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Polo G 考察 | 21, 33から描くマイケル・ジョーダン

最近なかなかnote更新していなかったですね。私ごとですがちょっと忙しくなったのもありまして、アレでしたね。そろそろ書きたいこと書きたくなったので書きます。

ここ最近めちゃくちゃイライラするようなニュースが続きますが、好きな音楽について考える時間も必要だなと思い、こう時間をとってるわけです。

結構前にnoteでシカゴのシーンについてPolo Gについても触れてるので、見てないかたは是非です。

今回のアルバム『The Goat』なんですけど、タイトルには2つ意味があるそうです。GOATって文字はよく見るけど、意味わからないよーって方に簡単に説明すると、Greatest Of All Timeの略で、史上最高みたいな意味です。最近はシンプルに「神」みたいな意味で使われてますね。直訳するとヤギなので、よくアーティストはヤギをジャケ写に乗せたりします。最近だと、Lil BabyとかRich The Kidとかかな?

もう1つは彼が山羊座だからだそうです。それだけーて感じかもですが、シカゴという銃に囲まれた環境で育った彼にとって、生きて次の年を迎えられることは、我々とは全く異なる感情だということを強調しているように感じ取れました。Complexのインタビューの中で、山羊座に生まれた著名人として、レブロン・ジェームズ、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア、デンゼル・ワシントン、タイガー・ウッズの名前を引き合いに出して、自分と比較しています。彼にとって星座には、人一倍強い思いがあるようです。

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こちらが『The Goat』のトラックリストです。今は亡き同郷のJuice WRLDに加え、NLE Choppa、Stunna 4 Vegas、Lil Babyと一癖も二癖もあるようなラッパーが並んでいます。アルバムの最後を飾る「Still No Changes」は、2Pacの「Changes」と同じ、「The Way It Is」をサンプリングして世界中が驚いていましたね。タイトル通り、2Pacインスパイアなのは間違いないでしょう。

自分が気になったのは6,7曲目の「21」と「33」です。いきなり数字の楽曲が2つ並んでいるという違和感(私だけかもですが)が、拭いきれないなと。違和感というか、明らかに何か強調したい意図が含まれてるんじゃないかと感じました。

そこで21と33を、それぞれ自分なりに解釈した内容を書いていきます。深読みしすぎなんじゃ,,, と思う部分もあると思うので、あくまでそこはお忘れなく。

「21」

まず21から見ていきますが、この数字は2人のアーティストを示しています。もちろん1人はPolo G自身です。今年の1月6日に21歳になったということもあり、そのことでしょう。「毎日が誕生日みたい。最近21歳になった」というバースもありますね。毎日が誕生日というのは、そのくらい派手に過ごしているということです。

そしてもう1人のアーティストはJuice WRLDです。Polo Gの誕生日の1ヶ月前が彼の命日に当たります。彼らは同じくシカゴから始まり、アメリカ、世界に飛び抜けた数少ないアーティストでした。誕生日の6日後に、「21」をSnippetし、「RIP to Juice」の歌詞でトリビュートを行っています。Juice WRLDと自分を重ねることで、生と死を深く実感したことを考慮すると、『The Goat』のタイトルがより身に染みて感じ取れることでしょう。

全体通して見てみると、比較的に現在の状況について言及している部分が多いように感じます。フックの「トップに行くまでは止めれない」や、2ndバースの始まりの「ゲームに入ってから脅迫を受け続けてる」など、過去のしがらみを引きずりながらも懸命にキャリアを進めて行く姿が印象的です。

1stバースの始まりは、そんな状況の中で、もがき苦しみながらも、Juice WRLDの死を悲しんでいます。「彼と(自分の)最後のドラッグを摂取した」というのは、現実に向き合い、自分自身前に進むことへの決意表明の気がしました。何重の苦しみを乗り越えた先に、現在があるということを再認識させられ、シカゴで成功することの難しさを伝えています。

