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ヒモは才能? 根本宗子さん・立川志ら乃さんと「ヒモ論」を考えてみた

こんにちは。吉田尚記……ではなく、吉田アナの部署「ニッポン放送・吉田ルーム」所属のライター・田中嘉人と申します。突然すみません。

なぜ、吉田アナのnoteでぼくが書いているのか。

きっかけは、先日、吉田アナの「ミューコミプラス」に出演した劇作家の根本宗子さんから、吉田アナ宛に届いたこんなツイートです。

……え?どういうこと……?

吉田アナに聞いてみると、12/13(金)より上演開始する根本さんの舞台「今、出来る、精一杯。」が関係しているみたいです。

今作はヒモ男・安藤雅彦(演:清竜人)と彼を優しくサポートする神谷はな(演:坂井真紀)をはじめとする女性陣、そして安藤が働くことになるスーパーマーケットのスタッフたちの人間模様を描いた群像劇。そこで、「ぜひ、ホンモノのヒモに観劇してほしい」と思ったらしいです。

すると、吉田アナは、根本さんに対してこんなツイートで反応。

何を血迷ったか「ヒモシートを用意する!」と言い始めたのです。

すると、吉田アナのツイートに対して、とんでもない方からリアクションがありました。

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なんと落語家の立川志ら乃さん!!

そういえば、志ら乃師匠は今でこそ真打として大活躍ですが、落語家になったばかりのころは奥さまからかなりのサポートがあったそう。まさにヒモ男。さらに、スーパーマーケットにもやたら詳しく、「ヒモ」と「スーパー」を扱う今作のために生まれてきたような方なのです。

そこで、急遽、根本さん、志ら乃師匠、そして吉田アナとで鼎談をすることに。ヒモシートについて打ち合わせするつもりが、気がついたら「ヒモ論」を熱く議論していました。その話がとっても興味深かったのですが、吉田アナが多忙につき、ぼくがnoteでレポートすることになりました。

ぜひ最後までご覧ください!

「細いヒモ」と「太いヒモ」

根本:
志ら乃師匠、今日はありがとうございます。

志ら乃:
全然。というか、すごく適当なノリで来ちゃったけど、良かったのかな(笑)。

吉田:
そういうノリがいいんです(笑)。実際志ら乃師匠はTwitterのDMで連絡をくれたんですが、ヒモの方ってそもそも応募すること自体がめんどくさいらしいですよ。

志ら乃:
そういう意味では、俺はヒモ失格かな。すぐ応募しちゃったから(笑)。

根本:
行動力すごい。

吉田:
別途ヒモを養ってくれている方からも連絡をいただいたのですが、そちらは文面が非常に丁寧。このあたりの性格の違いってうまく言語化できないけど、妙に納得できません?

根本:
なんかわかりますね。

吉田:
というわけで、まずは志ら乃師匠がヒモになった経緯から教えてもらえますか?

志ら乃:
24歳で入門して、すぐに転がり込んだんだよ。今のかみさんのところに。

入門した当初、師匠の志らくが仲良くしていた劇団に送り込まれて、そこで出会いました。わたしが24、相手が29のときですね。当時かみさんはOLやりながら劇団の手伝いをしていて。

根本:
え?落語家なのに、劇団?

志ら乃:
その劇団の座長がね、「威勢の良い若い男はいねぇか」って話が師匠のところに来て、ちょうどわたしが入門したってわけ。3月の入門だったのに、8月の公演には出てましたね(笑)。

吉田:
なぜ奥さまのところへ転がり込むことに?

志ら乃:
稽古場が京成津田沼にあったんですが、当然交通費は出ない。すると師匠が、「お前、落語はいいから芝居やってろ」って。転々と劇団員の家を泊まり歩く生活が始まって、かみさんのところへ行く頻度が上がったわけです。

なんというか、うちのかみさんって家事能力がなかったんですよ。仕事と劇団を行き来するような生活をしていたから、炊飯器とかもなくて。わたしが家から家電を持ち込むようになって、だんだんと家に住むようになりました。

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根本:
家電を持ち込むんだ。

志ら乃:
だって、コンビニで米、自販機で飲み物を買うんですよ。高くついて仕方ない。こっちはびっくりするくらい金がないから、「麦茶を煮出そうよ」って。わたしはひとり暮らしをしていて家事全般はひと通りできたので。

吉田:
そういう意味ではお互いの需要と供給がマッチしたと?

