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ミームを通して成長したHIP HOP -寺田心からLil Nas Xまで- 【ミーム編】

「ミリオンを稼ぐ人、ミームを作る人」

「Some ni**as make millions, other ni**as make memes」

これは21 Savageの「A Lot」で、J Coleが残した有名なリリックだ。前半の「ミリオンを稼ぐ」というバースは、現に億単位の金を稼ぐJ Cole自身を指していることだろう。流石にここに疑問を抱く者はいない。ではOther ni**asとは誰のことを指しているのだろうか? これに関しては「Litty」の中でTory Lanezも似たような表現をしている。

「俺らは両方のMを生み出す。俺を笑うやつらはミーム(Meme)を作って、俺はミリオン(Million)を稼ぐんだ」

これは、決して6ix9ineら派手な格好のラッパーたちに対して向けられた言葉ではない。パソコンや携帯の画面上で、なんとなく有名人だからと弄ったり、揶揄したり、時には過激な言葉を使って攻撃している人に向けての言葉なのだ。J Coleもその後のバースで、6ix9ineにリスペクトを表している。つまり、ゲームに参加することなく、ただミームを作ってるだけの人々を少々批判的に表したリリックである。

もちろんJ Coleは素晴らしいラッパーだ。若干説教くさいところが文句言われるのもわかるが、世の中の問題点を明確に浮かび上がらせてくれる。このバースだって、人を中傷したり嘲笑ったりする、ネガティブなミームを受けて、J Coleから社会に対する提言だ。

ミームのメリットについても、J Coleは深く理解している。なぜならJ Cole自身もミームの常連だからだ。最近の活発なコラボで、その印象は薄れてきているが、アルバムにゲストをほとんど呼ばないことが、彼を示す、1つのアイデンティティになっていた。それに関する少し孤独で笑える画像が、J Coleあるあるのミームとして定着していた(上画像)。GQのインタビューでは、このミームに対して嬉しそうな反応を見せており、ポジティブなミームに対しては積極的に活かそうとしているのが伝わってくる。(ちなみにこのGQの表紙も「通学路に突然現れて、超お節介な人生のアドバイスを送るおじさんに似ている」とミームになっている)

J Coleは、小馬鹿にしたり攻撃的な言葉を送る対象に、ミームとして自分たちが使われていることを疑問として投げかけた。しかし、SNSを主戦場としている若いラッパーに響くことはなかった。なぜならバカにされることも、ヒットへの道になってしまったからだ。Bluefaceは自分自身への批判を継続的に集め続けたことで、有名になったといっても過言ではない。(J Coleはそれら全てを含めたシステム全体を批判しているのかもしれないが...)

もちろん、良い部分、悪い部分があるが、HIP HOPとミームは複雑に、そして深く絡みすぎてしまった。その結果、SNSは誰も制御できない、カオスなヒット製造機化してしまっている。

そこでこの記事を書いたわけなのだが、本当にコントロールすることは不可能なのだろうか? ミームの中でもコントロールできるものと、できないものがあるのではないだろうか? バズマーケティングなるものが存在している限り、この世の全てのものはビジネスになり得るはずだ。

ここから先、『ミーム編』はミームについて理解を深めつつ、『完結編』はLil Nas XやRae Sremmurdなど、SNSを通してヒットした具体例とともに、ミームとHIP HOPがどのように成長していったかを分析していきたい。

みんな大好きのミーム

まずは、そもそもミームって何? って方のためにいくつか日本で発生したミームを紹介したい。

こちらは、Youtuberのセイキンを利用した狙撃されるシリーズ。油が飛んだ際、オーバーなリアクションが狙撃されたように見えたことから、様々なパロディ動画が発生した。実際にこの狙撃ネタは、毒を盛られたとネタにされたのが始まりであるが、段々と毒ネタから移り変わっていったことになる。

その後はなぜかドライブ中の動画を編集した、事故動画がバズるなど、「セイキン」を共通のお題としたネタ動画選手権がSNS上で行われていた。

こちらも最近の代表的なミームで、寺田心くんの「ブックオフなのに本ねーじゃんwwww」という言葉が大流行した際、いろいろなネタ動画が出回り、最終的にはクオリティの高すぎるリミックス動画も作成された。

誰でも参加できて、なおかつ面白いものは評価され、いいねやリツイートを得れるこのモデルは、意識はしなくとも、誰もが共通認識として持っている考え方だ。しかし、基本的にこのシステムは二次創作の過度な評価であり、著作権の問題は未だアンクリアな部分が多い。

初音ミクなど、商業的な利点を評価して、条件次第では二次創作を認めているコンテンツホルダーも存在するが、まだまだ整備されていないジャンルであることには変わりない。


Memeってそもそも何の言葉?

