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パヤタスのごみ山ツア ー

 スモーキーマウンテン」というのをご存知であろうか。「スモーキーマウンテン」 というのは、ゴミが太陽の熱によって自然発火したごみ山のことである。私は 2009年 7 月 4 日、「salt」という NGO のスタディーツアーでそのごみ山が集まっているパ ヤタス地区、カシグラハンビレッジという所を訪問した。

 フィリピンのケソン市北部のパヤタス地区( 人口約 76000 人 )には元は美しい渓谷 が広がっていた。
 しかしパヤタスはごみ投棄場として 70 年代初頭から利用されてき た。その後巨大なごみ山が形成され、ごみを拾って生計を立てる人々が増加してきた のである。
 現在もパヤタスには毎日 1600t のごみが投棄されている。しかし 2000 年7 月 10 日、パヤタスのごみ山で大規模な崩落があり 700 名ほどの命が失われた。

 また、パヤタスでの平均寿命は 50 歳、1 家族当たりの平均所得は 5600 円 /月、失業 率は 60% である。一方、マニラ全体では平均寿命は 65 歳、 1 家族当たりの平均所得 は 9140 円 / 月、失業率は 7.4 % である。( 2008 年 )

 ここではパヤタス地区、カシグラハンビレッジに住むフィリピン人がどのような暮 らしをしているのか記したいと思う。

特定非営利活動法人ソルト・パヤタス (以下、ソルト )とは


 特定非営利活動法人ソルト・パヤタス (以下、ソルト ) の紹介をしたいと思う。

 Salt はフィリピン・ケソン市パヤタス、カシグラハン というゴミ山周辺のスラムに 暮らす人々への支援を行ってい NPO/NGO である。また、「 salt」は「学校へ行けない 子供たちの奨学金支援」、「女性の収入向上」、「デンタル事業」、「デイケアセンターで の授業」、そして「補習事業」を主な活動の柱としている。創設者は日本人女性の小川 恵美子さんである。現在フィリピン人 15 名、日本人 14 名のスタッフとボランティア によって活動が続けられている。
 salt は活動資金集めのためパヤタス、カシグラハン で住む人々を訪問するスタディーツアーを行っている。ちなみにソルトスタッフの方から「スタッフは給料を殆ど貰っておらず代表の方も 無給でやっている」と伺った。私はこの時、以前本で「本当に開発がやりたいのならNGO が 1 番。ただ給料は貰えないか、少ない。
 「国際協力」に携わりながら安定した給料を貰うなら開発コンサルタントになるか、JICA 職員になるなどの別の道を選ぶべき だ」ということを読んだことがある。

クロススケッチで生計を立てているパヤタスに住む女性

 それでは次に、「salt」の支援で、クロススケッチで生計を立てているパヤタスに住む女性について紹介する。

 筆者はクロススケッチで生計を立てている一人の女性の家を訪問した。彼女には 6人子供がいて、夫は病気で他界したと言う。しかももう 2 人子供がいたが、病気で亡 くなったという。

 話を聞いてみると、確かにクロススケッチで収入は向上したが生活は苦しいままだ と言う。 1 日 1 食食べられるのがやっとで、未だにごみ収集の仕事は続けているとい う。理由はクロススケッチのオーダーが最近あまりなく、しかも 1 番大きい子供が 23歳だが仕事が見つからず専門学校に通わせなくてはいけないからだという。

 私は驚いた。
 NGO の支援があってもこの人の生活は苦しいままということに衝撃を 受けた。しかし彼女は「salt のお陰で貴方みたいな訪問客に会えるから嬉しいわ。私 は昔はシャイだったの。でも今はその性格じゃなくなったわ。」と答えてくれた。最後 に「貴方は幸せですか? 」と聞くと、
 「ええ。子供が沢山いるから幸せだわ」と言われ た。「彼女は既に子供を 2 人失っているのに、生活も苦しいままなのに何て明るい人 なのだろう」と私は思った。私はこの何事があってもめげない明るさが「フィリピン人の原動力」なのだろうと思った。

パヤタスにあるクロススケッチの作業場

 その後パヤタスにあるクロススケッチの作業場に移った。中にはミシン 3 台と販売 用のタオル、ブックカバーが沢山置いてあった。作業場にいた女性に聞いてみるとタオルを作るのに 2 ~ 3 時間かかるかしく、月に5000 ペソ収入を得ているらしい。 2006 年からクロススケッチを始め、それまではご み拾いで収入を得ていると言う。
 「収入には満足か」と尋ねてみたところ、「もっと欲 しい」と答えられた。現在 3 人の子供を育てているが、 3 人とも学校に行かせること が出来ないらしい。

 2000 年にごみ山崩落事件があった後、アメリカの報道記者が「環境問題」として取 りげ、2008 年からフィリピン政府は、観光客にはごみ山に立ち入ることを禁止してい る。実際、ごみ山の 1 部のみしか見ることが出来なかった。

ごみ山で収入を得ている人


 そのごみ山で収入を得ている人に話を聞いてみたが、ごみをお金に還元してくれる 店がパヤタスにはいくつかあった。
 あるお店では 1kg のプラスチックは 10 ペソ、鉄1kg は 3 ペソ、ミネラルウォーターのペットボトルを 1kg は 15 ペソ、新聞紙 1kg は 1 ペソ、白い紙 1kg は 5 ペソと安価である。しかし金、銀は高く品質にもよるが最低1g50 ペソだという。ごみ山で拾ったごみを大きなバケツに入れて、お店に持っていく らしいが 1 度に何 kg ものごみを運ぶためかなり大変そうであった。

 リサール洲、ロドリゲス町、バランガイサンホセ、カシグラハンヴィレッジ フェ イズ 1 というのが正式名称である。人口は約 9 万人。

 先ほど2000 年にパヤタスのごみ山が崩落し、約 700 人もの人々が亡くなったと いうことを書いたが、その被災家族、またマニラ首都圏内の都市貧困地区から立ち退 きされた人々の再定住地がカシグラハンビレッジである。働き口の比較的多い首都圏 から離れていることから、パヤタスに比べて仕事の機会が少なく、収入の少ない家庭 が多い地域である。

 カシグラハンから車で 15 分程度のところにサンイシドロダンプサイトというごみ 山がある。ダンプサイトは 1 日 1700t のごみを受け入れており、パヤタスのごみ山よ りも規模が大きい。
 カシグラハン在住のスカベンジャー( ごみを拾って生活する人) の多くがダンプサイトに通っているがごみ山に行くのに交通費がかかり、パヤタス在 住のスカベンジャーよりも収入が少ない。

ゴミ山を巡って

 昨年リサール州当局が、新たに 19 ヘクタールのダンプサイトを造成し、投棄場として指定したために、モンタルバン町当局との間で対立が起こった。州当局が新たに 造成したダンプサイトは、International SWIM.inc が請け負っているもので、同じく バランガイ サンイシドロにある。

 町長側は、町の運営しているダンプサイトは環境基準、衛生基準に適合したダンプ サイトであり、まだ空き容量は十分にある、と主張している。そして、州のダンプサイトは環境基準に適合していない、と批判している。


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