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トルコ映画翻訳

皆さんこんばんは。
伊東です。心優しい皆さんが昨日のnoteに反応くださいました。
調子に乗って記事をあげさせていただきます。
前回挙げたキーワードの中から、今回は「トルコ映画翻訳」についてお話いたします。

前回、自己紹介で大阪の大学に進学した旨はお伝えいたしましたが、そこは外国語大学、そして私の専攻語はトルコ語でした。トルコ語を選んだ理由は「トルコ面白そうだから」「偏差値的に」というペラッペラしたものです。
2008年に入学し、可もなく不可もなく(不可はそれなりにあったかも知れません)淡々と講義に出席。ちなみにトルコ語は日本語同様「主語→目的語→述語」という語順をしている珍しい言語です。例えば、”I love you”を前から和訳すると、「私は、愛している、あなたを」となります。トルコ語で”I love you”は”Ben seni seviyorum”これを前から和訳すると「私は、あなたを、愛している」となり、前から訳していけばほぼ意味が通じるという日本人には比較的学びやすい言語です。また、主語を省略出来るという点も日本語に似ています。

さて、そんな「中の下」の成績でいたトルコ語専攻でしたが、同じクラスに、私がこの世で1番面白いと思っている大親友のY君が居ました。そのY君が3年生のある日、
「伊東、トルコの映画がベルリンの国際映画祭で金熊賞獲ったらしいぞ。日本での上映予定ないみたいやから俺らで翻訳して学祭かなんかで上映したらおもろいんちゃう?ついでに大学の周年記念事業に応募して、監督へのインタビューとかロケ地も行ってみよや。」と話を持ちかけてきました。
私は深く考えもせず、これまた「面白そうだ」という軽い気持ちでもう1人の友人とその話に乗ることに。
一方Y君はと言うと、あんなノリであったにも関わらず迅速かつ的確な判断で「監督への直筆レター作成及びインタビュー日程の調整」「大学の周年記念事業への応募」「映画データ及びスクリプトの取得」などを実行。さらに、国内の映画配給会社が放映権を取得したとの情報を聞くと、翻訳を自分たちに任せて欲しいと直談判し、承諾を勝ち取るという学生離れした行動力と交渉力を発揮。それを見た伊東は「これは本気でやらなあかん」と痛感すると同時に、Y君の印象が「ただのおもろいやつ」から「心の底から尊敬できるやつ」へと変わりました。

Y君のおかげで無事にインタビューのメドや記念事業としての承認を得られ(サラッと書いてますが、めっちゃすごいことです)、寝る間を惜しみ翻訳に取り組みました。映画の翻訳となると試験に出るような単純な和訳では全くダメ。かつて”I love you”を「月が綺麗ですね」と訳した夏目漱石のように、また、映画「カサブランカ」で”Here is looking at you”を「君の瞳に乾杯」と訳したように、人物の心情をとらえ、監督の意図を想像しながらベストな訳を探しました。しかもこの映画、とにかく台詞が少ない。台詞が少ないからこそ、そこに込められたメッセージを適当に翻訳するわけにはいかない。おまけに台詞1秒につき3文字という鉄則もあり。翻訳作業は続きました。3人で何度も話をしながら、そして配給会社のダメ出しを喰らいながら。この時が1番トルコ語を勉強したかも知れません。
映画配給会社から翻訳OKの連絡をもらった時の達成感を超えるものは、これから先もなかなかやってこないのではないでしょうか。

そして、映画監督へのインタビューのためトルコへと飛ぶことに。文字通りの「飛んでイスタンブール」
トルコ国内の観光ももちろんしましたが、こちらでは割愛します!一言で言うと「キリスト、イスラムどちらの顔も持つ、親日で美男美女が多い国」でしょう。
さて、インタビューすると豪語したものの、メンバー3人ともトルコ語に不安があります(専攻語なのに)。というわけで、同回生で留学中だったSさん(ヘッダー写真左)を緊急招集。
いよいよ映画監督との対面。監督と言うと気難しい、怖いというイメージしかなく正直ビビっていました。現地事務所のインターホンを押し、応接室へ。そして入ってきた監督は、予想に反し優しいオーラに包まれている大きなトルコ人のおじいちゃん。全員安堵。
興奮もあり、正直インタビューの内容はほとんど覚えておりません。。1つだけ鮮明に覚えているのは、彼が「東京物語」の監督小津安二郎や日本の俳句(特に松尾芭蕉)に影響を受けていること。特に俳句はたった17文字で風景や情景を伝えることができる。自分の映画はそれに比べたらまだまだだよ。と、話していたこと。日本の文化が他国でもこれほど影響力を持っていたことに驚きを隠せません。そして、その文化をきちんと知らない自分を恥ずかしく感じました。
そして、監督の、急に映画の翻訳をしたいと言ってきた謎の日本人学生のために時間を割いてくれる心の広さと優しさにメンバー一同感動。Y君は泣いていました。
インタビュー後の写真が今回のヘッダーです。監督はお土産のハッピを着用!
その夜のビールは美味しかった。悪魔的でした。
翌日はというと、主演の男の子5歳にも会うことができ、何とご自宅でプチインタビューを決行。
すると、その子の夢は俳優ではなく、まさかのサッカー選手。夢叶ったらぜひゼルビアでプレーして欲しい!その時はトルコ語で「こんにちは」くらいは言いたいな!

そんなこんなでトルコ映画翻訳プロジェクトを終え、無事に学内上映をする事ができました。残念ながら留学のため伊東はその場にいることはできませんでしたが。。。上映会に来た方からは「美しい映画でした」「本当に君たちが翻訳したの?」など、さまざまな反響を頂いたとの事です。

軽いノリで始めた事でしたが、こんなにも達成感を得られるとは思ってもいませんでした。
誘ってくれたY君には感謝してもしきれません。幸い、彼も現在東京在住のため時々会っては思い出話に花を咲かせています。イメージとしてはエレファントカシマシの「俺たちの明日」ですね!
映画翻訳の経験はもちろんですが、こういう、何年経っても会いたくなるような、尊敬できる友人が身近にいたことに気付けた事がこのプロジェクト1番の収穫です。もしも今後Y君に助けを求められたら、私は仕事よりも優先します。すみません。

最後になりましたが、その映画の情報ものせておきます。気になった方がいらっしゃったらご参考にしてください。
もしかしたらエンディングクレジットに私の名前が出ているかもしれません。(自信ない!笑)
半端じゃない長文、失礼いたしました。
伊東

『蜂蜜』(現地題名『bal』)
監督:セミフ・カプランオール
第60回ベルリン国際映画祭金熊賞受賞
主演:ボラ・アルタシュ

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