志ら乃:
だと思いますね。

根本:
「ヒモで家事ができる」って大事な気がします。何もしないひともいますもんね。ただただ食べさせてもらうだけの。

吉田:
ストロングスタイルというか。

志ら乃:
だから、わたしは「細いヒモ」だと自覚しています。「メシつくれ、金出せ」ってタイプの太いヒモじゃない。

根本:
なぜ「細いヒモ」になれたんでしょうね?

志ら乃:
おそらくわたしの家庭環境に若干問題があってですね。

わたし、両親が楽しく会話している場面は見たことがないんですよ。家庭内別居というか、母親と姉に父親がやり込められていて。父親は父親で家に帰ってきたら戸を閉めて合わないようにするような生活だったから、「男は女の人に嫌われたらオシマイ」って刷り込まれていた。だから、太いヒモにはなれなかったんだと思います。

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根本:
なんというか……ものすごい話ですね……。

志ら乃:
ちょっと、そんなに引かないで(笑)。生まれ育った環境の話をしてるだけだから。

ヒモこそ、堂々とすべし

吉田:
一度、本題に戻りましょうか。根本さんの舞台「今、出来る、精一杯。」ですが、今回再々演ですよね。

根本:
そう。3回目なんです。

吉田:
ぼくは初演の映像を見せてもらったんですが、「自分は100%ヒモになれない」って感じたんです。独立心が強すぎるからかな……?

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根本:
吉田さんはなれないと思いますね。ということは、ヒモにも才能があるってことなんですか?条件さえ揃ってたら誰でもなれるわけじゃない?

志ら乃:
その通り。ヒモには才能が必要だと思う。もっというと「男としてのプライドがない」という才能が。

うちのまだ稼げてない兄弟弟子のなかにも女性と住んでいる人がいるけど、家賃は折半なんだって。わたしなんかは「女性が出してくれるって言ってるならいいじゃん」って思っちゃうんだけどね。たぶんわたしには「男としてのプライドがない」のよ。

吉田:
うーん……ぼくは少し違うかもしれません。ぼくは怖いんですよ。他の人の収入で生活することが恐ろしくてならない。

さっき志ら乃師匠が「女の人に嫌われたらオシマイ」って言ってましたけど、ぼくも養ってもらっていたらその人の機嫌をとるようになると思います。主要取引先や親会社のように。でも、上司の機嫌を伺いながら生活するのは全く向いていないので……だから自分で主導権を握りたいんだと思います。

志ら乃:
そこはわたしも同じだなぁ。上に頭下げるのは凄く苦手なんですよ。

吉田:
似ているようで違いますね。違うようで似ているというか。

根本:
「女性に嫌われたら終わり」みたいな考えは共通だけど、その先が違うってことなんですかね?吉田さんは「そうならないように頑張る」、志ら乃師匠は「頑張らないで生きていく」みたいな。

志ら乃:
そうなのかもね。

吉田:
そういえばぼくは父親、さらに祖父と婿養子が続いている家に生まれたんですよ。だから、基本的に「女性は尊い存在」と思っているところはあると思います。でも、ヒモにはなれない。やっぱり、ヒモは才能なのかもしれませんね。

根本:
昔テレビでタモリさんも「ヒモこそ堂々としなきゃいけない」って言ってました。「お金を出してもらって申し訳ない」みたいな顔をすると、相手に失礼だって。

志ら乃:
そうそう。当人が「お金を払いたい」って言ってるのに、邪魔するのは一番失礼なことよ。優先すべきは「金をもらうか、もらわないか」じゃない。「当人が気持ちいいか、どうか」でしょ。一番気持ちよくなってもらえる方法を選択してるだけだから。

吉田:
相手を忖度するという意味では同じだけど、最終的に申し訳なさそうにするのは下手、と。

志ら乃:
「ここはわたしが出すからね」「本当に?でも……」「出すって言ってるじゃん!」みたいに会話のラリーも1回多くなるからね。「ここで私が受け止めた方がお互いのためだ」と思ったらやめればいい。

根本宗子、実体験からヒモを語る

吉田:
ちなみに根本さんはヒモを養ったことはあるんですか?

