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結果判明はその翌年…

 今専門誌に連載を持っている「投球障害からの復帰と再受傷予防」もいよいよ「復帰」から「再受傷予防」に話が進み、いろいろと資料を読み込む中で「Verducci Effect」なる言葉にぶつかりました。ぶつかりました、とは何か白々しい感じで、実のところこれをどう現場に理解してもらい実践してもらうか、を半ば諦めていたコンセプトでもありました。

 ここを読まれる方はすでにご存じかもしれませんが、ざっくり説明しますと、

25歳以下の投手が、前年のシーズンより投球回数が30イニング以上増えると、その翌年故障するか、大きくパフォーマンスが低下する。

言い出しっぺである「スポーツイラストレイテッド」誌の記者、Tom Verducciの名を冠した、MLBに2010年頃から広まったいい伝えです。このいい伝え、あるいは予言の的中率はVerducci氏によると、2011年は80%を超えたことから、MLB30球団はこぞって投手起用のガイドラインの参考にしたと言われているくらいパワフルな予言でした。

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 だとすると、高校2年までほとんど試合登板のなかった投手が3年になって開花し、エースとして君臨したら、その翌年はどうなるのか…考えただけでいや~な汗が出てきます。別にその投手の次の所属先で仕事をしているわけでもないのに…でもこういうのは日常茶飯事なんですよね。そもそも高校生で投手ごとに通算何イニング投げたとかちゃんとカウントしてるところなんてないと思いますし、現場は「昭和ながらのアナログですから」をいいことのように思っている節もありそうですしね、でもいくらアナログでも、アナログと呼ぶにはちゃんと数字を残しておくのが前提で、記録を残していない時点でアナログでもなんでもなく、単なるあてずっぽうでしかないんだけど、とどういえば…本邦の高校野球批判はもうおいておきましょう。

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  さて、ここからは信じるか信じないかは読者の皆様にお任せしますが、実は私、もう10年近く前、Verducci Effectがいかにパワフルかを思い知った不思議な出来事があります。ことの発端は、あるスポーツ界(野球だけでなく様々なスポーツに関係されておられる)の大御所であられる方との何気ないメールのやり取りでした。

大御所:「最近のNPB球団 X についてどう感じますか?」
私:「1軍投手コーチのお気に入りなのかわかりませんが、先発が打線に捕まったらやたら2年目の A 投手ばかり投入するんですよね、プロ1年目の昨年も開幕からリリーフとしてフル回転していて、一昨年のアマチュア最終年に何イニング投げてたか正確にはわかりませんが、今年どこかで壊れるんじゃないかと心配で…」

結果ですか?予言は当たりました。そのやり取りの1か月後、肘を負傷し、最終的にはその年に手術を受けることに…。

大御所:「牛島さんの言ったとおりになりましたね、どうしてそう思ったのですか?」
私:「実はたまたまVerducci Effectなる投球イニング数制限がMLBで話題になっていて、A投手はモロにその条件に当てはまっているように感じたので」

それ以後、その球団から、高卒ルーキーはもちろん、大学野球出身、社会人野球出身にかかわらず、プロ1年目あるいは1軍1年目の投手がフル回転するといった話は聞かなくなったように思います。その大御所の先生に尋ねても、多分本当のことは教えていただけないように思い、聞きませんでした。その先生なら十分その球団の社長、あるいはオーナーにも人脈がおありだったでしょうから、私とのやりとりがそのきっかけになってくれていたら嬉しいな、とは思うのですが、きっとその球団の中にもこういった情報をお持ちの方がおられたのだと思います、いずれにしても部外者である私には知る由もありません。

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  それにしても、です。米国ではプロのレベルでも、25歳未満は慎重に育てよう、という取り組みがあり、MLBの各球団において、6月のドラフトで指名した直後に球団傘下のマイナーチームに合流させる投手もいれば、翌年3月1日のマイナーリーグキャンプまで合流させない投手もいます。この判断のベースになっているのが、前年シーズンの投球回数とドラフト指名年の投球回数といった記録なのですね。米国では高校レベルであれば(地域によって異なりますが)1シーズン40~45試合、大学レベルであれば(NCAA1部、2部、短大など競技レベルによって異なりますが)1シーズン50~60試合の公式戦がリーグ戦で行われ、その結果によって州大会(高校・短大)や全国大会(4年制大学)へのトーナメントに進み、それらの記録は全て各校の野球部ウェブサイトで閲覧できます。

 翻って本邦の球界はどうでしょう。高校ではトーナメント1発勝負で、公式戦3試合しかできなかった公立高校の野球部もあれば、春大会優勝、私学大会優勝、夏大会優勝、そして夏の甲子園で優勝、と30試合以上公式戦を経験する強豪私学の野球部もある、フェアネスとは程遠い世界。もうそもそもの仕組みが違いすぎるうえに、どの投手が何イニング投球したか、といったデータはその野球部のマネージャーがつけているはずのスコアブックまでひっくり返さないと出てこない。指導者でも部員の多い野球部になると、どの投手がいつ、どの試合で何イニング投げた、まで把握できていないと思います。私個人としては、現場の指導者に任せておけばよい、と思っている「球数」をルールとして制限しよう、というのも無理もないところかな、と。本当はその前に改善すべきところがあるのですが、大きなお金を預かる偉い人たちは、そこをいじられたくないのでしょう、変革の気配は皆無、私が生きている間に何かが変わるとは思えません。

 ただ、今年の高校3年生は特別。夏の甲子園大会が中止となって、各都道府県で独自に大会を開こう、という流れが何かを起こしてくれる予感がします。どこか1県でもいい、単なる甲子園大会の縮小版ではない、ユニークなアイデアが生まれることに期待しています。

 それにしても、この雑誌記者さんの発見がMLB全球団に影響を与えたというのはすごいですよね。まあ、あの「マネー・ボール」で有名になったセイバー・メトリクスと呼ばれる統計手法はアメリカの片田舎の缶詰工場の警備員がコツコツと調べたものが日の目を見た国ですから、充分考えられることではあるのですが…。

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