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旅エッセイ【いちごチョコ】

 歳をとったと感じるとき。腰が痛くて昼まで寝れない。少量のお酒でも次の日に障る。無理をしたところで作業が捗らない。
 古くからの友人の年齢を聞いて驚く。月日が経つのは早いものだと言い合う。自分から発せられるそんな言葉でまた歳をとったのだと実感する。

 散歩をしていると珍しく行列のできている屋台がある。いつもなら、行列なんてものは人がいるから人が増えただけの虚像に過ぎない、などと理由をつけて無視するのだが、今日はなぜだか並んでみる気持ちになってみた。列の一番後ろにちょこんと加わる。
 昼の12時半。暑い屋外に20人以上が並び、急ごしらえのような屋根の下に身を寄せあい自身の番を待っている。暑さに耐え兼ねて場を離れ、すぐ隣のドリンクスタンドで冷たいお茶などを買う人もいる。当然、お茶を買ったら列の元の位置に戻ってくる。
 手押し車式になっているキッチンからは湯気が立ち上り、向こう側を走る車を揺らめかせる。屋台のおじさんの肉を斬る音が子気味よく鳴り続ける。カンッ、コンコン、カンッカンッ。トンカンッ、コンコン、カンッカンッ。

 1時を過ぎた頃、ようやく私の番が回ってきた。茶色く濁ったスープ。ビーフンよりも細い麺。その上にしっかりと煮込まれて柔らかくなった数種類の牛モツがどっさりと乗る。むわりと広がるモツのアブラと醤油の香りが、まだ空の胃を働かせる。
  一口食べて納得する。なるほど、これは人が並ぶ。行列には意味があったのか。少し甘いスープに唐辛子を混ぜ、目を見張るほど柔らかいモツと一緒に食べる。キッチンの方を見やると、まだ20人以上が並んでいた。彼らはまだこの料理にありつけていないのだ。何故だか得意な気持ちになりながら食べ進める。
 半分と少しを食べたころ、一旦箸を置いた。とんぶりの中を見つめる。これは、食べきれない。あたりを見回す。私よりも歳上であろう人々が男も女も関係なく箸を進めている。もう少し、頑張れる。しかしなんともアブラなのである。口に含むも胃が既に悲鳴を上げ始めている。

 歳をとったと感じるとき。肉をたくさん食べられない。アブラを無限に食べられない。
 リストに加える。

 それでも何とか全て食べ終え、会計を済ます。会計をしたそのままの笑顔で、隣のドリンクスタンドに立ち寄る。冷たいお茶が飲みたくてたまらない。
 気がつくと「ストロベリーチョコレート」と注文をしていた。こいつはまた、自分が歳をとっていることを忘れてしまっているようである。甘ったるい、人工のいちごの香り。タバコをふかしながらのんびりと待つ。
 ピンクとクロのかわいいマーブル。ストローを挿して口に含む。甘いいちごチョコ。アブラまみれの胃には可愛らしすぎるそれで、たまにはいいかしらと自分の歳を勘違いしてみる。

また会いましょう。