根本:
……あります。

吉田:
やっぱり(笑)。

根本:
そのひとはたまにバイトには行ってましたけど、基本的に家賃はわたしが払ってましたね。20代前半の頃の話です。

吉田:
養うことになった経緯は?

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根本さん:
元々役者として好きで。役者の仕事だけじゃ食べていけないから、バイトをいくつか掛け持ちしていたんですが、バイト先のひとつに元カノがいて。

「私と付き合うんだったらそこは辞めてほしい」って言ったんです。そうしたら、掛け持ちしていたバイトを全部辞めてきちゃった。そういうことじゃなかったのに……。

志ら乃:
え、ダメ男好き?それとも共依存?

根本:
昔は共依存もあったと思いますが、25歳ぐらいから変わってきました。

志ら乃:
よく変われましたね。

根本:
確かに。ずっと変われない人もいますよね。

わたしが変われた理由があるとしたら、仕事があったからかもしれないです。やりがいがあって、やりたいことが尽きない状況だったので「これ以上このひとにかまっていたらこっちがおろそかになる」と感じるようになって。もうバッサリと。でも、こういう仕事じゃなかったら、ずるずる引きずっていたかもしれないです。

吉田:
やりがいじゃなくて単に収入のための仕事だったら……確かに、そういう判断は必要なかったかもしれませんよね。

根本:
そうですね。あとホストからも学びました。

吉田・志ら乃:
ホスト??

根本:
ホストの話書くときに、半年間取材でホストクラブに通ったんですよ。作家ということを隠して。あるホストを好きになった化粧品会社のOLというテイで。

吉田:
設定が細かい(笑)。

根本さん:
そのホストは22〜23歳の男の子でした。それも、お店ではお金を使ってもらうけど、そのぶん同伴もアフターも全部自分で出すホスト。お店で使わせようとするんですけど、やり方がそんなに上手じゃなかったんです。だんだんわたしがお店で出しているお金よりも、外でわたしに使ってくれているお金の方が高くなっていって。

でも、彼は「外では男が出すべき」という考え方。ホストって「女性からお金を貢いでもらう」というイメージが強かったんですが、彼は普通にホストとして稼いだぶんをわたしに使ってくれた。なんというか……誤解を恐れずにいうと「ヒモよりもちゃんとしてる!」と感激したのを覚えています。

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志ら乃:
ヒモと職業の因果関係ってあるのかな?勝手なイメージだけど、ホスト、芸人、バンドマンあたりってヒモになりそうじゃないですか。でも、それよりも元々の素質なのかな??

根本:
素質だと思いますよ。だから、ヒモを育ててしまうことがあるんですよ。ちょっと素質ある人がわたしと付き合ったばかりにヒモになってしまったというケースもあるし。

吉田:
ヒモを育ててしまう、か。根本さんが感じるヒモの素質って何ですか?

根本:
わたしの経験上ですが、ヒモになるひとってお金を稼ぐ段取りがものすごく悪いんですよ。求人誌には時給1000円のバイトがわんさか載っているのに、時給750円のバイトでコツコツ稼ぐような。そういうひとってヒモを育てる能力のある女性が寄ってきやすくて。そして「出してあげるよ」ってされているうちに、750円のバイトがバカらしくなって、ヒモになっちゃうという連鎖はありますね。

吉田:
ふ、深い世界ですね。逆に、お金を稼ぐことが好きで、得意な人はヒモの素養がないってことかもしれませんね。

ヒモを養っている女性から届いたDM

吉田:
今回、Twitterで募集したわけですが、そのなかにもヒモを養っている女性がいまして。残念ながらスケジュールの都合で来られなかったんですが、すごく心に残るDMを送ってくれたので紹介させてください。本人の許可はいただいています。

彼女はヒモの男性に今回の企画を話したら、「俺は行きたくない」って言われたそうなんです。それどころか、自分が彼女に養ってもらっている自覚がなかったようで。

根本:
どういうことですか?

