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【エッセイ】蝉の声が聞こえない昼下がりにミンミンする

そういえば蝉の声が聞こえない。
遠い夏休みの思い出の中では、8月31日まで四六時中鳴きじゃくっているイメージだったが、大人になってから改めて意識すると
比較的涼しい午前中に鳴き、日中の暑さがピークを迎える頃にはピタリと鳴きやんでいることに気づく。
蝉ですら分かっている真夏の暑さのリスクを、太陽を真上に迎えつつ『熱中症に気をつけて』と注意喚起し労働し続ける人間の姿は蝉にはどう映っているのだろうか。
『今は危ないから、おさまるまで極力何もしない』というシンプルな蝉対応から
『今は危ないから、一層の注意をはらって遂行する』という対応は、人生で1秒も無駄にしない為に、人類が勝ち得た叡智の結晶なのだと信じたい。
最初で最後の夏の7日間を生きる蝉と、これからも何度も経験できるであろう、ひと夏を生きる人間とが同じ暑さ、同じ時間をシェアしている。
この夏にかける温度で言えば蝉の方が相当熱いはずなのだが、蝉はさりとてその貴重な数時間を惜しげもなくじっと待機に費やす。人間には到底真似のできない所業だ。
昨日、熱戦に幕を下ろした高校野球も今年から、試合中にクーリングタイムを設けることになってたみたいだ。10分間。
野球経験者ではない私はその効果の是非は一旦棚に上げておいて、その小さな10分間は叡智の結晶の追加なのか、叡智の妥協なのか判断に戸惑う。
そういえば蝉の声が午前中も聞こえていない。
蝉に限らず虫の鳴き声を『声』として認識できるのは日本人とポリネシア人だけという事実に
海苔を消化吸収出来るのは日本人だけ、で得られる同等の驚きと多少の誇らしさを感じる。
8月もまだあと1週間ほど残しているが、もう蝉たちの最期の夏は終わってしまったのだろうか。
まだまだ終わらない夏の暑さに真っ向勝負していく我々に向かって、
注意喚起という意味の『蝉たちの無言』を聞くためにも、もう一度その声を聞かせてほしい。


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