そもそもミームとは、リチャード・ドーキンス博士が、1976年に本の中に記した造語で、「模倣」を意味するmimemeと「遺伝子」を意味するgeneの二つの言葉を掛け合わせてできた語だ。簡単に説明すると、遺伝子は人間の体を通して次の世代、そのまた次の世代と受け継がれていく。それを文化やアイデア、社会に置き換えたときに、同様の方法で自己の複製が作られ、進化を繰り返すのではないか、といった研究である。ムズイ。

現在ミームというと、インターネットミームのことであり、こんなわけわからない難しいものではない。ただ単にネットで流れてくるウケるもの全般が、ミームと捉えて問題ないだろう。とりあえずは「文化を通して考え方やアイデアが広がっていく」ということがわかればOKだ。混乱してくるのでこの記事内では、インターネットミームのことを略してミームと呼ばさせていただく。

4chanから始まった釣りという文化

ミームは2003年に設立された4chanを通して広まっていったもので、日本の電子掲示板、「ふたば☆ちゃんねる」を模倣して、アメリカでも作られたものである。この4chanに対してガーディアンは2008年の時点でこう評価している

「非常に愚かで未熟でありながら、面白くて馬鹿げており、心配な気持ちにさせるコミュニティーだ。4chanのユーザーはお互いに"釣り"のコメントを送り合い楽しんでいる」

4chanと音楽が結びついた事例として非常に興味深いのものがある。「Rick-Roll」という言葉をご存知ないだろうか? 説明すると、まず4chanユーザーが所謂"釣り"のコメントを残していく。2008年だと「ブリトニースピアーズのエロ画像が流出」「アイアンマンのダウンロードはこちら」といったところだろうか。そしてそのリンクを踏んだ者は、もれなくRick Astleyが爽やかに「Never Gonna Give You Up」を歌い上げるMVに飛ばされるというわけだ。この一連の行為を踏まえ、最終的に「I'm Rickrolled(釣られたよ)」となる。この動画はYoutubeで5億回再生されており、あの時の懐かしさから、最近はセルフリックロールをしている人もいるとかいないとか。

本当アホである。

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(google trendsより Rick Astleyの検索数変移)

上の画像でも分かる通り、何の新曲もリリースしていないのに、2008年4月に検索数が急上昇している。しかし残念なことに、この当時はバズマーケティングなるものが存在しておらず、彼にお金が回ることはなかった。ただ釣りの象徴となったRickは謎の知名度と微かな印税をもらっただけである。

この一連のムーブメントで言いたいのは、ミームにはトレンドを変えるだけの力があるということだ。

で、何がミームなの?

リチャード・ドーキンス博士はJust for Hitsのスピーチの中で、「アイデアのハイジャック」「心の突然変異」という言葉を多用している。その言葉を踏まえ、ミームには以下の流れがあると考える。

A: (4chanやTumblr、Redditといった共通認識の存在する空間に置いて)画像や動画、GIFなどを通して、模倣又はパロディのようなネタ、素材の発生

B: それに対するハイジャック、つまりはネタ被せの無限連鎖的な拡散

このAとBはこの後も引用していくので、覚えていただきたい。冒頭で、ミームとHIP HOPの相互作用についてコントロールできるのではないかと述べたが、完結編ではこのAとBを軸に、どのようにHIP HOPとミームが協力していったのかを書いていく。

使いやすく、そして、わかりやすく

とりあえずHIP HOPは置いといて、ミームについて深く知っておこう。まずはAに関することだが、ただAのままだけだと、ネットを支配することなくおもしろポストとして終わってしまう。Bに繋げなければ、ミームとは言えない。つまりはインターネット上の全ての人から、一発で共感や笑いを得れること、誰でも簡単に参加できることが必要である。

