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003『おばけ職人 夏の風物詩編』#ショートショート(385文字)

 今年もこの季節がやってきた。このために一年間準備してきたのだ。
「よし、次はFトンネルだな」
 丑三つ時。ワゴンからオバケを下ろし、梱包材を慎重に取り外す。
「ここは人気スポットだからな。肝試しの連中もたくさん来る。いい悲鳴をたくさん響かせておくれよ」
 白い服の女性の姿をしたオバケの頭を撫でながらそう言い聞かせる。彼女は生気のない顔で何の反応も示さなかったが、服をめくってヘソから息を込めると、ゆらりと動き出した。
 花火と並ぶ夏の風物詩、肝試し。それにはオバケが欠かせない。
 最近は粗製濫造の業者も増えてきて、オバケが人に危害を加えてしまうような事故も増えてきた。まったく迷惑な話だ。優れたオバケ職人は、人を怖がらせはしても傷つけはしない。
「さて、次の現場だ。まだまだ忙しいぞう」
 ワゴンにはまだ数体のオバケが眠っている。彼らも早く、人間たちの悲鳴を聞きたいことだろう。


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