和歌山に行きたくなって尻啖え孫市を読んだ

旅行に行きたい。

コロナ禍で東京から出られず、旅行欲が高まるばかりだ。

旅行欲が高まってきたとき、GoogleMapを開いて仮想旅行をしてしまいがち。

そんな仮想旅行で、地味に訪れる頻度が高いのが和歌山県。

仮想旅行で和歌山県を訪れる頻度が高い理由は、その場所が特に好きだからというわけではなく、実際の旅行で行きたい気持ちはあるものの優先順位が低いためなかなか行くことがないからだ。

例によってGoogleMapで和歌山県のあたりを見ていると、司馬遼太郎の「尻啖え孫市」を積んでいたことを思い出した。

尻啖え孫市

「尻啖え孫市」は、紀州の地侍集団、雑賀党の頭目、雑賀孫市を主人公とした小説。司馬遼太郎作品の主人公はどれも魅力的な人物として描かれる。この作品の主人公である雑賀孫市も、自由闊達で豪胆な生き様を演じながら、天下の織田信長を敵に回した大戦さをやってのける快男児として描かれている。

藤吉郎との関係

この作品の会話シーンは、テンポよく台詞のみで進んでいく箇所が多い。勢いよく描かれる戦さのシーンもあいまって、漫画のように読み進められる。

孫市を取り巻く人々は、孫市の発言・行動に振り回されながらもどこか憎めないこの男に親しみを覚える。

のちに天下人となる木下藤吉郎もその一人。

藤吉郎は、偽の娘を信長の縁者としてあてがおうとするなど、出会った当初こそ孫市を騙して味方につけようとしていた。ところが金ヶ崎での共闘などを通して友情が芽生え、たまらなくお互いのことが好きになってしまったらしい。

最終的に孫市と藤吉郎は、織田vs本願寺の対立の中で敵対してしまう。しかしそんな中でも友誼を忘れず、藤吉郎は堺で暗殺されようとしていた孫市を助ける。

紀ノ川沿いの戦場で敵として向かい合った際には、孫市は藤吉郎だけは生かしておこうとした。(藤吉郎はこのとき、本当にヤバかったのか孫市を本気で殺そうとしたが...)

最終的には秀吉の紀州攻めのとき、久々に藤吉郎との旧交を温めようと楽しみにしていた孫市は病死する(または藤堂高虎により謀殺される)という結末を迎えるが、孫市と秀吉の軽快なやりとりを楽しんでいた読者としては、最後の最後まで秀吉との友誼を保ってくれて嬉しい限りだった。

紀州と一向宗と石山合戦

雑賀党の所在地である紀州平野の一帯は、雑賀党をはじめとした地侍の連盟で統治されていた。孫市はその雑賀党の頭目であるため、紀州平野一帯をどの大名勢力の味方にするかという決定に大きく関与することができる立場である。信長の妹を見初めて妻にできたなら、あるいは信長に味方する可能性もあったのかもしれない。

しかし、いかに自由闊達で豪胆な生き方をする孫市といえど、当時の紀州の事情がそれを許さなかった。なぜなら雑賀党のほとんどが本願寺門徒だったからだ。

何年か前に「村上海賊の娘」を読んだときにも似たようなことが書いてあったが、当時の本願寺門徒は、地上の支配者(国人領主から大名まで)の支配よりも宗旨が優先しており、領主といえども門徒の意向が無視できないものであったらしい。詳しいことは割愛する。

この作品における孫市は結局最後まで門徒になることはなかったが、領民の要請(と美人の誘惑)により、石山本願寺に入り織田軍と戦うことになる。

孫市の率いる合戦シーンは、あの天下無敵の織田軍が面白いように蹴散らされていく爽快さが魅力的だ。小地域戦闘の天才・雑賀孫市が率いる、最強の鉄砲集団・雑賀党の迫力ある合戦描写は是非一読をおすすめする。

和歌山に行こう

いつのまにか本をおすすめする記事になってしまった。

和歌山県は紀州平野のほかにも、熊野古道や高野山など行きたい場所がたくさんある。でも行きづらい場所にあるから優先順位が下がってしまう。もったいない...。

コロナが落ち着いて和歌山に無事行くことができたら、梅干しを買って帰りたい。

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