個人的に印象的だったのは、自分の成功をNBAプレイヤーの「ケンドリック・ナン」に例えていることです。彼ら2人のキャリアは重なる部分が多くあります。

2017年までは、彼らの名前は全く持って全国区とは言えませんでした。彼らの努力は、全く持って外の世界に開かれていなかったのです。2018年のNBAドラフトでも、ナンの名前が呼ばれることはありませんでした。この年はルカ・ドンチッチやトレイ・ヤングといった優秀なガードが多く排出された年でもあり、同ポジションのナンにとっては非常に厳しいものとなりました。

ここで一度NBAのドラフトについて簡単に説明します。NBAでは、毎年上位60名の選手がドラフトされます。その中でも契約内容は大きく分けて2つに別れており、1巡目である上位30名と2巡目である下位30名には大きな差があります。

1巡目にドラフトされた選手というのは、その時点で給料は完全に固定され、どの選手も最低2年3億円規模の契約が固定されます。ドラフトの中継などを見て、ここで大きな歓喜の声が聞こえるのはそのためです。1位指名のプレイヤーになると2年で18億円ほどになります。2巡目になると、保証がなくなりチームとの交渉権が得られるという、チームが圧倒的に有利な条件に変わります。それでも上位60位に入るプレイヤーというのはダイヤの原石ばかりなので、基本的には無保証の1-2年契約が多いです。稀に3-4年契約もありますが、本当に稀です。

そこでナンはというと、60位の外。つまりドラフト外になります。1度ドラフトにエントリーすると、次の年に挑戦することはできないので、基本的にはここからNBAの下部リーグに当たるG Leagueでのプレーか、海外リーグに挑戦などをします。ナンの場合は前者です。(ちなみにこの年のドラフト外選手には渡邊雄太もいます)

2018年になると、両者の名前は少しずつ世に知れ渡り始めます。Polo Gは「Finner Things」がYoutubeでスマッシュヒットし、多くのレコード会社から声がかかり始めます。ナンは所属する「Santa Cruz Warriors」にて、結果を出し始め、NBAのスカウティングチームにも目が止まるようになっていきます。

Polo GはColumbia Records、ナンはMiami Heatと契約を結ぶと、両者とも怒涛の快進撃を始めます。「Pop Out」が大ヒットし、「Die A Legend」もデビューアルバムとは思えない好成績を残すと、Nunnは11月のRookie Of The Monthを獲得。

両者ともシカゴを離れ次のステージ(Polo GはLA、NunnはMiami)で戦っているところも、妙にシンクロします。

Polo Gは地元にバスケットボールを通したコミュニティーを発足させるなど、精力的な活動を行ってきました。バズケットボールへの愛というものは、外から見ても明らかです。彼がリリックを通してもその知識の深さをアピールするのは、非常に感慨深いものがあります。アルバムにも「Martin & Gina」という楽曲がありますが、これは90年代のドラマからの引用して、恋愛関係をリリックに落とし込んだものになります。今いる位置に安心することなく、知識への限りない探究心が、原動力となっているのかもしれません。

「33」

「新しいグロックに33、スコッティ・ピッペン」

こちらの曲は、21とは打って変わって、シカゴのノースサイドがいかに危険かを伝える内容になっています。ここでの「33」は、33連マガジンのことで、マイケル・ジョーダンの最盛期を支えた、スコッティ・ピッペンになぞって例えています。

DJ Boothはこの例えについて、「こんな例え聴いたことがないし驚いた」と言及しています。自分の少ない経験からしても初めての例えでした。というのもピッペンのキャリアは、マイケル・ジョーダンの支えていたものとして、多くの人の記憶に残っており、彼を通して凶暴性を表すことは稀だからです。「後ろには俺がついてるピッペンみたいに」みたいなラップが多いですね。しかも1つ前の21では、自身の誕生日を素直に祝っていたにも関わらず、いきなりこの入り出しは急すぎます。目まぐるしいスピードで移り変わるシカゴの現状を、Polo Gのスキルで最大限に引き出したようにも思えます。

