【ショートショート】6月のカプリチオ
司令室を出て岸壁まで下りると潮風が吹き抜けた。
帽子を飛ばされないように押さえながら、まるで海が緊張している俺の事をからかっている様に感じた。
海上の目をやると港に停泊するカプリチオ号が見える。海水の積載をしている最中だ。
今日、俺は初めてあの機体の主操縦席を任される。
幼い頃からの夢が叶う事に人知れず拳を握りしめた。
「お、誰かと思えば今日が初泣きの新人パイロットじゃねえか。緊張して居ても立っても居られなくなったか」
その声に振り返ると整備バッグを携えた整備士の轍さんが笑顔