとおり社会保険料が減ります。
また、所得税、住民税も低くできます。

この仕組みは少子化対策で社会保険料を引き上げたい政府の方向性と逆行しているので、穴が埋められると思っています。

この選択制DCによる社会保険料削減スキームを塞ぐには退職金の課税見直しだけでは足りず、もう一押しが必要なのですが、テクニック的な話は置いておいて最近、話題になっている信託型SO(信託型ストックオプション)の譲渡所得と思っていたら急に国税庁が給与所得と言い始めたと同じように、急に選択制DCのスキームで掛金拠出した部分も給与所得と言ってくるのでは?と思っています(選択制DCははっきり国税がこういうスキームは課税しないと言った資料を見たことがなく、今から導入するのはちょっと危ないと思っています)。

この選択制DCの社会保険料”削減”が削減できなくなると、社会保険料は国からすれば増えることになります。

【まとめ】とにかく社会保険料を引き上げたい

本稿では触れませんでしたが、雇用保険も見直しが行われるようで短期離職で自己都合退職しても失業保険が受け取れる機会が増えることが見込まれます。詳細は置いておいて、社会保障からの給付が増えるということは当然に保険料は上がるということです。

最近は急に北欧の社会保障モデル(相応の負担を求め、相応の給付を行う)を追いかけていっているように思えますが、日本に合うかどうか、激変緩和を耐えられる国力があるかという視点が大事だと思っています。

というのも終身雇用を悪として年功序列を同じように捉えているようなのですが、私は終身雇用論者で、下手に労働市場を流動化させるよりは終身雇用の方がよっぽど生活が安定して、少子高齢化が改善されるのではないか?と考えています。

理由は終身雇用が雇用の本筋であった私が子供の頃、今から30年前の方が出生率が高いからです。

どちらかというと、年功序列や組織の硬直化が問題で、私はコロナ禍でANAやJALが行った在籍型出向を軸に転職せずに雇用契約は最初に入社した会社で結んでおいて、その後は本人のキャリア思考などを尊重してグループ外出向などを行って(そこで企業と労働者のミスマッチが改善されれば)下手に転職するよりよっぽどよいのでは?という考えです。

また、日本人は武士が誕生した時代から殿様に仕えるという文化の民族なので、私のYouTubeの視聴者の人生の先輩方が長期勤続、定年退職している現状を踏まえると何か問題が生じていなければ終身雇用で良いのでは?と考えています。

この点、国の方針というのは短期、中期で物事を考えるものではなく長期的な展望を描くということです。

長期的な展望が望めなければ、私も2歳の子供の育児真っ最中ですが、子供を考えている家庭が長期的な展望を描けず余計に考えすぎてしまって、子供が増えないということになるのでは?と思っています。

何かで少子化というのは即効性のある改善というのは難しいでしょうが、何かを変えるときには正しく伝えることが大事だなと改めて感じた次第です。

最後までご覧いただきありがとうございました。がんばってこのコラムも書いてみましたのでぜひYouTubeのコメント欄で感想、意見お寄せくださいね!