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「ここ、電波入らないんだね」 旅館の浴衣に着替えた恋人が、スマホを見ながら言う。自分のス…
「あなた、あれすごく好きだったのよ。動物園に行くたび乗ってたわ」 母が目を細める。視線の…
太陽が反射してきらきら輝く水面に、小さな波紋ができる。 手ごたえ。動揺しながら釣竿を上げ…
夕暮れのテラス席でソフトクリームを食べる。高原の宿は大抵、ソフトクリームが名物だ。 空の…
チェックインを済ませてスーツケースを預ける。 振り向くと、両親は笑顔のような困り顔のよう…
大粒の雨が、ホテルの窓ガラスを激しく叩く。 「だめだこりゃ」 びょうびょうと吹きつける風…
一ヶ月かけて、スペインの巡礼路を歩いたことがある。夫とふたり、バックパックを背負って。 日の出と共に歩き始め、午後には巡礼者用の安宿にチェックイン。シャワーを浴びて少し昼寝して、起きたらその町のスーパーマーケットへ。食材を買ってきて、宿で自炊する。 私たちがよく買うのは、生ハム、チーズ、オリーブ、パスタ、バゲット、3ユーロでも十分に美味しいワイン。そして、トマトだ。 夫はトマトが大好き。ざっくばらんに積まれたトマトの中から、今夜の一個をじっくり選ぶ。真っ赤なトマトもあれ
駅を出ると、旅先の空は絵に描いたように晴れていた。曇天が多いと聞いていたから意外だ。 「…
そうだ、桜を見に行こう。 転入手続きを終えて区役所を出ようとしたとき、思いついた。入り口…
「思ったより都会」 俺がそう言うと、後輩は「初めて来た人、みんなそう言います」と笑った。…
登りきって視界が開けた瞬間、空の色が目に飛び込んできた。 空ってこんなに青かったっけ。そ…
「ほれ母さん、スリッパ」 「ええと、スリッパスリッパ……」 玄関まで出迎えてくれた彼のご…
3回目のデートで深大寺に来た。 木々の間を抜けると、お蕎麦屋さんやお茶屋さんで賑わう参道…
スーツケースを預けてロビーのソファに戻ると、座ってスマホを見ていた彼が 「あ、見て」 と声をあげた。 差し出されたスマホを見ると、待ち受け画面に「11:11」と表示されている。 「ゾロ目だ」 「なんか幸先いい感じ。良かったね」 ちょっと笑ってしまった。 「もう行く?」 彼が聞く。フライトまであと一時間と少し。 「まだここにいる」 「じゃあ僕も。お茶でもしよっか」 彼は自動販売機で紙コップのコーヒーをふたつ買ってきてくれた。鼻先に持ってくると、その香りにほ