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吉田:
えっと、この女性は30代前半で、彼は20代後半なんです。いただいたDMを読みますね。

「彼は同じ会社の後輩でした。部署は違いましたが、すれ違えばひと言ふた言話す程度。そして、彼はよく上司に怒鳴られていました。そんなに広くないフロアなので私のところまでよく声が聞こえていました。彼と一緒に残業していたときに『お腹空いたね』『ご飯行こうか』みたいな流れで食事へ。そしたら意外と、話が合い仲良くなりました。その後、何回か食事や遊びに行って、お付き合いすることになりました」と。

志ら乃:
ほうほう。

吉田:
続けますね。

彼がヒモになったきっかけは、仕事を辞めたことでした。付き合ってみて、彼は仕事に対して真剣でないことを知りました。でも、プライベートでは私が世話を焼いて、職場も同じ。その気の緩みもあり、上司に怒られることがさらに増え、ヤケクソになって仕事を辞めてしまいました」。

根本:
なるほど。

吉田:
「勢いで会社を辞めたことを、彼はしばらく引きずっていました。わたしは、落ち込んでいる彼をひとりにさせてはいけないと思い、仕事が見つかるまで同棲することにしました。最初はせっせと転職活動に励んでいて、私が仕事に行っている間は、掃除や洗濯、料理までしてくれて『専業主夫もありかな』なんて思いました。

ですが、私の収入も多くないので、ふたりぶんの生活費を払うことはかなり大変でした。その頃です。彼は、地元の中小企業より都会で仕事をしたいと何やら迷走し出したんです。都会の企業への面接の交通費もわたしが出しました。でも、雇ってくれるところはありませんでした。そして、いま、彼はもう仕事探しをしている様子はありません」。

根本:
あらら……。

吉田:
「今回の根本さん、吉田さんの企画の話を提案したら、養われている自覚がなかったことがわかりました。さらに大げんか。2〜3日で少しは落ち着いたけど、いまでは働くことを条件にわたしの部屋に住んでいます。が、お金が貯まったら、出て行ってもらいます」。

志ら乃:
うわぁ……。

吉田:
「同棲が始まって、彼は変わりました。家事はやらなくなりました。食費のために渡しておいたお金を課金に使われていました。食事をつくっても感謝されなくなりました。仕事から帰宅したときの『おかえり、お疲れさま』がなくなりました。それどころか、帰宅すると鬱陶しそうな顔をするようになりました。そして、私が怒ると『俺は仕事してないのに!』と謎の反論を受けるようになりました。『俺は仕事を辞めて傷心だから優しくしろ』ということらしいです。数ヶ月居候させるだけの予定だったのに、気づけば1年になろうとしている。その1年を『記念日だね!』と喜び出す」。

根本:
なんとも……。

吉田:
でも、やっぱり家に帰って誰かいるのは嬉しかった。ご飯を一緒に食べて、一緒に眠れる生活はとても幸せでした。私もそろそろ結婚を焦る時期。この際、彼はバイトして、私がバリバリ働こうと思ったこともありました。

でも、そもそも彼に養われている自覚がなかったことが判明し一気に冷めました。ずっと一緒にいた彼を追い出せないのはわたしの甘さです。もしかしたら、怒りも悲しみもしょうがないと思わせる魅力が彼にはあるのかもしれません。求人を見つけるたびにわたしに見せてきて『でも、俺にできるかな……』と不安そうな彼を見ると愛おしくなってしまいます」。

根本:
そのシーン、作中にもありますね……。

吉田:
別れると決心したはずが、最近また揺らいでいます。転職活動を頑張ろうとしている彼を見ると、『もう少し待ってあげてもいいのかな』なんて思う今日この頃です。周りが結婚して、親にもプレッシャーをかけられて、しんどいと思うこともあります。でも、腐っている世の中を美しく定義していけるよう頑張りたいと思います。大好きな根本さん、吉田さんとと関われたことは、ヒモの彼のおかげです。これからも応援しています。ありがとうございました」。

……って、凄くないですか?

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根本さん:
すごすぎます。結局、彼のいいところを見つけた。まさにこの方に見ていただきたい作品です。

ヒモこそ、「できない自分」をさらけ出せ

志ら乃:
ちょっと話変わるけど、ヒモとマザコンって同じように括られがちなんだけど、どう思う?

