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食べるとき自分でつくるポテトサラダ

5年半ほど前、脳疾患により、ボクは体の自由を失った。
4か月ほどの懸命なリハビリで日常生活には問題がない程度に復帰できた。
退院後、仕事を失っていたので、妻が働き、ボクは主夫になった。

毎日、洗濯をし、時には掃除機をかけ、これが最も重要な仕事なのだが
夕食を作るようになった。
ただ手にはマヒが残っているので、いちいち作業に時間がかかる。

ある日、知人からたくさんのジャガイモとニンジンをもらった。
趣味で作っているとはいえ、スーパーに売っているものよりも出来の良いジャガイモとニンジンだった。
これで何を作ろうかと考えた末、シンプルに「ポテトサラダ」を作ることにした。
妻とボクの大好物なのだ。

ジャガイモを一口大に切って、しばらく水にさらして汚れと灰汁をとり、
電子レンジでホクホクになるように加熱した。
加熱したらすぐに酢と一つまみの砂糖をふるい、下味をしっかり付けた。

ニンジンもスライスして、電子レンジで加熱。
ジャガイモと同じように加熱後すぐに酢と一つまみの砂糖をふるい、
こちらもしっかりとした下味を付けた。

玉ねぎは薄くスライスにして、水にさらしてペーパータオルで水分をとり辛みをとった。

買ってあった残り物のブロックベーコンをさいの目に切って準備完了。

病気前だったら、ここまでの作業は、1時間もかからないで終わっただろう。
ただ、ボクは手のマヒで、その倍以上の時間、2時間強の時間ががかかった。

加熱した野菜たちの粗熱をとるため、一息つくことにした。
あとはマヨネーズと混ぜるだけなのだが、そのうち、眠くなってきたので
かるく昼寝をとることにした。

体は、まだ本調子ではないので、休み休みで作業をする必要がある。

しかし、すっかり寝入ってしまった。
「ただいま」という帰宅した妻の一声で目が覚めた。

「あっ、まずい。ポテトサラダまだ途中だった。」
時すでに遅し。
「今日のお夕飯は何」とキッチンに来た妻に聞かれて、
とっさに調理用テーブルの上に置いた、これからポテトサラダになる予定の具材を見せて
「自分で完成させるポテトサラダがメインだよ。」
と答えてしまった。

もう完全に開き直っている。
当初の計画通りのような顔をして
大き目のスプーンに好きな量の具材を入れて、マヨネーズをかければ
「はい、ポテトサラダの完成ですよ」と、だいぶ無理のあるポテトサラダなのだが、これが妻にうけた。
「色取りがきれいで、カフェめしみたいだね。しかも楽しそう。」と思わぬ反応だった。

「臨機応変」という言葉が頭の中をよぎった。
この後、我が家のポテトサラダは、これがスタンダードになった。

料理を作っていると、時々、料理の神様が粋な計らいをしてくれることがある。
予定とは違う味だが美味くできたり、思っていたのとは違う色取りになったり。
ベテランの主婦だと「予定調和」で収まるのあろうが、
まだ新人主夫なので、予定外のことが発生して、あたふたすることがある。
その時「これ、料理の神様の粋な計らいだ」と思うようにしている。
これはこれでなかなか楽しいのである。

料理の神様、またいつか粋な計らいをおねがいしますね。

#おいしいはたのしい