お花見とお墓参りと回転寿司

結婚してから初めて、実家のお墓参りに行ってきた。

実家のお墓のある墓地は、起伏のある道に長い桜並木があって、母と二人で桜並木を歩いてゆっくりお花見をしながらお墓に向かうつもりだった。

でも当日、母の出がけになって、父も来ると言い出したらしく、墓地の最寄り駅に父の車で私を迎えにきた。

これは、お花見はゆっくりできないかな、と思った。

車の後部座席に乗り込み、窓から流れる桜を眺めながら思いめぐらせていた。

子どもの頃、父方の祖母と母と2人の姉たちと私で、よく花見の季節にここに来た。
父は土日も仕事。私には一緒に出かけたり外食した記憶はなかった。

祖母はちょっと変わったマイペースな人で、子どもと出かけてもズンズン先に歩いていってしまう。
母はそんな姑との外出で、イライラ。子どもたちはそれぞれ、ピリピリ、ソワソワ、グズグズ...

今思えば珍道中で笑っちゃうけど、当時は嫌だったし、ぼんやりと思い描く、もっと楽しそうな“普通の家族”に憧れた。


でも、もっとハッキリ私の記憶にある頃には、祖母は私より歩くのが遅くなっていた気がする。
そして母が祖母を介護するようになり、私が中学の頃に祖母は亡くなった。


思えば、両親ももう、私の記憶にある頃の祖母の年齢と同じくらいだ。

母は病気で薬を飲まないと身体を動かせず、飲んでいても動作は遅くなった。
父は身体は割と動ける方だが、最近もの忘れが酷くて毎日バタバタしているらしい。

「今日はゆっくり桜を見られなかったけど、二人で歩こうとしてたのは、ちょっと大変だったかな?心配して父が車を出してくれたんだろう。」

そう思い直し、車窓からスマホで数枚、桜を写した。

姉たちは早くから一人暮らしを始めていたが、末っ子の私だけ36歳の昨年まで実家にいた。

一人二人と姉たちが出ていき、父の定年、姉の結婚、孫の誕生。

両親はその時々に、寂しそうな顔、嬉しそうな顔をし、成人した私に妙に世話を焼いてくるようになったり、孫が産まれてからは目尻を下げて可愛がり、何かの時に姉に呼ばれて孫の面倒を見に飛んで行くような姿は、私には新鮮に映ったし、思っていた“普通の家族”みたいだった。

3年くらい前に母が病気になってからは、父はリハビリのために毎日散歩に付き添ったり、できる家事は手伝ってくれるようになっていた。
昨年私が家を出てからは、母が退屈がるからと、二人で外食に行くようになったらしい。

あの父が。

ただし、父は好き嫌いが多いので、決まって行くのは回転寿司で、食べるのはマグロの握りと鉄火巻だけらしい。笑


お墓について、仏花を取り替え、お線香をあげた。
私は、おばあちゃんに、自分の結婚の報告と、離れて暮らす両親、姉たち家族、新しい私の家族を見守って欲しいと伝えた。
そんなたくさん無理だと断られそうだ。笑


お参りが終わって、また車に乗り込むと、父が振り返ってにこやかに言った。

「なんか食べに行くか。どこに行く?」

私もにっこり笑った。

母「またお寿司?」

私「うん、行こう、お寿司!」


みんなでたくさん食べて、実家に帰り、お昼寝をし、母と世間話をして、夜自宅に帰る電車で、私は一日の事を思い出して、少しだけ涙が溢れた。

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