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掌編小説【スニーカー】

 子どもは、好きではない。
 よく喋る。よく喋るくせに、要領を得ない。だが、聞かぬと怒る。
 こちらが困っていることすらお構いなく、楽しそうに話す。なんと返せば良いのか分からぬ。子どもは、好きではない。

 今年もこの季節だ。赤と緑。眩しすぎるライト。せっかくの寒い冬を台無しにするクリスマス。クリスマスは子どもだ。勝手に楽しそうなのである。私はただ、困る。

「サンタになりたいんですよね、オレ」
友だちが突然、妙なカミングアウトをしてきた。
「応援するよ」
目もくれずに答える。

「いや、本気で。なんかこう、サンタに来てもらいたい家庭を募集して、オレはサンタの格好をしてクリスマスパーティーにプレゼントを持ってサプライズ登場、みたいな。動画にして、それも売ったらけっこう収益上がるかと」
想像していたより幾分も現実的だ。そうだ、彼は子どもではなかった。悪くない気がする。レンタルサンタ。悪くない響きだ。

「応援するよ」
今度は少し彼の方を向いて答える。

「それで、一緒にやりませんか。サンタ。クリスマスって短いし、1人だと1日に何件も回ることになっちゃうんで、2人目のサンタを探してて。あ、撮った動画はSNSにもあげる予定なんで」
どうも彼は私を誘いたかったらしい。なぜ、私。確かに彼とは親しい。よく2人でも飲みに行く。ほかの友だちと集まって出かけることもある。それだけに彼も私の子ども嫌いを知っているはずだ。

「なんで・・・・・・」
すかさず彼が答える。
「いやだってなんか楽しそうだと思ったんで」
彼がいやに楽しそうなので、私も少しだけ想像してみる。赤い服に赤い帽子。白い髭を付けてプレゼントを手に持つ。はっは、と大きく笑う練習をする私。依頼者の家の前で、少し緊張しながら笑顔を作る、私。

 ああ、だめだ。スニーカーでは格好がつかない。黒い長靴に履き替える。いや、違う。私はそんなに太ってはいない。いつのまにか想像の中の私は、私ではなくサンタになっていた。

「私はやめておくよ。頑張って」
もう一度だけ彼の応援をしておく。本当に彼がサンタになるのかは分からぬが、彼が照れた笑顔でフラフラと長靴に履き替える姿はしっかりと想像できた。

 寒い冬である。少し重い長靴を履いて、他所の家にちょっと寄り道。案外よさそうである。

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お題をもらって30分で小説を完成させるという企画に参加した際のものを少し修正しました。
お題は『長靴を履いた寄り道』でした。

また会いましょう。