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この画像を見たことはないだろうか? これは1991年に名古屋テレビで放送された「太陽の勇者ファイバード」でのワンシーンである。主人公の火鳥勇太郎は、アンドロイドという設定のため、地球のことについてはあまり知らない。そのため蝶々を見ながら「これは鳩ですか? 」という奇妙なシーンが生まれた。この画像は2011年にTumblrユーザーによって掘り起こされ、汎用性の高さから上書きに上書きを重ねられ、ミームとなった。

28歳のセクシーな俳優(蝶々)を見ながら、「これは10代ですか? 」と尋ねる学園ドラマの熱狂的ファン。

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人生を指差しながら、「時間の無駄? 」と聞くあなた自身(絵のテイストも何か悟ったような趣が...)

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まさかのコスプレ

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最終的には、トランプが金正恩を指しながら「北朝鮮or韓国? 」と聞いているものまで出てきた。このミームに乗る上で重要だったのは、蝶々を差しながら、「〇〇」ですか? と問うところに、どれだけ多くの人を共感させられるかにかかっている。そこだけ抑えられれば、元ネタを知る必要などはない。むしろ知ってる人なんかほとんどいないだろう。

その共感ネタが底を尽きてくると、コスプレをしたりと新たな創作に移行していくというわけだ。ミームを考える上で、なにが有名になったは重要ではない。どのようにして有名になったかのプロセスが重要なわけだ。

ネタにネタを被せ流行するミーム、コントロール不能になることも

ミームは基本的に後乗りの文化なのだが、そのシステム故に、どんどんと元ネタを離れ、攻撃的になったり、感情的になったりと、暴走する可能性も秘めている。その悪い部分が露呈した例を見てみよう。

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このカエルに見覚えはないだろうか? 名はPepe the Frog、作者はイラストレイターのMatt Furie。Boy's Clubという漫画で登場する、4人(4匹? )いるキャラクターのうちの1人だ。なぜか彼だけが、4chanやTumblrの間で多用されるようになり、様々な画像が作成されるようになった。ここまでは、普通のミームとなんら変わらないのだが、Pepeに目をつけた団体によって彼は死を迫られる。

目をつけたのは共和党のトランプを支持するオルタナ右翼だ。彼らは、排外的で、白人至上主義であり、ナチズムであり、合法違法を問わない移民への反対主義であり...。とにかく彼らが目をつけたことで、Pepe the Frogはレイシストの象徴になってしまう。

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このようにトランプやKKK、ヒトラーのコラ画像も作られるようになると、作者のMatt FurieはPepe the Frogを自らの手で殺すことを決意する。

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クリエイターにとって創作物は命を吹き込むようなことであり、それを葬ることは心苦しいことであっただろう。本人の意思に関わらず、ネガティブイメージの広告塔になるこの事件は、ミームの悪い部分を浮き彫りにした。


朝起きたらあなた自身がミームになってるかも!?

ポストした側の人間が意図していなくても、使いやすく汎用性のあるものだったらミームに転換する可能性がある例を紹介した。一度SNSに打ち上げられると、そこからはブレーキとハンドルを失った車同然であり、良くも悪くもコントロールが効かないほどのパワーを持っている。ここまでは、キャラクターや画像だったが、リアルと密接に関わったことで、人生が一変した例も存在する。

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ハンガリー出身のAndras Aratoは、ウクライナで電気工学者として働いていたが、偶然に偶然が重なったことで一晩で有名人になっていた。SNSの有名人とは遠い存在にあるような外見だが、彼には言葉にできない魅力があった。

きっかけはトルコ旅行。観光の思い出としてその内容をフェイスブックにポストすると、その爽やかな笑顔からか、フォトグラファーからモデルとして起用したいと連絡が入る。快くそれを引き受けたAratoは、いくつか写真をとった後、ストックフォトサービスサイトのDreamsTimeに登録された。彼が関わったことは、たったそれだけである。このなんてことない流れが全ての始まりだった。

