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#ファーストデートの思い出

今日、この記事を目にした。

ほほう、ファーストデートね。

私はnoteのお題企画はだいたい書くことにしている。「どんなことを書こうかな」と記憶をたぐり寄せて、愕然とした。

私のファーストデートって、いつ、誰と、どこ行ったの……?

初めて彼氏ができたのは1回目の高校1年のときだ(登校はしていなかったけど)。おそらく、初めてのデートもその人が相手だったと思われる。

だけど、初デートのことがまったく思い出せない。初デートどころか、すべてのデートの記憶が曖昧だ。

なんだかなぁ……。

初デートの思い出がないことに、少し物足りなさを覚える。私も、「緊張して会話が続かなかった」みたいな初々しいエピソードが欲しかった。

人生におけるファーストデートは覚えていないけど、今の夫とのファーストデートは覚えている。

夫に聞いてみたところ、物忘れの激しい彼も奇跡的に(少しは)覚えていたので、私の記憶と彼の記憶をそれぞれ書き記そうと思う。

【SIDE A】

23歳の秋。

彼とは山小屋で出会って付き合いはじめ、私が一足先に契約期間を終えて下山することになった。彼は私の下山に休暇を合わせ、ふたりで縦走(山から隣の山へと歩くこと)してから下山。私は東京に帰り、彼は翌日、山小屋に戻ることになっていた。

しかし、彼の休暇が1日延長になった。そこで急遽、彼が東京に来ることになった。


待ち合わせは新宿。

待ち合わせ場所に行くと、彼が満面の笑みで手を振ってきた。自分で言うのもなんだけど、私に会えてめちゃくちゃ嬉しそうだ(昨日まで会っていたのに)。

だけど、私は「うわっ、一緒に歩きたくないな」と思った。

彼が、山小屋と同じ服装だったからだ。

ユニクロのオレンジ色のハイネックに(よりによってなぜその色!)、モンベルか何かのハーフパンツ、登山靴。タウンユース用のザックはホグロフスで、デザインは可愛いけどなんだか変なキーホルダーを付けている。

街中でアウトドアウェアを着ること自体は別にいいのだけど、テイストの問題ではなく、コーデが凄まじくダサかった。


そのあと、ウェンディーズに行った。

なぜウェンディーズだったのかは思い出せない。だけど、彼のチョイスとは思えないから私が言い出したのだろう。ウェンディーズのチーズディップポテトが好きだから、食べたくなったのかもしれない。

そこで何を話したのかは覚えていない。だけど、わりと楽しかった印象がある。

好きな人と一緒だから楽しい……というわけでは(残念ながら)ない。

彼とはまだ付き合って数週間だけど、もともとドキドキするような相手ではなく、彼氏というより仲のいい友達という感じだった。

だからこそ、わりとなんでも言えたし(服装のことも「山かよ!」みたいな感じでつっこんだと思う)、リラックスして話せて楽しかった。


その後は映画館に行った。

その直前まで山にいたから、今上映している作品の情報を何も知らず、何を見るか迷った。

そこで私は、決定的なミスチョイスをしてしまう。

あろうことか、「クローズド・ノート」を選んでしまったのだ。

公開当時、舞台挨拶で主演の沢尻エリカが「別に……」とふてくされて話題になったアレだ。

なんでそれを選んでしまったのかというと、原作が雫井脩介だったからミステリだと思ったのだ。

だけど、観てみたらラブストーリーだった。いや、別にラブストーリーが嫌いなわけではないけど、ラブストーリーって映画にしたときに面白くなりにくいし、事実、その映画は面白くなかった。

ストーリーの軸となる「ある偶然」が最初からバレバレで、まったく意外性がない。じゃあ単純に「惹かれ合うふたりの物語」として見ればいいのかというと、それも「別に……」といった感じ。エリカ様は間違っていなかった。

私は、こんな映画に付き合わせてしまったことを申し訳なく思った。

彼はあきらかに映画に退屈していたけど、酷評することはなかった。私が選んだ映画だから、気を遣ったのだと思う。


【SIDE B】

その日、夫は待ち合わせ場所に現れた私を見て、「なんか挙動不審だな」と思ったらしい。

「今思えば人ごみが苦手だったんだろうけど、そのときは知らなかったから。なんか、すごいビクビクしてるように見えた」

彼は、その日の私が黒い帽子をかぶっていたことが印象的だと言う。

当時の私は髪が長く、山小屋ではいつも頭のてっぺんで大きなおだんごにしていた。だけどその日は、髪を下ろして帽子をかぶっていた。服装は、黒地に柄のワンピース。

彼はそれを見て、「山とはずいぶん印象が違うな」と思ったらしい。


「そのあとは……たしか、どこかのファストフード店に行ったよね?」

ウェンディーズのことは漠然としか覚えていないようだ。けれど、彼が覚えていたことが意外だった。彼はものすごく忘れっぽいのだ。

「で、そのあとは……あ、『クローズド・ノート』観たよね。サキちゃんが観たかったんだっけ?」

「う、うん、ごめん」

彼は『クローズド・ノート』の内容をまったく覚えていなかった。

「うーん、正直、つまらなかったことすら記憶にないんだよね。でも、あれ以来DVDで観たりもしてないから、つまらなかったんじゃないかなぁ」

「初デートの思い出があの映画になってしまったことについてはどう思う?」

「初めて一緒に観た映画がつまらなかった、っていうのも逆に記憶に残るからいいんじゃない? 中途半端に面白い映画だったら、タイトルすら忘れてるかもよ。忘れっぽい僕が『クローズド・ノート』はタイトル覚えてるから、それだけ、印象は強かったんだと思うよ」

いや、タイトル以外忘れてるじゃねーか。

でも、彼の言うことも一理ある。

つまらないことで記憶に爪痕を残せたなら、初デートにあの映画を選んだことは悪くなかった。

もちろん、面白いことで記憶に爪痕を残せたら、そっちのほうがいいのだけど。

私と彼は、お互いに初デートのことをそこそこ覚えていた。

あれから11年が経った。その間、何度デートしただろう。たぶん、記憶から零れ落ちてしまったデートもたくさんある。

忘れてしまうことを、もったいないとは思わない。思い出は、またいくらでも作れるから。

さて、次のデートはどこに行こうか。


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