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縁のある男に会った日に、へびに咬まれた④

彼とは何か通じている感じがした、彼が送ってくることばは、わたしには深いところでよくわかるような、つながっているような気がして、そして、

私は1人目の縁のある男を思い出した。
もうあまり思うことがなくなっていたのに。2人目の縁のある男に出会うまで、私は本当にもう立ち直っていて、もう全然平気で、もうすっかり過去のことになったんだと思っていた。

再び、普通じゃないシンクロが多いな何かおかしいという状況に遭遇したことで、ある夜に私の中でぱかっと開いた。夜中に「私から離れた。」とつぶやいてから、滝のように涙が流れた。「大切で、大切にしたかったのに、私から、自分から、自分で選んで、私が。私は離れた。みんなと一緒にいないことを選択した。私が選んだから、もう、今一緒にいない。」

次の日起きたら、すっかりと膜ができあがっていた。
2人目の縁のある男のことを、わたしは、一人目の縁のある男を通してみている。色がない、透明、すこしぼやけた、空間がゆがんだような、分厚い、膜。それを通して、彼を見ている。「彼とも同じことになるのではないか。」「彼とも何かよくないことが続いて、大変なことが起きて、大変な葛藤が起きて、、」。彼をとおしてみる、彼。その時はぜんぜんつながっている感じがしなくて、知らない人とやりとりをしているような気持ちになった(知らない人なのだけれど)。

翌日に彼と何回かやりとりをしているうちに、割とすぐに戻ってきた。
自分がこんなにも奥深くのところで傷ついていたんだと、気付けた。頑張ってきたね、頑張ってきた、もういいよ、もういいんだよと自分に声をかけた。この今の私と、出会ってくれた君。今の私でなければ君とは出会っていない。膜がなくなった。

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やりとりをすればするほどに、縁があることがぐいぐいと押し寄せてくる感じ。縁がある、ということは、自分の深い所で負ってきた傷と向き合うようなことも起きるし、「え」ということが起きるたびにすごいと上にパーとなった後に、えー何か怖いなと下にズーンとくる、ことの繰り返しだ。そうこうしている内に、気軽にフェス行こう、くらいの感じが不安・重みでズシンとしてきた。彼には「あなたはトラウマがどんぶりにのかってやってきた感じだ」という話はしていなかったが、きっと、彼も何か重さ、感じていたのではないか。

私は相当に緊張しながら、当日を迎えた。
改札口で彼を待つ。下車する人が少なかったのもあって、すぐに彼だとわかった。目がきれいな人だと思った。
はじめは緊張して、何かしゃべりまくってしまったのだけど、すぐに安心した。やりとりをしていた時のままの人だった。

会いたかったアーティストを目の前で、一緒に見た。4mほどの距離。アーティストの身体から生まれる、音。私たちの体に伝わる、響き。こっそりと彼を横目でみると、彼はがぎゅっと左手を胸で握りしめていて、すごくすごく好きな人を見ている顔をしていた。

フェスの会場は山の中に芝生が敷き詰めらえており、他のフェスと違って子どもやわんちゃんがたくさんいて、薄いかすみの中をシャボン玉が飛んでいた。
「こども欲しい?…欲しいよね、こんな好きなんだもんね。」と彼が聞いた。私は家族という共同体をつくってみたい。それは結婚しているしていないに限らず。ひとりでも立っていられるけど、一緒にいるとお互いがもっともっと強く光れるような。2人でいたら、強い風に吹かれた時もお互いを抱きしめていられるように、見つめあって見失わないように。子どもはもう生めるかわからない年齢になってきていて、それは授かれば。血がつながっていなくても、気の合う子に出会ったら、一緒に暮らすのもいいかなと思っていた。でも、なんだかうまく伝わるかわからなくて「もう生めるかどうかわからない年齢だからどうかな。」とだけ言った。

彼は、今やる、やりたいと思っていることを全部やりたいから、子どもとかは考えられないと言った。私は、何か、それがとても彼にとって、切実な祈りのように感じて、絶対にやった方がいいなと思った。そして、あ、ポロっと好きだよという気持ちが出ないようにしなくちゃと心にとめた。

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夕方にはフェスを抜けて、旅館に着いて、飲みに外へ出てここまでとても優しい空気が流れて、美しすぎるくらいだった。

