#ファーストデートの思い出
今日、この記事を目にした。
ほほう、ファーストデートね。
私はnoteのお題企画はだいたい書くことにしている。「どんなことを書こうかな」と記憶をたぐり寄せて、愕然とした。
私のファーストデートって、いつ、誰と、どこ行ったの……?
初めて彼氏ができたのは1回目の高校1年のときだ(登校はしていなかったけど)。おそらく、初めてのデートもその人が相手だったと思われる。
だけど、初デートのことがまったく思い出せない。初デートどころか、すべてのデートの記憶が曖昧だ。
なんだかなぁ……。
初デートの思い出がないことに、少し物足りなさを覚える。私も、「緊張して会話が続かなかった」みたいな初々しいエピソードが欲しかった。
人生におけるファーストデートは覚えていないけど、今の夫とのファーストデートは覚えている。
夫に聞いてみたところ、物忘れの激しい彼も奇跡的に(少しは)覚えていたので、私の記憶と彼の記憶をそれぞれ書き記そうと思う。
◇
【SIDE A】
23歳の秋。
彼とは山小屋で出会って付き合いはじめ、私が一足先に契約期間を終えて下山することになった。彼は私の下山に休暇を合わせ、ふたりで縦走(山から隣の山へと歩くこと)してから下山。私は東京に帰り、彼は翌日、山小屋に戻ることになっていた。
しかし、彼の休暇が1日延長になった。そこで急遽、彼が東京に来ることになった。
待ち合わせは新宿。
待ち合わせ場所に行くと、彼が満面の笑みで手を振ってきた。自分で言うのもなんだけど、私に会えてめちゃくちゃ嬉しそうだ(昨日まで会っていたのに)。
だけど、私は「うわっ、一緒に歩きたくないな」と思った。
彼が、山小屋と同じ服装だったからだ。
ユニクロのオレンジ色のハイネックに(よりによってなぜその色!)、モンベルか何かのハーフパンツ、登山靴。タウンユース用のザックはホグロフスで、デザインは可愛いけどなんだか変なキーホルダーを付けている。
街中でアウトドアウェアを着ること自体は別にいいのだけど、テイストの問題ではなく、コーデが凄まじくダサかった。
そのあと、ウェンディーズに行った。
なぜウェンディーズだったのかは思い出せない。だけど、彼のチョイスとは思えないから私が言い出したのだろう。ウェンディーズのチーズディップポテトが好きだから、食べたくなったのかもしれない。
そこで何を話したのかは覚えていない。だけど、わりと楽しかった印象がある。
好きな人と一緒だから楽しい……というわけでは(残念ながら)ない。
彼とはまだ付き合って数週間だけど、もともとドキドキするような相手ではなく、彼氏というより仲のいい友達という感じだった。
だからこそ、わりとなんでも言えたし(服装のことも「山かよ!」みたいな感じでつっこんだと思う)、リラックスして話せて楽しかった。
その後は映画館に行った。
その直前まで山にいたから、今上映している作品の情報を何も知らず、何を見るか迷った。
そこで私は、決定的なミスチョイスをしてしまう。
あろうことか、「クローズド・ノート」を選んでしまったのだ。
公開当時、舞台挨拶で主演の沢尻エリカが「別に……」とふてくされて話題になったアレだ。
なんでそれを選んでしまったのかというと、原作が雫井脩介だったからミステリだと思ったのだ。
だけど、観てみたらラブストーリーだった。いや、別にラブストーリーが嫌いなわけではないけど、ラブストーリーって映画にしたときに面白くなりにくいし、事実、その映画は面白くなかった。
ストーリーの軸となる「ある偶然」が最初からバレバレで、まったく意外性がない。じゃあ単純に「惹かれ合うふたりの物語」として見ればいいのかというと、それも「別に……」といった感じ。エリカ様は間違っていなかった。
私は、こんな映画に付き合わせてしまったことを申し訳なく思った。
彼はあきらかに映画に退屈していたけど、酷評することはなかった。私が選んだ映画だから、気を遣ったのだと思う。
◇
【SIDE B】
その日、夫は待ち合わせ場所に現れた私を見て、「なんか挙動不審だな」と思ったらしい。
「今思えば人ごみが苦手だったんだろうけど、そのときは知らなかったから。なんか、すごいビクビクしてるように見えた」
彼は、その日の私が黒い帽子をかぶっていたことが印象的だと言う。
当時の私は髪が長く、山小屋ではいつも頭のてっぺんで大きなおだんごにしていた。だけどその日は、髪を下ろして帽子をかぶっていた。服装は、黒地に柄のワンピース。
彼はそれを見て、「山とはずいぶん印象が違うな」と思ったらしい。
「そのあとは……たしか、どこかのファストフード店に行ったよね?」
ウェンディーズのことは漠然としか覚えていないようだ。けれど、彼が覚えていたことが意外だった。彼はものすごく忘れっぽいのだ。
「で、そのあとは……あ、『クローズド・ノート』観たよね。サキちゃんが観たかったんだっけ?」
「う、うん、ごめん」
彼は『クローズド・ノート』の内容をまったく覚えていなかった。
「うーん、正直、つまらなかったことすら記憶にないんだよね。でも、あれ以来DVDで観たりもしてないから、つまらなかったんじゃないかなぁ」
「初デートの思い出があの映画になってしまったことについてはどう思う?」
「初めて一緒に観た映画がつまらなかった、っていうのも逆に記憶に残るからいいんじゃない? 中途半端に面白い映画だったら、タイトルすら忘れてるかもよ。忘れっぽい僕が『クローズド・ノート』はタイトル覚えてるから、それだけ、印象は強かったんだと思うよ」
いや、タイトル以外忘れてるじゃねーか。
でも、彼の言うことも一理ある。
つまらないことで記憶に爪痕を残せたなら、初デートにあの映画を選んだことは悪くなかった。
もちろん、面白いことで記憶に爪痕を残せたら、そっちのほうがいいのだけど。
◇
私と彼は、お互いに初デートのことをそこそこ覚えていた。
あれから11年が経った。その間、何度デートしただろう。たぶん、記憶から零れ落ちてしまったデートもたくさんある。
忘れてしまうことを、もったいないとは思わない。思い出は、またいくらでも作れるから。
さて、次のデートはどこに行こうか。
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