相続放棄の申述をする
嫁ぐ日の前に、父から「財産はあてにしないように。」という主旨のことを言われた。そもそもあてにするような財産はないのだが、要は家も土地も田畑も弟に継がせる、という宣言だったのであろう。
だからといって結婚後に助けてくれなかったのかというとそんなことは一切なく、物心両面、特に子どもたちについては実家からいろいろと援助してもらった。
父が亡くなって、あのときの言葉を形にしなければ、と思った。相続人は母と弟と私の3人しかいないので、2人に対して口頭で「何もいらない」と言えば済む話かというと、そう簡単にはいかない。義理の両親と夫が亡くなった後の手続き一切を自分でやってみて心底そう思ったし、マイナンバーカードができて少しは楽になることがあるのかなと思ったが、相続に関しては全くなかった(年金手続きはかなり楽になっていたけれど)。
父名義の銀行口座の残金を引き出すにしても、父名義の車を廃車にするにしても、相続人全員の戸籍抄本、住民票、実印、印鑑証明書、父が生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍謄本が必要になる。
それくらいのことなら別に必要書類を取ってきてハンコ押して弟夫婦に預けることに躊躇はないのだが、問題は不動産。
実家とその宅地と田畑。それがすべて父の名義であればそれほど難しい話ではないのだけれど、父の父(私の祖父)、さらに父の祖母の名義になっているものまであるらしい。
元気なうちにこれらを全部整理しておくように繰り返し両親には伝えてきたけれど、結局は一切手がつけられないままだった。断捨離も同じく。
両親というか母にとっての「終活」は、もういらないものを家中の押し入れにきっちり詰め込むことと、貯金だった。もちろん後者はとても役に立っているけれど。
手続きを進める気にならなかった理由も、わからないわけではない。
父の父=祖父には祖母との間に父を長男として4人の息子がいるが、それとはまた別に子どもが2人いる、と、家を出てから知った。畑に道路が通りいくばくかのお金を受け取ることになったときには一悶着あったらしい。
だからこそ、士業の人に頼んででもきちんと整理しておいてほしかったのに、やっぱり手をつけていなかった。
相続人が増えれば増えるほど、手間がかかる。
もう私は生きているうちにじゅうぶんなことをしてもらったし、父に言われたことが30年以上ずーっと頭にあったので、相続放棄の選択をして「いちぬけた!」とやることにした。
自分が相続人になることを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申述すれば、すべての財産(プラスもマイナスも)を放棄することができる。弁護士や行政書士に頼むこともできるけれど、それほど難しい手続きではないので自分でやった。印紙代800円と郵便切手あわせて1,000円くらい。
ただ、戸籍謄本やら住民票の除票やらを取得する費用がかかるんだけど、それを入れても3,000円とかかな。
たいがいのことはググれば出てくるので、管轄の家庭裁判所に電話をしたのは必要な切手の金額を聞く1回のみ(各裁判所で異なると書かれていたため)。まずこちらの本家本元(裁判所のWEBサイト)を確かめてから、弁護士事務所や司法書士事務所のWEBサイトを参考にするとよいと思います。
自分が相続をすると知った日(複雑な事情がなければ亡くなったことを知らされた日)から3ヶ月以内、というわりと短めな制限があるので、四十九日で帰省したときに家庭裁判所に提出する、と決めて準備して、出向いたのが5月30日。必要書類と申述書の記載内容を係の方がすべてチェックし、ちょっとした書き間違いをその場で訂正して受領された。戸籍謄本などはあらかじめコピーして原本とセットにしておき、「原本を返却してください」と口頭で伝えれば、間違いなく原本のコピーであることをその場で確認して返してもらえる。
特に予約もせず、所要時間は10〜15分。
翌日の5月31日に確認の放棄する理由を確認する電話があり、口頭で説明するやりとりが5分程度。
翌週の6月5日には受理通知書が郵送されてきたんだけど、受理日が6月1日になっているので翌々日には受理されたことになっている。
「数週間かかります」と書かれているWEBサイトがほとんどだったので、ちょっと拍子抜け。
申述書には「どうして放棄するのか」という理由を書く欄と、財産の概略を書く欄がある。土地が何平方メートルだとか預金がいくらだとか負債がいくらとか。だけどここは「不明」と書いて全く問題ないそう。私も前述の通りの「ほったらかしの土地」がかなりある「らしい」という話を聞いてはいても、正確には知らないので「不明」と書いた。
家庭裁判所から「確認したいんですが」と電話がかかってきたのは「放棄の理由」についてで、私は「4 遺産を分散させたくない。」に〇をつけた。それで間違いないか、具体的にどういうことか、という質問だったので、「自分は土地がどうなってるか、貯金がいくらあるかは知らないけれど、いま生活しているところから引っ越す予定もなければ何らかの資産があってももらうつもりもない、母と弟が使えばよいと思っている。」と、事実をそのまま話したところ、はいそうですか、で話は終わり、「おそらくこのまま受領になると思います。」と電話は切れた。そしてその通り、翌6月1日の受領になっていた。
弟夫婦には、私が預かっていた父名義の通帳と一緒に父が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本、私の戸籍謄本と住民票も渡した。「相続放棄の手続きをしたけれど銀行のお金を出すときには私もハンコ押さなきゃいけないはずだからその時は言ってくれ。あとは何もいらないから好きにして。」と伝えたら、義妹は「そんなお義姉さん、まだお母さんも生きてるのに…。」とキレイ事を言うので、「そうやってずるずる先延ばしにするからダメなのよ。〇〇くん(甥っ子。彼らの一人息子)に苦労させたくないんだったら手をつけなさいよ。」と言ったら黙った。
スッキリしたとかそういう気持ちにはならないけど、こうやって一つ一つ片付けていかないと死ぬときに残った人が大変なのは、私自身がよく知っているから、仕事をしたぞ、という感じではある。
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