見出し画像

いかにして私は産婦人科の門をたたくことになったか? ~男なのに、生命保険の健康診断を産婦人科で受けたお話~

吉田 柴犬


 ラジオのPodcastで、タレントのはるな愛さんが、泌尿器科受診の際に、「オオニシケンジさーん(本名)」と呼ばれた時の周囲の反応について話していて、とても面白かった。

 それで急に思い出したのが、「昔、産婦人科に一人で行ったことがある」ということだ。

 地方大学を卒業して、東京の百貨店に就職した4,5年経ったとき、柴犬(母)から電話があり、「おつきあいで、〇〇さんに柴犬の生命保険に入ることにしたから。」といきなり言われた。〇〇さんは生命保険会社の営業のおばさまで、柴犬(母)はつきあいが長く、信頼していたようだった。

 でも、まだ20代後半で、生命保険に入る意味などまったく分からなかった柴犬は、「そんなの勝手に決めないでよ。」と頭にきて、母親に文句を言った。すると、「保険料はおまえが結婚するまでは払ってやるから。」とか、さらに頭にくることを言った上に、「今度、健康状態とかいろいろと、担当の人が確認にいくから、よろしく。」と電話を切られてしまった。

 すると、ある日、「本当に△△生命の□□と申しますが、、、」と自宅に電話があり、平日の夜に訪問したい、とのことだった。頭には来ていたけど、さすがに断るわけにはいかないので、玄関先でお話をした時、いろいろと質問された。「もともと母親が勝手に申し込みまして、、、」と少し愚痴も言いながらも、質問には普通に答えていたのだけれど、健康状態について聞かれた際、会社の健康診断で初めて「脂肪肝」と言われたことを思い出して、正直に「先日の会社の健康診断で脂肪肝だと言われました。」と答えた。すると、その担当者の方、年配の丁寧な態度の男性の顔が少し曇り、明らかに困った様子だった。そして、帰り際に、「もしかしたら、指定の医療機関で検査をお願いするかもしれませんが、よろしくお願いします。」と言い残して、お帰りになった。

 勝手に生命保険に入った母親への怒りもあって、その腹いせの意味もあったのか、脂肪肝について正直にカミングアウトしたのだけれど、その結果は、△△生命から血液検査のご案内が届いてしまった。内容は、「先日の□□が伺ってお聞きした内容に基づき、生命保険加入の審査において、血液検査の必要が生じましたので、別紙をご覧いただき、最寄りの医療機関にて検査をお願いします。(費用は当社負担)」というものだった。

 後から考えてみれば、自分から脂肪肝だなんて、あんなこと言わなきゃよかった、と思ったけど、後の祭りだった。仕方なく、次の平日休みに、一番近い「○○○医院」の場所を調べたら、歩ける距離だったので、検査に行くことにした。

 「○○○医院」に到着すると、お医者さんの名前だけでは専門が分からなかったけど、中に入って、どうもここは産婦人科に違いない、とさすがに柴犬でも分かった。なぜなら、お腹の大きな若い女性が何人も待合室にいたからだ。

 受付で△△生命の書類を出すと、受付の方に「お名前をお呼びしますからおかけになってお待ちください」と言われ、長いすに座って待つことにする。はじめから居心地が悪くなっていたのだけど、やはり産婦人科の待合室に男がひとりで待つのは明らかにおかしな状況だった。

 待合室にいる全員が「?」という雰囲気になって、ジロジロは見られないまでも、「この男のヒトはなんでひとりで待っているのだろう?」と言いたげにみえた。

 柴犬も、できるなら立ち上がって、「えーと、あの、違うんです。私は生命保険会社の検査で来たので、妊娠とか出産とかそういうので受診に来たわけではないんです。」と大声で説明したかったけど、する勇気もなく、下を向いて待っていた。

 ほどなくして、順番が来たのか、看護師さんに

「吉田柴犬さーん」

と名前を呼ばれ、力なく「ハイ」と返事をすると、人目を気にしながら診察室に入る柴犬であった。(泣)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?