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定住したい気持ちと、冒険にでたい気持ち

数えてみたら、9年間で9回の引越しをしていた。

22歳で働き始めてから、ごくごく小さな引越しも含めて9回。

東京のマンスリーマンション(1カ月)→福岡(1年)→富山(3年)→東京のアパート(1年)→東京の実家(3カ月)→タイ(2年)→東京の実家(2カ月)→韓国(1年)→東京の実家(いま)

という具合だ。

なんと、まぁ。

引越し生活のきっかけは、新聞社に勤務したこと。記者として福岡、富山で暮らし、東京本社へ。

そのあと会社を辞め、タイ・バンコクにある現地の会社へ転職。チャオプラヤー川沿いに立つ高層コンドの35階暮らしを堪能した。

その会社も辞めて、韓国の大邱という都市で1年間語学留学をし、東京に戻ってきた。

回数の多さに驚きつつも、道理で、と合点がいく。最近は、どこかに腰をすえて生活していきたい気持ちが膨らみつつある。たぶん、引越しに少し疲れたのかも。

でも、と思う。

まだ冒険に出かけたい気持ちも、たんまり残っているぞ。

まだまだ見知らぬ土地に行って、「へぇ」とか「うわぁ」とか呟きながら疲れ果てるまで歩き回りたいし、全く馴染みのない言葉を恐る恐る口にして、伝わったらにっこり笑い合いたいし、なによりいろんな人に出会って「こんな面白い人がいるんだ!」というワクワクを楽しみたい。

これはもう、自分の性質なんだと思う。
いつも見知らぬどこかでの、まだ見ぬ出会いを求めてしまう。

それは、必ずしも遠い国である必要はなく、一本違う道を通って帰るとか、ちょっと入りにくそうなお店に入ってみるとかそういうことも含めて。

じゃあ、この定住したい気持ちはなんだろう、と思うと、それは、自分の城を作りたい、ということなのかもしれない。

引っ越しするたびに、惜しい気持ちで思い返すのが、部屋との別れだ。

もちろん、そこで出会った人たちが一番の思い出なのは言うまでもない。大好きだし、くどいほどに「また会おうね」「連絡するよ」と手を握って別れた。恋しいけれど、人は会いに行くこともできるし、連絡ならもっととれる。

でも、あの時のお気に入りと思い出を詰め込んだ部屋には戻れない。

最初はよそよそしかった部屋を掃除して、家具をおく。ここまでは何てことない。

それから、取材で知り合った人がくれた木彫りのクマが玄関に、ラオスの少数民族の人たちがつくるタペストリーが窓に、旅先で出会って意気投合した人からの手紙が壁に、10種類以上の香辛料とハーブが混ざった、一振りすればなんでも美味しくなるスパイスが瓶につまっていく。

見知らぬ土地に慣れて、大切な人が増えるにつれて、わたしの部屋も温かくなっていった。

部屋のどこを見渡しても、お気に入りと思い出が詰まっていた。
確かにここで、人と繋がって生きているという感覚があった。

その感覚を手放して、またいちから作っていくことに、楽しみより寂しさが今は上回ってるのだと思う。

城を作ろう、と思う。
新たな発見と出会を求めて冒険に出るために。


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