吉田:
ぼくは全然混同したことないですね。同じ行動をとるときはあると思いますが、たぶんマインドが違う、のかな?

根本:
「やってもらうことになれてる」という点は共通しているかもしれません。完全に偏見ですが、わたしがマザコンを判断する基準が、一緒にいるときに「お風呂溜めてきて」って頼むかどうかなんですよ。わたしの経験上、頼むひとはだいたいマザコンです。

志ら乃:
へぇ、おもしろい(笑)。周りのひとにも聞いてみよっと。

吉田:
確かにちょうどいい無意識加減ですもんね。

根本:
そうなんですよ。意識してない発言なので。

志ら乃:
でも、たぶん、ヒモは言わないね。

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根本:
そう。ヒモは「何かやってあげてる自分」みたいな感覚を得たいから、「お風呂溜めようか?」と聞いてくると思います。「そのくらい自分でできるわ!」って(笑)。

志ら乃:
ヒモってのは力の入れどころが違うんだよね。

吉田:
ちょ、ちょっと待ってください(笑)。ヒモの勝負所ってどこなんですか。

根本:
たった1回やった洗い物を半年ぐらいアピールしてきますね(笑)。

志ら乃:
「ゴミ袋換えたよ」とか(笑)。

吉田:
「ヒモとしてここだけは欠かすな」「ここを欠かしたらスポンサーから切られるぞ」っていうポイントなのかもしれませんね。

根本:
あと、朗らかにしていてほしいですよね。

志ら乃:
そう、ヒモはヘソを曲げたらダメ。

相手は「今(ヒモが)どういう感情なのかわからない」という状態が一番不快なんですよ。だから相手に自分がどういう感情なのかを明確に伝える。「機嫌がよくないからほっといてくれ」って。何も言わないと「なんで無視するのよ」って関係性が崩れちゃう。

根本:
コミュニケーション能力にも近いですよね。人間関係構築力というか。

吉田:
人間関係をつくれない人はヒモになれないってことですか?

志ら乃さん:
そんなことないよ。相手はひとりだから。たくさんのひとと薄くつながる一般社会のコミュニケーション能力とは違うと思うけどね。

吉田:
なるほど。相手が大切にしてるところを読み切らないとダメなんですね。

根本:
でも、ヒモってそこを間違えるんですよね。プライドを保つために「やってあげている感」を出そうとするけど……

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志ら乃:
そう、「そもそも、そこじゃねえよ」ってね(笑)。かっこつけたらだいたい失敗するのよ。

根本:
やれないなら「やれない」ってことをさらけ出せばいいんですよね。

志ら乃:
それそれ。できないことをできないってちゃんと伝えること。

吉田:
ヒモにはプライドが不要だとことですかね?

根本:
いや、あっていいけど「相手のためにやってあげた感」を出さないことですね。

志ら乃:
「人のために何かやろうとしてんじゃねえ」ってことなんだよね。

根本:
自分のことができてないわけですからね。

志ら乃:
まさに「今、出来る、精一杯。」をやれってことだよ。

根本・吉田:
おお〜!!さすが(笑)!!!

ヒモがヒモであるために

吉田:
志ら乃師匠がいい感じに作品の話へとつなげてくれたんですが、「今、出来る、精一杯。」に出てくるヒモ男・安藤はどういう人間なのでしょうか?

根本:
お金を全部出してもらうことはないんです。物語のなかでは、借りては返し、借りては返しを繰り返している。職場にも文句ばかりですが、基本的にメンタルは弱いですね。

安藤には「お金は返すから」みたいなセリフがあるんですが、女性は「たった8000円ぐらい大丈夫だよ」と言う。すると、「俺はたった8000円も返せないのか」と落ち込んでしまうんです。そして「自分は嫌われてしまう」とどんどん被害妄想が膨らむけど、女性側は「わたしは大丈夫だよ」と言うから、嫌なことがあるとどんどん逃げていく。

吉田:
でも、安藤は女性がいつもそばにいますよね。

根本:
その点は、清竜人さんが演じることで説得力が増したと思います。理由はわからないけど、魅力的。セリフには書かれていない、役者さんのパーソナリティーに託した部分です。

吉田:
志ら乃師匠のようにひとりの相手と長続きするタイプのヒモと、いろんな相手のところへ転がり込む安藤のようなヒモ。その違いって何なんでしょう?