事件は、いつも突然に起こる、置いてきぼりになるくらいに。
お店から旅館まで200mほどの帰り道、わたしは毒蛇にかまれた。

暗がりの中だったが、普通にいつも歩く道だったのでライトをつけずに歩いていた。急に痛っと刺すような痛みが足にはしったけど、足を止めるような痛みではなく、普通にそのまま歩いた。そこから部屋に帰るまでに徐々に足が痛くて歩きにくくなって、あれ、これ何か刺されたかなと思いはじめた。

彼が温泉に入っている間に、痛みが増して普通じゃないなと感じて、ソックスに血がついているのを見つけて、あれ、これヤバいかもと。前にもこんなことあった人いるかもと思ってとりあえずフロントに相談しに行った。その時はまだ、歩けていたし、こんな大事になるとは思っていなかった。

フロントでは「救急車を呼ぶしかありません」と言われた。え、そんな、と思ったけど、今までにない足の腫れ方とにぶい痛み。もしかしたら、蜂とかかもと思って救急車をお願いすることにした。

彼には言えなかった。予想外の事態に心細くて涙が出たけど、彼はこの旅館に泊まるのをすごく楽しみにしていたし、前の日に寝てなくて、かつ彼にとって睡眠はすごく重要なもののようで、迷惑かけたくないと思った。あと、まだこの時はすぐ帰って来られるかもって。

病院に着くと、「マムシかもしれない。」死ぬ可能性もあるので、帰れません、入院してくださいと。マムシに噛まれるのは相当珍しいらしく、搬送された国立病院では昨年で2人しか患者さんがいなかったため、経験したことのある医師がいなかった。

マムシに噛まれたにしては腫れないな、ということで一旦退院になったが翌日に近くの大きな病院に行くことになり、やはりマムシかもと。経験のある医師が多い1番大きな病院へ向かうことになった。

「足の付け根まで内出血があってこんなに腫れるのは、マムシ以外の動物ではありえません。」ということでマムシに咬まれたことが確定した。急速に腫れなかったのは、甘噛みだったからではないかとのことだった。確かに優しいヘビだった気がする。

彼とは救急車で運ばれる時のやりとりのところから、うまく意思疎通がとれないというか、なんだかよくわからなくなった。彼に殻みたいなのができたように思えた。彼が群馬から帰った翌日に、SNSもLINEもぜんぶブロックされた。え、という気持ちと、なんとくそうだろうなとも思った。

会ってみたらイヤだったから、ヘビのこと相談しなかったから、そもそもヘビに咬まれなければ、会っている多くの人のただのひとりだから、自分と似てると思ったけど全然違ったのかも、家族のこと、重いことばかり起きるから、何だか怖いから、

頭に浮かんだ、けどわからない。多くの人に作品を見てもらってうれしいと言っていた君が、鍵アカにするくらいだから、私は君の毒にはなれたのだろうか。毒にも薬にもならないよりマシだ。

もっと君の痛みに触れたかった、頭をなでてあげたかった。私の痛みも話したかった。彼の書く小説は、痛くて許してほしい。そこまで突き付けられることば、に惹かれた。20代の頃の繊細で置いてきた自分。私には決して書けない、彼のことば。



君にはわからない。
私は君に出会ったこと、それだけで、もう十分だった。あなたが私の中に存在しはじめて、短い間にわたしは、君の想像がつかないくらいたくさんのものをもらった。君といるとじぶんのままで、自分の優しさを奪われない、あたたかいままの自分でいられた。会う前から、君がどんな姿かたちをしていても、一度会ってもう二度と会えなかったとしてもいいと思った。一度も会ったことがないキミから十分すぎるくらいの助けと癒しをもらった。

もうあの幸せな、1日にも満たない、あの日だけで。

君のさした傘に私が入って、しばらくして雨が止んで君が傘をとじた。カバンを取ろうとして、振り返った時わたしは君との距離が0だったことに驚いたんじゃない。こんなにもすぐそばに君がいるのに、あまりに自然であたたかな多幸感のなかに自分がいたことにびっくりしたの。

オバケを信じていないのに怖がりな君が、人通りの少ない暗がりをなんで怯えているのかはわからなかったけど、後ろから「わあ!!」って脅かしたら、かわいい声で「ぎやああ!!!!」て叫んで、やめてよお、野太い声でちゃったあと言って笑いあったあの時。

私にとってあなたは光だった。澄んで澄んで透明なほどの闇に、月の光のような。

ヘビに咬まれた毒は、私の内太腿までにかけて紫色のまだらな内出血をもたらした。2つ目の病院のお医者さんは、跡が残るかもしれないと言った。

残っていい、残らなくてもいい。


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