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はい・いいえで答えられる質問の仕方について

 昨年度から始まった 失語症者向け意思疎通支援者 の養成講座を昨年度第1期生として神奈川県で受講しました。

 失語症とは、脳卒中や交通事故などにより脳の言語中枢が損傷を受け、言葉が不自由となる状態のことです。話す聞く読む書く計算するといった言語に関わる日常生活の場面で困難を感じることがあります。

 支援者は、安心して自分らしい暮らしをすることができるように、失語症者の外出に同行したり、交通機関の利用を援助したり、失語症友の会などの当事者会でのコミュニケーションの援助などを行います。各都道府県ごとに養成講座を受けて登録してから活動がスタートです。

 5年ほど前から、失語症友の会の月例会や一泊旅行に参加するようになって、失語症のことが身近に感じられるようになりました。年齢的には先輩の方々ですが、ご本人たちもご家族も、みなさん友達のように仲良くなりました。(最初は怪しい業者がきたと思われていたと知ったのは2年経ってからでしたが。)

 そんなこともあって、失語症者向け意思疎通支援者 の勉強をしようと思い、講習会に参加しました。

 そこでも、はい・いいえで答えられる質問の仕方 についての話がありました。このことは、失語症の方とのコミュニケーションだけでなく、難病等で自分の意思表示をしづらい方との会話においても有効であると言われたこともあります。

はい・いいえで答えられる質問

 それはどういうものかというと、

 「お昼ごはんに何を食べたいですか?

というのはだめで、

 「お昼ごはんに食べたいのは和食ですか?

と聞いて、「いいえ」なら

 「お昼ごはんは洋食がいいですか?

と聞くのがよいということです。そして「はい」になったら次は、
 「それはお肉ですか?」と、次の段階の質問をしていきます。そうして質問を繰り返していき、目的の答えにたどり着けるというわけです。

講演会でお話しする例

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 講演会では、私はお店にいらしたお客さまとの会話の例をお話しします。

店員さん: 「こちらでお召し上がりですか?

  お客さま; 「えーと、あの、その〜、うーんとね

店員さん: 「(違うのかな?じゃぁお持ち帰りですか?

  お客さま: 「いや、その、あの、ね。でね。」

店員さん: 「(??? どっちなんだ?)」

 習った通りに言ってもうまくいかない。そういう時は、考える必要があります。

 この場合、お客様は トイレを借りに来た のだったらどうでしょうか?

店員さん: 「こちらでお召し上がりですか?
お客さま: 「(えー、そうじゃなくて、むしろ出す方なんですが...)」
店員さん: 「お持ち帰りですか?
お客さま: 「(ありゃー?、持って帰れと言われればそうしますが、早く...)」

 こんな風に、会話がすれ違ってしまうのはどうしてでしょうか?

 それは、決めつけている からです。お店に来る人は、食べにくるか持ち帰る人だと決めつけて話しをしているからです。

 予約に来た人かも、忘れ物を取りにきた人かも、強盗かも、取材かもしれないんです。会話をする時は、決めつけてかかってはいけないんです。そして 考える。これが大事です。

お昼を尋ねる例で

 先ほどの例で、尋ねる側は「和食ですか?」「洋食ですか?」「中華ですか?」と順番に聴いていけば良いと思っていますが、答える側は、まず選択肢として何があるのか?を知りたいものです。

 「はい、中華ですね。わかりました。でも今日はフレンチもあったんですよ

と後で言われたら悔しいです。それなら先に言ってくれ〜ってことになります。

 レストランに行って、たくさんのメニューの中から好きなものを言ってくれと言われても、なかなか選べないものです。ましてや失語症でことばがうまくでてこないし、頭に浮かんだ「ラーメン」を言おうとして「そば」と言ってしまうことだってあります。そう簡単ではないんです。

 今日のお昼は、和食・洋食のどちらかを選んでいただくことができます。和食は、海老と野菜の天ぷら定食、ぶりの照り焼きの2つがあります。洋食は、黒毛和牛のハンバーグだけですが、デミグラスソースとおろしポン酢のどちらかを選んでいただけます。では順番に聞きます。海老と野菜の天ぷら定食ですか?...

 こんな風に丁寧に聞いてくれたら、迷っちゃうけど嬉しいかもしれません。食事の楽しみは食べることだけではなく、選ぶところからが楽しいんです。選べる自由、これは楽しみでもあります。

 「今日のお昼は、この中から選んでください。

と、お料理の写真を並べて見せてくれたら、とてもわかりやすいです。これなら、日本語が通じない外国のお客さまにだって有効な方法です。

 写真から選ぶのは、はい・いいえで答えるより楽しくて簡単で、食欲がわくかもしれません。はい・いいえは簡単だと決めつけてはいけませんね。 

そんなことより

 ところで、先ほどのお昼ごはんの件ですが、食べたいものが「和風ハンバーグ」や「中華丼」は、和食・洋食・中華のどれなのでしょうか。「肉うどん」や「山菜そば」は、肉料理・野菜料理というのでしょうか?

 それは議論してもしょうがないことですね。人によってどう思っているかが違います。

 日常生活では次のような会話はよくあります。

 母親:  「お昼ご飯は何を食べたい?
 こども: 「そんなことより、いまテレビで面白いこと言ってたよ

 魔法のことば「そんなことより」が登場すると、会話の流れが一気に変わります。相手の興味が自分の質問と同じ方向を向いてない時は、「絶対に答えを聞き出すぞ」とムキになっても仕方がありません。

 そんなことより、以前の note に書いた「はい・いいでだけでも...」「自由とは?」も是非お読みください。😁

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