ゲームデベロッパーのFacepunch Studiosによって発掘されたこの画像は、すぐさま4chanに移行し、地味な人気を集めていく。YoutuberのChinnyxDは、様々なポージングを見せるAratoを面白がり、それを利用しようと考えた。そこで出来たのが大人気動画の「Hide The Pain Harold」だ。次々と移り変わるAratoのフリー画像を、淡々と解説していく動画は、爽やかな表情とのギャップが不思議と面白く、1週間で80万回再生を超えた。

気づくと「全ての人に愛される男、彼自身を除いて」という寂しいスローガンも出来上がり、爽やかな笑顔の裏には何か辛いことがある人というイメージが出来上がっていた。今まで散々彼の写真で遊んできたSNSユーザーだが、ある時一つのことに気づく。Aratoさんも若くない、生きているのかどうか誰も確認できていないということだ。なんせ彼は、自分を愛せないかわいそうな人(イメージだと)なのだから。

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死亡説が流れたこともあり、実際にSNSに登場することを決めたAratoは上画像をポストした。SNSとリアルが結びついた瞬間である。この画像は「生きてる! 」というユーザーの喜びとともに世界中に拡散された。

70歳を超えてからひょんなことから知名度を得たAratoは、ミームが元で海外に行くことが出来たり、TedTalkの依頼が来るなど、それなりに人生を楽しんでいると話している。

決してミームが悪いわけではなく、それがネガティブなエナジーに転換したSNSが悪いだけで、こういったケースも存在するというわけだ。

総括

リチャード・ドーキンス博士の残した「アイデアのハイジャック」という言葉が、どれだけ的を得ていたかわかる。どんなにくだらないものでも、誰が味付けし、どのように盛り付けするかで、全く別の作品が誕生するからだ。

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首の長い動物としてお馴染みのキリン。高いところにある草を食べるために、首が伸びたと教わったことがあるだろう。自分も子供の頃にテレビでそんなようなことをやっていた記憶がある。だが、この進化については謎が多い。なぜなら、キリンの首が伸びて進化をしたというなら、中間の首の長さのキリンが存在するはずだからだ。しかしそんなキリンは未だに見つかっていない。ミーム研究の基礎である進化論を軸として考えると、化石も見つからないほどのものすごいスピードで、進化したということになる。

ミームもキリンに近いものを感じる。今のSNSは、インターネット、テレビ、日常の生活、そこを切り取った全てのイメージが、ミームになる可能性を秘めている状況だ。素材の段階からミームまでの距離は、とてつもなく短く、速い。1日で何度でも切り替わるSNSの状況に合わせ、一瞬で進化した素材がミームになるというわけである。

誰でも参加できるが故に、その仕組みを理解しているものが得をするのが、バズマーケティングだ。なんでもかんでもバズればいいってものじゃない。今じゃ炎上商法という言葉も存在している。SNSを普段から利用している人なら理解しているだろうが、「怒り」という感情は、社会状況に関わらず常に存在している大きなエネルギーだ。そのSNSのネガティブな感情を利用して、社会を悪い方向に持っていくことが「クリエイティブ」と呼ばれるものなのだろうか?

Pepe the Frogの場合は、最終的にキャラクターの旗を持ってオルタナ右翼の活動をするものまで現れた。今やミームは、実際の生活を脅かす状態にまできてしまっている。SNSを活動のプラットフォームにしているものならば、倫理的に当然知っておくべきことだが、それを理解していない団体、アカウントもいるらしい。「動物アイコンの人には現実で会ってはいけません」のようなくだらないことではなく、SNSの暴走から、誰でも被害者、加害者になってしまう事実を学ぶ方が優先すべきことではないだろうか。

少し脱線したが、なんとなくミームについて理解していただけたら嬉しい。完結編はこれらミームを理解した上で、その考え方をHIP HOPに置き換え、どのようにバズマーケティングを行ったかについて取り扱っていく。


ここまで読んで下さりありがとうございます。『完結編』の方の記事は、以下のリンクからご覧いただけます


https://note.mu/yoshihiphop/n/n587320c5187e



written by Yoshi


source: 

https://eigo-net-slang-jiten.blogspot.com/2018/11/2018.html 

http://mh.rgr.jp/memo/hu0005.htm 

https://www.taikutsu-breaking.com/entry/best-of-internetmemes 

https://www.youtube.com/watch?v=lC0YQbLWjIM 

photo: https://youtu.be/w2Ov5jzm3j8 




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