少し話は飛びますが、シカゴの表現として、数字と暴力性を表すときは「9」が扱われることが多いです。2016シーズンにシカゴブルズに在籍したレジョン・ロンドというプレイヤーと、9mm弾を掛けて語られます。またまた話は逸れますが、ピッペンの発音がピンプと似ているため、「Pimpin' like I'm 33」と上手いこと掛けたA$AP Fergはさすがでした。

33の内容に戻ると、フックではドラッグについてや、上記のピッペンの例え、Micky Cobra(ギャング)をレペゼンしたりと、ワイルドな部分を見せています。シカゴのことをその治安の悪さからChiraq(シカゴ+イラク)と例えますが、その言葉とともに1stバースが始まります。前半部分はシカゴのシーンをそのまま伝えるかのような緊張した歌詞が続きますが、「間違った道に進んでいたが、方向転換して正しい道に進んだ」から始まる後半部分は、少し過去に戻りこれまでの経験を振り返ります。過去に囚われることなく、そのまま力に変えられるよう、噛みしめるようにラップするようにも聴こえました。

2ndバースは彼の今は亡き友達であるGucciに向けての歌詞が印象的です。シカゴでは敵対するギャングを撃つことをスコアと言いますが、「Gucciのためにポイントを取れなかった」。つまりは彼のためにリベンジを出来なかったと、自分を悔いている歌詞が寂しく響きます。その少し前の「瞬きする前に、亡くなってる」と言うリリックや、「世界はもうめちゃくちゃになってる、こんなクソには疲れさせられる」と、このままサイクルを続けてもどうしようもないと憂くような虚無感も見られます。

Polo G自身シカゴを離れているので、とにかく前に進み続けることが彼の出した答えなのでしょう。そう考えると、ピッペンで銃を表現したのも頷けます。復讐のために銃を取るのではなく、頂点を取るために(自分を守るために)銃を取る道を選んだのです。このアルバムタイトルがGOATなのも、彼自身がマイケル・ジョーダンに他ならない存在だからです。あくまで銃は彼をトップまで導く、サポートでしかないのです。

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「13」

ただピッペンが出てきただけで、マイケル・ジョーダンと結びつけてしまうのは時期尚早のような気もします。ここでPolo Gと結びつきの強い13という数字についても触れておきます。

まず「Who Run It(Remix)」から見てみましょう。同じくシカゴ出身のG Herboが再び爆発するきっかけとなったこのチャレンジですが、Polo Gも参加しています。

「13歳の頃、ランチタイムでラップを始めてから、運命が決まってたんだと思う」という歌詞です。ミドルスクール真っ只中の年齢ですが(日本だと中学1年性)、その時には既に将来をみていたということでしょう。ただ、Polo Gの母親のインタビューを読むと、彼がラッパーになりたいと母親(現マネージャー)に伝えたのが、2017年あたりなので、心の中で夢を持ったのがその年齢ということですかね。

正直年齢はそこまで関係ないです。大事なのは次です。

Polo Gの歌詞には、よく1300という数字が出てきます。「Flex」「Lost Files」「Career Day」「Icy Girl」と過去曲から現在に至るまで、様々な曲で言及しています。「Battle Cry」から引用すると、

「1300から俺は来た。今でも変わらない」

とのこと。GeniusのVerifiedによると、とにかく活気がある場所で、家族のような存在と語っています。日本語で表現するなら地元ですかね。ただHOT97のFUNK FLEXで「1300に育てられた。ギャングじゃないなら、一緒にいれない」とも話していて、愛すべき地元であり、彼が変えようとしている場所であることもわかります。繰り返し1300を話すことで、一種アイコニックな数字にもなりつつあります。

