(稼働)夏の亡霊

四日前に負けた。
あんなに手痛くやられたのに、喉元過ぎた熱さを求めに外へ出た。

今回は前回負けた店より少し歩いた所にある店へ向かおうとしていた。けれど夏が盛りを迎えている為に、前回負けた店で涼もうと考えた。

その瞬間、俺の身体が鈍重な死の香りに包まれる。

前回手痛く負けたホールは謂わば一番新しい俺の墓であり、四十九日も過ぎていないのだ。どうせ行っても香典を渡す事になるに違いない。

しかし暑いのには変わりが無いので仕方なく、涼むために店へと入った。

そして気付けば、財布に三枚あるお札の内一枚を棺桶に叩き込んでいた。
一度入れたからには貸し出すのが礼儀だから、一枚だけ使ったら別の店に行こうと思った。

二枚、三枚。
まだ連チャンには足りないのに、財布の中身がお化けになった。

心が沸騰しそうになる。
店選びを間違えた自分の事を台間ボードがゆらゆらと嘲っているので、とりあえず外へ出た。

陽が沈む中で怒りと疑問が交互にやって来るのでどうしようもなくなって、先程行くはずだったパチ屋へ歩いて行った。

───歩く内に気付いた。
“その店は百円からパチンコが打てる”のだ。
無策で無意味だった徒歩が意味を為したので、少しだけ歩幅が広くなった。

店の中へ入り、百円を投入してパッキーを買う。
仕事人総出陣に座り、右打ちをして保留を5個溜めた後にヘソで回せるだけ回す。

6回転回った。勿論当たらない。

その後は残保留の消化を休憩所のベンチでひたすらに待つ。
因みに、99分の1を5回転させて当たる確率は4.9%だと言う。

”4.9%“。

自分の四十九日が過ぎる前にパチンコ屋へ来た男にはお誂向きである。

数十分、待って待った後に台のあるシマへ戻る。誰も座っていない。
恐る恐る確認するも、右打ちランプが点いている筈もない。

財布の中には数十円が散らばっている。
遂に終わってしまった俺は窓を見た。
陽はとうの昔に沈んでいて、白布を着けた亡霊と死にたくなるような夏の気だるさが暗い窓に反射していた。

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