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001『米から作る予言』#ショートショート(1509文字)

 OMOTIという名前の配信者は、「予言配信」がバズって一気にリスナーを増やした。彼女の予言は、配信中に募ったコメントを組み合わせて作られる。リスナーに適当に短い言葉をコメントしてもらい、無作為に選んだコメントをつなぎ合わせて文章を作る。それが予言になる。
「落とし物」「電車」「お腹すいた」「会社員」「明日」――明日、会社員が電車でお弁当を落とすか置き忘れて、空腹になる、つまりはお昼ごはんを食べ損なう――といったふうに。
 そして的中するのは、多くはリスナーの中の誰かだ。ちなみにこの弁当を忘れたリーマンは俺だ。
 こんな日常の予言ならカワイイものだが、時には大事件を予言してしまうこともある。
「公園」「水鉄砲」「ザ・ワールド」「赤ペン先生」――これらを組み合わせてOMOTIが予言したのは、どこかの公園で先生と呼ばれる立場の人間が、水鉄砲、何か銃器に類するものによって、時が止まる――つまりは、死を暗示する状態になるというものだ。
 さすがに人の生死に関することは気味が悪く、たちの悪い冗談だと受け止める者が多かった。本人もそうだったろう。予言配信は彼女にとっても遊びのひとつでしかなかったからだ。
 しかし数日後、とある大学教授が某テーマパークで、ジェットコースターの故障によって「射出」されて亡くなった。彼が「着弾」したのは水辺だった。
 この予言の反響はものすごかった。動画配信サイトはもちろん、SNSでも拡散されて、テレビでも取り上げられてしまった。
 というよりも、その亡くなった教授、もしかしてOMOTIリスナーだったのか。けっこうワイドショーとかのコメンテーターで見たことがあるからびっくりした。
 しかし、ここまで目立ってしまえば次に何が起こるのかは目に見えている。俺を含む古参リスナーたちが懸念した通り、OMOTIは大炎上した。
 ただ、コンテンツが急速に湧いては引いていくのも早い現代。数カ月後にはだいぶほとぼりが冷めて、その間、配信を休んでいた彼女も戻ってこれるようになった。
「マージで大変だった。亡くなった人、けっこう有名な人だったんだね。こっちは遊びでやってるのに、なんでこんなんなっちゃったのかな。もう予言やめよっかな」
 有料登録者のみの限定配信で、そんなことをぼやくOMOTI。炎上を経てほっぺをふくらませる彼女の姿は、まさにその名を体現していた。
 普段はコメントもせず視聴しているだけの俺だが、この時ばかりは何か励ましてあげたい気持ちが強くなって、気づけばキーボードを叩いていた。
『OMOTIの予言は当たってるようでハズレてるから気にするな。弁当を電車に忘れたリーマンだが、会社の同僚が弁当を分けてくれて昼メシ抜きにはならなかったぞ。それが縁で、その同僚が今の彼女だから感謝してるまである』
 出来の悪いラブコメかドラマみたいな話だから報告はしなかったが、こんなことを書けば他のリスナーやOMOTI本人から「嘘乙」とかバカにされるかもしれない。コメントを打ち込んでから少し後悔したが、意外や意外、みんなからは「おめでとう!」とか「すげー!」とか「末永く爆発しろ」とか、わりと祝福してもらえた。
「そんなことあるんだねぇ、おめでと! てか、そうなんだよね。予言っていっても無理矢理なこじつけ多いもんね。まぁでも、悪そうな予言は控えるようにするね」
 その言葉の通り、彼女の予言配信は少しずつ減っていった。それが目当てのリスナーも多かったから配信を見る人数も激減していったが、時折くり出される予言の的中率は相変わらず高く、そのたびに小さく炎上しては、彼女はぷくぷくと、その名の通り頬をふくらませるのだった。


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