春の日、2駅の旅に出た

そうだ、桜を見に行こう。

転入手続きを終えて区役所を出ようとしたとき、思いついた。入り口に桜の名所の地図があったのだ。

一人暮らしを始めたばかりの街から2駅。地図を頼りに行ったそこは、広い公園だった。

白っぽいモコモコした桜は満開で、その華やかな光景に圧倒される。

初めて見るソメイヨシノだった。私が生まれ育った北の街では、桜といえばエゾザクラ。細い枝にぽつりぽつりと花が咲く儚げな姿こそが、桜だと思っていた。

等間隔に並ぶ桜の下で、たくさんのお母さんと子どもたちがレジャーシートを敷いてお花見をしている。

私も近くのスーパーでジンジャーエールを買ってきて、桜を見ながらひとりで飲んだ。

たった2駅だけど、ひとりで桜を見に来たことが誇らしくて、実家の母に「桜を見に来てるよ」と言いたくなる。

携帯電話を取り出し、電話をかけようとして、思い直してポケットに戻した。

この誇らしさも寂しさも、独り占めしよう。

#旅する日本語 #和煦