ここで、21と33で話していたことを繋げます。この2曲は、バスケットボールに関するラインを挟んで共鳴させつつ、過去から現在まで結びつける素晴らしい展開でした。そんな彼は地元に信頼を置きつつも、そこから抜け出して新たなロールモデルになることを望んでいます。もちろんそれは、1300を忘れ去ることではありません。彼の考えるGOATというのは、地元の思いを常に内包している新たなヒーローなのです。

直接的なリリックで表してはいませんが、ピッペンを出したことからもマイケル・ジョーダンが彼のGOAT像で間違いないでしょう。

もうお気づきの方もいるかも知れませんが、マイケル・ジョーダン(背番号23)になりつつも地元(13)の思いを引き継いでいく、ということです。23の中に13を入れ込むと、2133になります。

ここまで引っ張りましたが、自分が伝えたかったのはこういうことです。

Polo G、かっこいいですよね。

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ここまでの内容とは少し変わりますが、今アメリカで起きていることについて自分も触れさせて頂きます。

このnoteを読んでいる方の中には、自分のツイッターアカウントフォローしてくださってる方も多いと思うのですが、アカウント始めた当初はNBAとHIPHOPで半々くらいの割合でツイートしてるアカウントでした。

その名残でこっそり別垢から、NBA好きユーザーのツイートを読んでたりします。そこで感じるのは、同じくアメリカで親しまれているカルチャーを異国で楽しむに当たって、ここまで感じ方に違いが出てくるのかということです。目的を失った暴動に関しては、自分も反対ですが、デモに関しても批判している声などをみると、彼らが差別や貧困に苦しんだ過去には一切目も向けず、自分が当たり前に楽しんできたものを守ろうとする考えのみです。もちろん彼らに対して責めるつもりはありません。

自分はHIPHOPに出会ってから大きく考え方が変わりました。それはHIPHOPを聴いているからと言って、自分が周りより優れた考えを持っているというわけではありません。

自分がこの年になってよく思うのは、経験したことがないことを想像する能力については、20歳を超えてから大きく差がついてしまうということです。

20秒で切り取られた動画を見て、黒人が暴動を起こしてると責め立てたり、誤訳や意訳を含んだ自分に都合のいいRTをして、なんとか整合性を保とうとする人に、現実を見させるには、相当な努力と労力が必要になります。

こういう時は知らず知らずのうちに陰謀論的な話にも頼りたくなります。白人左翼が暴動を過激化しただとか。もしかしたらそれは事実かもしれません。ただそれを受け取った人が現実に向き合って、実際の差別問題を改善しよう動くのでしょうか。またいつも通り、あっちの国は大変だねで終わるんでしょうか。

Xが亡くなったときに学んだはずです。罪もない人を犯罪者に仕立て上げて、1人のラッパーを殺人者扱いしたときに、安全圏から発せられる無自覚な言葉がどれだけ多くの人に恐怖を与えるかを。

ただ、4人の白人警官が1人の無実の黒人を殺害したのだけは、紛れもない事実です。その前日はKarenが公園で、無実の黒人を犯罪者扱いしていました。その前の月はジョギング中の黒人が銃撃され亡くなっています。何年も何年も前から、繰り返し起きていることをいつまで無視できるんでしょうか。

自分の届く声の範囲は限界があると思います。最近は2000年生まれの人からもフォローされたりすることもあって、すごく嬉しく思います。Twitterを見てると、高校生の人がこうした問題に目を向けて、同世代に声をかけているのもよく見ます。こうした声に世の中はもっと声を傾けるべきです。世代を超えて解決するには、非常に大きなエネルギーを使います。彼らが感じていることは誰よりも鋭く、説得力があります。

現状の私では、知識も言葉もまだまだ未熟で、誰かを引っ張っていくようなことは想像できません。ただ自分たちの世代は自分たちでこれからなんとか変えていかなければいけないのです。少しずつですが、どうしたら世の中に貢献できるかと考えています。自分も気づかないうちに色眼鏡を掛け過ぎて、常に対等な考えを持つことができなくなっていると思います。どうか皆さん危機感を持って、この問題を直視して欲しいです。


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written by Yoshi

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