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Bluefaceはなぜヒットした?

今回のBluefaceのヒットはどう受け取ればいいのだろうか? クールなラッパーが現れたと取るか、つまらないフェイクが現れたと取るか。意見は別れるところである。


2018年が終わりに差し掛かるとBluefaceという1人のラッパーが急にスターダムを駆け上がっていった。しかしこのヒットの構造は今までにない、かなり奇妙なものであったと感じる。

まだラップを初めて1年ほどと語っている通り、彼のラップスキルは疑問点が多い。完全にビートから切り離されたラップは、ビートとマッチしているとは言い難く、ラップも幼稚な内容で自分がどれだけワイルドかを示すものばかり。ビートを聴いてからバースを書いているとは言っているが、世間の反応は「嘘だろ?」といった様子。基本的には全曲1バースのみで構成されており、10曲入りのEPは20分ちょいで終了。「スタジオを3分しか借りれなかった」「ビートに乗れないんじゃなくて、ビートがついていけないだけ」など、大喜利の戦場となっていたのも事実だ。

ラップを始める前はオフィスワーカーだった

まずは彼がラップを始めた理由だが、実は数年前までは優れたアメフトプレーヤーであった。かなり有名な選手であったようで、クオーターバックとして奨学金をもらい大学に行くレベル。本名で検索するとアメフト時代の活躍が記事になって出てくるほどだ。自信に溢れた振る舞いは、スポットライトに当たることには慣れているという証明かもしれない。カリスマ性も見てとれる。

大学でアメフトから距離を置くと(depressionと曲の中で言っているが詳しくは不明)普通の職に就くこととなる。最初の仕事はオフィスデポでメンテナンスワーカーとは想像もできないが...

そしてその時期からカリフォルニアのラッパーともよくつるむようになる。その内の1人がTy Dolla $ignの従兄弟にあたるTeeCee4800だ。そこからスタジオに行く機会などを通してラップを始めるようになり、1年経たずうちにサンクラやSNSを通して「Respect My Crypn」がスマッシュヒットし、今に繋がっている。

「マーケティング、プロモーションでヒットする」

SNSで注目を集めるのには、面白さが重要であり、それは毎日のように更新、消費されていく。流行の移り変わりが激しい戦場において、プロジェクトチームがそれをハンドルするのはほぼ不可能であるとも言える。日本のSNSを例にあげると、最近はこれではなかろうか? YoutuberのSEIKINが、突然撃たれる動画が一時期バイラルしたが、本人がそれに気づき油を注ごうとしたところ、ネットの熱は一気に冷めた。HIP HOPだと、Quavoのソロアルバムの件がある。リリース後、アルバムの構造の単調さから、すぐに人気を落としていった同アルバム。そこでテコ入れとして考えられた策がDJTakeoffChallengeだったのだが、みなさん覚えているだろうか。しかし、基準の意味不明さとオリジナリティを出せる部分が少なかったのもあり、すぐにバイラルは死んだ。思えばTakeoffの動画がピークであった。

Memeは土地さえ整えていれば、その中で木が何本か育ってくれればいいシステムであるので、本人が1から育てるには運と時間と金がかかりすぎる。その点、ネタ(ネタといったら失礼だが)の供給だけは欠かさず、本人は我関せずだったBluefaceのSNSとの関わり方は終わってみれば成功だった。

彼の場合はSNSに問いかける形でバイラルを生み出そうとした。「カリフォルニアの新しいアーティスト、Bluefaceは🔥or🚮???」といった形で。その結果、リツイートを獲得しようと必死な我々は絶好の餌に飛びつき、一瞬でMemeを引き起こしたのである。

「テンポアレルギーのラッパー」「喋りたい時に限ってしゃっくりが出る人」「ヒップホップの歴史で最大のビーフ、Blueface vs Beat」といった具合にである。そしてネットの人々は団結力が高い、一通りバズると、次に行われたのはBluefaceをGOATにしようとする動きだ。

この一件は、何年か前に日本でも存在した「五条勝の人気投票事件」にも少し似ている。

この流れがわかっていると動画を見ずともリツイートを押しているかもしれない。しかしこのウクレレバージョンは、ウケることにちゃんとビートに乗っているのである。つまりこのあたりから段々とカオスが始まっていったのだ。彼が何者なのかジャッジする前に、すでにラッパーとして地位が確立してしまったのだから。

