マガジンのカバー画像

ファンタジー

37
吉田図工のファンタジー作品です
運営しているクリエイター

2022年5月の記事一覧

【ショートショート】珍しい箱

むかしむかし、あるところに大層食いしん坊なお殿様がおられたそうな。 お殿様にはある悩みがありました。 いつも食事の時間を楽しみにしているのですが 目の前で家来が必ず長い時間をかけて料理の毒味をし いざお殿様が食べる時にはすっかり冷めてしまいます。 「一度でいいから熱々を食べたいのぉ」 何度か家来に命令しましたが 「殿の身を案じての事のでございます」の一点張りで叶いません。 ある日、遠方からはるばる城を訪ねてくる僧の姿がありました。 「殿、ある修行僧が世にも大変珍しい箱をご覧

【ショートショート】杉浦星

「杉浦さーん」私の名が呼ばれる。 人生初の人間ドック。 緊張しながらこれまた人生初の胃カメラを飲み込む。 「え」 モニターを凝視する医者は、思わず漏れた声を置き土産に血相を変え診察室を飛び出した。 呆然が襲いかかり不安が纏わりついてくる頃、白衣を脱ぎスーツ姿の医師が戻ってきた。 「杉浦さん。大学病院で再検査しますので私と一緒に来てください」 ろくな説明も無いまま医院玄関に横付けされた車に強引にねじ込まれた。 診察室に入ってからこの間僅か15分足らず。 この異常事態に説明を求め

【ショートショート】石の意思

私はどうやら『石』のようです。 ようですというのは、全くの無の状態から急に起こされたような変な感覚だからです。 周りには自分と同じような『石』の存在を感じます。 そして不定期に覆いかぶさるような何かを感じます。 鳥と呼ばれる方が先程見るに見かねて私に教えてくださいました。 お前は川辺の石の一つだと。 神様が暇つぶしで名前と同じ響きの言葉があればソレを与えて回っていると。 なのでお前には『意思』が与えられたのだと。 どうりで無性に違う所に行ってみたいという考えがまとわりつく