古代インド
インダス文明とアーリア人の社会
インダス文明(前2600〜前1800)
最近、インダス川流域の西方のバローチスターン丘陵地帯で、前7000年頃にさかのぼる農耕文化が存在していることが明らかになってきた。メヘルガル遺跡を中心に、小麦・大麦の栽培、羊・山羊・牛の飼育を行っていたことがわかっている。前3000年初頭にインダス川流域の肥沃な平野が開発され、大集落が形成された。その一つのハラッパーはやがて都市に発展し、初期インダス文明の形成となった。この農耕文化とインダス文明の連続性を示すものとして双方の遺跡、遺物に見られる牛の崇拝があげられる。
◎ドラヴィダ系 (先住民)
→現在は南インドに多く分布
◎壮大な都市建設
→大規模な宮殿や陵墓は未発見。リーダーはいたのか、その辺りは未解明。
◎インダス文字の使用
→未解読
◎モエンジョ=ダーロ
→インダス川下流のシンド地方
◎ハラッパー
→インダス川中流のパンジャーブ地方
◎都市文明の特徴
●街路が整然と東西南北に並ぶ都市計画。家屋は焼煉瓦造りで、下水・井戸・浴場などの衛生施設を持つ。
●公共的な建造物と思われる沐浴場(宗教的施設)、学校、公会堂、倉庫などを持つ。
インダス川を利用した潅漑農業と、水牛、羊、●象などの家畜の使用。
●彩文土器の使用。
●青銅器の使用(鉄器は知られていない)。
●印章の出土。印章には象形文字(インダス文字)が描かれているが、未解読。
●シュメール人のメソポタミア文明との共通性がみられる。
アーリア人の社会
◎アーリヤ人の侵入
●鉄器の使用
前1500年頃にカイバル峠へ侵入、その後パンジャーブへと定着。
前1000年頃にガンジス川流域へ定着、農耕生活の開始。
◎ヴァルナ
→階層身分制度
●バラモン・・・・司祭者
●クシャトリヤ・・・戦士
●ヴァイシャ・・・・庶民
●シュードラ・・・隷属民
●不可触民・・・ヴァルナの枠外、最も差別された人々
アーリア人は外部から来たため、原住民より数が少ない。その前提のもと、統治を行うためにとった体制がヴァルナになる。
◎カースト制度
→インド独特の社会制度
ジャーティ・・・ 職業と結びついた社会階層
英語ではカースト、インドではジャーティと呼ぶ。同じものを指す
◎オリエント世界とアーリア人
インド亜大陸に移動した人々とは別に、カフカス山脈を越えてイラン高原に移動し、さらにメソポタミアに進出、オリエント世界に広がったアーリヤ人がいた。彼らはエーラーンと自称したのが後にイランと言われるようになり、紀元前6世紀ごろ、ペールス地方(ペルシア)を中心とした国家を建国し、イラン高原、メソポタミア、アナトリア、パレスティナ、さらにオリエント全域を統治したアケメネス朝ペルシア帝国を成立させた。イランのアーリア人国家はアレクサンドロスの帝国・ヘレニズム国家(セレウコス朝)による支配を経た後、パルティアとササン朝ペルシア帝国へとつながっていく。その過程でこの民族は独自の宗教体系であるゾロアスター教を核としたイランの伝統文化が生まれた。
アーリア人の抗争と新しい宗教
バラモン教
→バラモンが執行する祭式を中心とした宗教
◎ヴェーダ
→バラモン教の聖典
●『リグ=ヴェーダ』
→最古のヴェーダ、賛歌集。
抗争と新しい宗教
◎十六大国の抗争(前6世紀)
→アーリア人が作った16の国が争う時代。
●マガダ国vsコーサラ国
→16のうち主要な2国。最終的にマガダ国が勝利。後にここでマウリヤ朝が始まる。
◎ウパニシャッド (奥義書)
→古代インドの宗教・哲学書
バラモン教への反省と批判から生まれた。抗争の時代、クシャトリヤなどの層が活躍したことを受け、バラモンに対する批判があった。
ヴェーダの本来の姿である宇宙の根元について思惟し、普遍的な真実、不滅なものを追求した。ウパニシャッド哲学によると宇宙の根源であるブラフマン(梵)と人間の本質であるアートマン(我)とを考え、この両者が究極的に同一であることを認識すること(梵我一如)が真理の把握であり、その真理を知覚することによって輪廻の業、すなわち一切の苦悩を逃れて解脱に達することができると考えている。
●輪廻転生
→現世の行為によって来世が決定されながら、生死は繰り返す。
◎仏教(前5世紀頃)
●創始者ガウタマ=シッダールタ (釈迦)
→尊称: ブッダ (仏陀)
カースト制度を否定、慈悲の心と人間の平等を説く。クシャトリヤをはじめヴァイシャからも支持される。
◎ジャイナ教(前5世紀頃)
●創始者ヴァルダマーナ
→尊称: マハーヴィーラ
禁欲苦行(断食など)、極端な不殺生主義。カースト制度を否定。おもにヴァイシャの間に支持される。
戦争で活躍した人々を描く
◎クシャトリヤの活躍を描いた作品
→サンスクリット語で記述
●『マハーバーラタ』
バーラタ族の戦争を描く
●『ラーマーヤナ』
ラーマ王子が奪われた愛妻を救出する英雄叙事詩。
インドの4王朝