志ら乃:
自分で言うのは照れくさいけど、成長するかしないかの差だと思うんだよね。

吉田:
ヒモは成長すると同じ人といられる、と?

志ら乃さん:
そう。わたしはそっちの方がトクだと判断したんだと思う。向こうのほうが年齢も社会経験もうえだから、たとえばお礼のハガキの書き方とかも教えてくれるのよ。

そのときは「うるせえな」ってケンカになるんだけど、冷静になるとそのとおりなんだよね。だから、「何かあったときはこのひとの意見を聞かないと自分がおかしくなる」と言う感覚がずっとあった。

根本:
月日が経って今でもそう思えてるって素敵な話ですよね。

吉田:
結局奥さまもそれでよかったわけですよね。

根本:
でも、難しいですよ。奥さま、めちゃくちゃ当たりのヒモ引いた。こんなに当たりのヒモは他に知らないですよ。

吉田:
本来、当たらないヒモは、それこそ縁日の屋台ぐらい当たらないんじゃないですか。めちゃめちゃレアケース。

志ら乃:
そうかな(照)。

根本:
あと、ヒモって顔が大事ですよね。毎日顔を合わせるから。

志ら乃:
顔かぁ……個人的にわたしは声が大事な気がしてる。

根本:
志ら乃師匠の奥さまはどうですか?

志ら乃:
どうって……正直わからないけど、たぶんかみさんはわたしのことを悪くないとは感じたと思う。出会ったときにわたしは24歳で、向こうは29歳。バツイチ。だから、少なくともルックスは悪くなかったんじゃないかとは思うけど……。何か感じ取ったのかもしれないね。ちゃんと確認したことはないけどさ。

吉田:
ヒモの嗅覚(笑)?

志ら乃:
あるんだと思うよ。

根本:
女性側もヒモが来やすい状況をつくる気がする。

志ら乃:
ヒモを引きこむためのってこと?そうか。やってるのかもね。それにまんまとハマったわけか。だからどっちが主導権を握っているのかわからない状況になってるのかもな。

根本:
主導権って、お願いしてイエスを言わせてる人が握っているっぽいけど、イエスを言ってる側が握ってるケースも多いじゃないですか。イエスを言い続けることで相手を動かしているみたいな。奥さまもちょっとずつ餌を撒いていたのかもしれないですよね(笑)。

志ら乃:
その発想はなかった(笑)。

根本:
若かりし志ら乃師匠が、炊飯器を置きやすいようにちょっと片づけてスペースをつくったり(笑)。

志ら乃:
それもおもしろいね(笑)。

吉田:
これ、永遠におわらないですね。志ら乃師匠の奥さまと根本さんの対談を第2弾でやるべきじゃないですか。

根本:
え!?できるんですか!?

志ら乃:
わからない(笑)!でも、ちょっと聞いてみるわ。

吉田:
ぜひ、よろしくお願いします!根本さん、志ら乃師匠、今日はありがとうございました!

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というわけで、壮大な「ヒモ論」を打ち立てることになった今回の対談、いかがだったでしょうか?いや〜、ヒモの世界、実に奥が深いです。そして、志ら乃師匠の奥さまを招いての第2弾、ぜひ実現させたいですね。

今日はここまで!最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!!

<公演情報>
月刊「根本宗子」第17号『今、出来る、精一杯。』
作・演出:根本宗子
音楽: 清 竜人
出演:清 竜人 坂井真紀
伊藤万理華 瑛蓮 内田 慈 今井隆文
川面千晶 山中志歩 春名風花
小日向星一 根本宗子
riko 天野真希 田口紗亜未
水橋研二 池津祥子
演奏:岩永真奈 大谷愛 二ノ宮千紘 三國茉莉
12/13~19 新国立劇場 中劇場
〈料金〉S席8,000円 A席6,500円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈公式サイト〉https://gekkannemoto.wixsite.com/home
〈発売日〉2019年10月19日(土)午前10:00~
〈お問い合わせ〉サンライズプロモーション東京 0570-00-3337

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