そしてBlueface自身もそれをわかっている。

「俺はこれから有名になって行くよ。頭の良さ、マーケティング、プロモーションでね。俺の曲は誰もが好きな曲じゃない。学校に行っていたし、ショーもしたことなかったから、バイラル動画を撮ろうとしたんだ。俺は自分で車の運転もするし、全部自分でやるさ、100%インディペンデントでね」

後にレーベル契約をするため100%とは言い難いが、アーティストとしての方向性は明らかにしている。実際バイラルするために頭を使ってるのは間違いない。Bluefaceが最初にショーをしたのは、LAのナイトクラブではなく高校だ。LAの高校を回り、音楽ファンではなく、一般の若い層から声を得ようとした。そしてその後しっかりとバイラルし、彼の作戦は結果として上手くいったのである。


誰のスタイルに似ている?

オフビートのラップは過去に多くのラッパーが披露しているし、全く新しいジャンルではない。ただこれだけ、新しいラップだと騒がれ広がるのは、HIP HOPを聴く層が一新したということなのだろうか? 

誰に似ていると言われる? という質問にBluefaceが答えた内の1人が彼だ。

「誰かにFreewayに似てると言われたこともあるが、まず誰だか知らない」2018年にLil WayneやFaith Evans、同じフィリー出身のLil Uzi VertなどをフィーチャーしたEP、『Think Free』をリリースしたが、西の若い人たちにまでは届いていなかったようだ。そして全く似ていない。誰が似てるって言ったのだろうか?

そして多くの人が比べるのがSuga Freeである。この曲は20年以上も前であるがビートから落ちているのがわかるだろう。ただSuga Freeの場合は時折オンオフのスイッチを使い分けているようだ。1バースしかなく全体通して驚いている間に終了するBluefaceにはないものであろう。カリフォルニアベースということもあり、比べたくなるのも納得である。そしてもう1人カリフォルニアのOGとして忘れてはいけないのがE-40だ。

一時期のベイエリアの興隆を支えていたE-40だが、時代と共にOGと呼ばれるようになり、ここ数年は若いカリフォルニアのアーティストを支える立場に移っている。BluefaceもE-40からのプッシュを受けている若手の1人だ。信じがたいことにBluefaceはSan JoseのコンサートでE-40をステージに上げている。「E-40が」ではない、「Bluefaceが」上げたのだ。

E-40のレーベルに所属しているJames TooColdを通してお互い知り合ったそう。そしてこの2人からは同じバイブスを感じ取ることもできる。「ラップが早すぎる? 聴くのが遅すぎるだけだろ? 」いかにもBluefaceが言いそうな言葉だが、何年も前にE-40が語った言葉だ。オフビート✖︎オフビートのコラボも近いかもしれない。

2019年はオフビートの年になる? 

Geniusが最近のラッパーに対して、オフビートばかり採用しているという指摘の動画をアップした。しかし、リズムの取り方が違うだけでオフビートと形容しているため、あまりピンとこない。最近のラッパーで言ったらやはりG Herboだろうか。

去年の今頃は空前のG Herboブームであったが、彼のラップは、緊張感のあるメンフィスビートと完全にマッチしていた。彼もビートとの相性が鍵だとわかっていたのだろうか、Southsideとのコラボアルバムも勢いを落とさずヒットしていった。ライターのTom Breihanも指摘しているが、BluefaceとG Herboは似て非なるものだ。Bluefaceの始めてからまだ1年しか経っていないラップは、意図的にビートから落としているとは言え、フロウが少なく、幼稚なワイルドさを伝えるだけにとどまっている。しかしG Herboが伝えているのは痛みだ。彼はシカゴで味わったものを、フロウやオフビートという技術を通して人々に伝えている。

シカゴから東に4時間ほど車で走ると、カナダとの国境にデトロイトという都市が現れる。距離が近いこともあり、この2つの都市間でのコラボは最近はよく見られるようになった。数年前の最強コンビLil DurkとDej Loafなんかもこの繋がりである。