インド統一の必要性/マウリヤ朝
◎マウリヤ朝(前317頃〜前180頃)
●チャンドラグプタ王(位前317頃〜前296頃)
都 : パータリプトラ(ガンジス川流域)
●アショーカ王(位前268頃〜前232頃)
→この時全盛期。王の保護によって仏教が栄えた。アショーカ王はデカン南部のカリンガ国を征服したときに、多くの犠牲者を出したことを悔い、仏教に帰依したという。王は前258年にダルマ(仏法)に従った政治を行うことを宣言し、各地に石柱碑と磨崖碑をつくって民衆を教化した。また仏典結集やスリランカへの仏教布教を行った。
●アレクサンドロス大王が侵入
→再侵入に備える必要がある。
●ダルマ (法)に基づく政治
→磨崖碑・石柱碑の建立
●ストゥーパ(石造の仏塔)
→シャカの遺骨を納める
●仏典の結集(教典の編纂事業)
●スリランカ布教 (セイロン島)
◎インドの分裂期
その後、前2世紀~紀元後3世紀ごろまでは、インドは長い分裂の時期となった。インドは小国に分裂したが、特に北西インドにはギリシア系やイラン系の国々が興亡した。インド北西部はギリシア系のバクトリアが進出し、その王メナンドロスのころ、一時栄えた。このころ、インドにギリシア文明を源流とするヘレニズムが及んできた。さらに、後1世紀頃バクトリア地方のイラン系大月氏国から起こったクシャーナ朝がインドに進出してきたが、その支配は南インドに及ぶことはなかったのでインド全土を統一したとは言えない。南インドにはサータヴァーハナ朝がインド洋交易で栄えていた。インダス川流域からガンジス川流域、さらにデカン地方もふくめたインドの統一王朝が再び現れるのは320年のグプタ朝を待たなければならない。
クシャーナ朝(1〜3世紀)
都 : プルシャプラ
◎カニシカ王 (130頃〜170頃)
→仏典の結集を行う
●ガンダーラ美術
→仏像が制作される。ヘレニズム文化の影響。ここから中国・日本・朝鮮半島などに伝わる。
グプタ朝とヴァルダナ朝
◎グプタ朝 (320頃~550頃)
都 : パータリプトラ
●チャンドラグプタ2世(位376頃~416頃)
●法顕 (337頃~422頃)
→『仏国記』を著す
安定したグプタ朝の支配のもと、インド文化の黄金時代を迎え、仏教の繁栄とともにバラモン教の復興、ヒンドゥー教の発展が見られた。宮廷ではサンスクリット語が公用語とされ、全盛期であるチャンドラグプタ2世の宮廷ではカーリダーサがサンスクリット語で戯曲『シャクンタラー』を著すなど、サンスクリット文学が盛んになった。美術の面ではアジャンターの仏教美術が開花し、それまでのヘレニズムの影響から脱した、インドの独自性を強く持つようになった。この美術様式をグプタ様式と言っている。この時期はインド文明にとっても大きな転換期であったといえる。
◎ヴァルダナ朝 (7世紀)
都 : カナウジ
●ハルシャ王(1606~47)
●玄奘(602~664)
→『大唐西域記』を著す。三蔵法師のモデル。
グプタ朝が衰退した後、インドは分裂状態に戻ったが、その中で最も有力で、606年にインドの統一を一時的に回復したのがマガダ国のヴァルダナ朝である。都はガンジス川中流の現在のカナウジにあった。
◎インドの分裂期(ヴァルダナ朝滅亡後)
●義浄(635~713)
→『南海寄帰内法伝』 を著す
インドの古典文化と宗教
インドの古典文化
◎文学(サンスクリット文学)
●2大叙事詩の完成 (4世紀頃)
『ラーマーヤナ』
『マハーバーラタ』
●カーリダーサ (5世紀)
『シャクンタラー』
→インドのシェークスピアと呼ばれる劇作家。
◎仏教教学・美術
●ナーランダー僧院
→仏教教学の中心
●アジャンター石窟寺院
グプタ様式(純インド的)と呼ばれる様式。崖に掘られている。
二大仏教
◎上座部仏教(小乗仏教)
→出家して自身の解脱を目指すことを重視。マウリヤ朝時代に成立。
→スリランカ(セイロン島)や東南アジアへ。
◎大乗仏教
→菩薩信仰。すべての人々の救済を目指す。クシャーナ朝時代に成立。
→中央アジア、チベットや中国 朝鮮 日本へ。
ヒンドゥー教
→バラモン教に各地の民間信仰が融合。
◎シヴァ神(破壊・舞踏)
◎ヴィシュヌ神 (世界維持)
◎『マヌ法典』
→各ヴァルナの権利や義務を規定。バラモンの優位性を強調。
◎バクティ運動 (7世紀頃)
→ジャイナ教と仏教を排除し、インド古来の神々(シヴァ神やヴィシュヌ神など)への信仰を復興させようという民衆の宗教運動。バクティとは最高神への帰依をさす言葉で「信愛」ないし「誠信」と訳される。ウパニシャッド哲学のブラフマンとアートマンの理解や、ヴェーダの祭祀によらなくとも、熱心な帰依の心をもって、あたかも恋人にたいするように神を愛し念じれば、救済がもたらされるとする教えである。
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