『星の王子さま』による上演の死。展示の死。

「大人って変だ」

生身の人間が、この台詞を発話するのはとてもとても難しい。
無邪気な子供が、ふとした時に、周りの大人たちに向けて、勇気を振り絞って言った時に、初めて成立する台詞だ。
ましてや、舞台の上演の中で、成立させることは、人工的に自然を作り出すような魔法に近いトリックが必要になる。

2024年6月20日~24日にWAKABACHO WHARFにて、上演されたサン・テグジュペリの原作による『星の王子さま』でまさにそのようなマジックが起きていた。
出演・人形製作である大木実奈(演劇ユニットnoyR)の人形が、劇中劇ならぬ、舞台中舞台のような高足の平台の上で、照明を浴び、表情を見せる。構成・演出の佐藤信は、39年前にミュージカル『星の王子さま』を上演しているが、今回はひとり舞台として公演している。

子供の声のようなエンジン音で、飛行機模型が空を飛び、生身の舞台から、人形たちの舞台中舞台を行き来する。始めは大木実奈自身が演じているように見えながら、徐々に観客は人形たちが演じる小舞台の方に没入していく。このトリックによって、初めて、冒頭の台詞「大人って変だ」が発話される。まるで星の王子さまの人形自身が上演しているかのように、物語は展開されていく。しかし、それは他の人形劇のような、操り人形であることを意味しない。人形が自立し、動くことなく、ただ舞台上に突っ立っているのだ。それにも関わらず、まるで人形が発話し、演じているように見えてくる。なぜそのようなことが起こるのか? 

それはおそらく、大木実奈による観客の関心や視線の誘導の向き先を、俳優としての自分だけにではなく、共演者の人形にも向けさせる技術によって成立させたのだ。そして、時には観客席すら薔薇を通して物語に混入させつつ、ある静けさの中で、それが上演ですらなくなる時が訪れる。高足平台舞台の下に、まるで野戦病院の手術台の下にある血や糞尿を受け止めるブリキのバケツから取り出された砂によって、「死」が上演されようとする。その中で静かに上演は、「展示」に変わる。上演の死とは展示なのか。それとも、展示の死こそが上演なのか。

再び、子供の声のようなエンジン音で、飛行機模型が空を飛び、小舞台に着陸する。おかえりなさい。冒険に「死」はつきものだ。でも、「死」は終わりでもなく、無でもない。星の王子さまの人形の後ろ姿にそう感じた。

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