少し脱線したが、デトロイトのラッパーも若干ビートから落ち気味な印象を受ける。しかしPitchforkの指摘からわかる通り、彼らのオフビートは意図的で計算されているようだ。同じデトロイト出身のBig Seanのラップは、音節を意図的にずらしてラップすることにより、全体としてグルーブを生みだした。Tee Grizzleyもこれと同じで、「Day Ones」や「How Many」で証明されている歌唱力を重ね合わせることで、自分だけの音を作り出した。

デトロイトで系譜されるこのオフビートの部分を強く受け継いだと思われるのがCash Kiddだ。最初のスマッシュヒットは2014年と少し遡るが、シカゴのビデオグラファーのJerry Productionが撮った「On My Mama」は、1000万再生を突破している。最新の曲から聞いてみよう。

完全にビートから落ちている。完全に。2014年からこのスタイルを確立しているだけあって彼がこのジャンルの先駆者なのではないだろうか? Cash Kiddはインタビューで「カリフォルニアとデトロイトの音楽は似ている」と認識しており、直接的ではなくとも、間接的にBluefaceに影響を与えている可能性は高い。去年リリースした「I'm On」では、Tee Grizzleyのヒット曲をいくつも担当しているHelluvaがプロデュースし、フロウはベイエリア出身Sob X RbeのYhung T.O.に酷似している。2つの都市の距離は離れていようと、相互に影響を与えているに違いない。

そしてオフビートのラッパーで忘れてはいけないのはGoonewだ。メリーランド州出身のアーティストだが、同じくDMX出身のアーティストの音とは明らかに違う。DMXのアーティストは各々に新しいサウンドを探し続け、最近ようやくこの地区にも注目が集まっているように感じる。Rico NastyやQ Da Foolは、Kenny Beatsと組むことで自分たちの音を身につけていった。Rico Nastyに関してはアイスクリームトラックからサンプリングするなど、サウンド面ビジュアル面共に、オリジナリティの点では群を抜いている。長年スポットライトが当たりにくかったこの地域が、新しいことに挑戦することで注目を浴びていくのは理にかなっているだろう。

Goonewの場合はストリートに固執した生活をしつつ、サウンドはアトランタから影響を受けている。Hoodrich Pablo Juanと交流があったこともあり、前のめりなPabloのラップがさらに前のめりになった形だ。

オフビートのラップが怪奇的なビートにエクストラ緊張感をもたらしている。彼自身意図的にずらしていると話している通り、ラップの技術はかなり高いようだ。一部のライターやエディターから、2018年はGoonewの年になると言われていたが、Goone自身は、毎月のようにテープをドロップし続けたことで、彼の音楽が飽和していることを実感していたらしい。作業ペースをスローダウンしてビートをしっかり選ぶと言った通り、2018年は成長することに時間を当てたようだ。2019年Goonewが戻ってきたら、天下を取るかもしれない。

Bluefaceの強みは何だろうか

Bluefaceはセルフマーケティングを通して得た知名度を利用し、多くのコラボをしようとしている。まずはシカゴのフィルムメイカーのCole Bennettとコラボし立て続けにビデオを2本ドロップした。「Bleed It」と「Thotiana Remix」どちらも1週間も経たずに1000万回再生を記録し、今も伸び続けている。そして興味深いのはCrips(青)とBloods(赤)という2大カラーギャングが普通にコラボしてることだ。数年前はかなり繊細なラインであったが、Blueface(青)とYG(赤)は問題ないようで、Thotianaに続き次のMVも作成中だという。

さらにThotiana Remix 2ndと思われるスニップでは、BloodsのメンバーであったCardi Bを呼び、真っ赤な撮影風景が広がっている。マーケティングを最優先においているBluefaceだからこそできる芸当であろうか。ホットなアーティストがコラボするのは、業界にとってプラスだろう。もし彼が架け橋になっているとしたら、思っているよりBluefaceの価値は大きいかもしれない。

ギャングから切り離したバイラル

6ix9ineはバイラルしすぎたことで、抱えきれないものが爆発してしまったが、Bluefaceの場合はギャングをネタに乗り変えた、新たな成功例になったとも言える。多くの若い才能あるアーティストが揉まれていく中で、これだけの違いを作ったことは評価するべきだ。DrakeとBoi-1daとの曲がヒットしたとなれば、ヘイターたちはさらに頭を悩ませることと間違いない。

written by YOSHI

参考


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