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ゲルハルト・リヒター「写真論 / 絵画論」を読んで

ゲルハルト・リヒター「写真論 / 絵画論」
淡交社

難しい内容だがとても素晴らしい本だった。読んだあと絵を100枚描いた気分にさせてくれる内容だった。
リヒターは、まず自分にとって重要なテーマの為に作品を作っており、それはコンセプチャル・アートとかポップ・アートといったカテゴリーの中の議論ではないということがようく解った。有名なアブストラクト・ペインティングにしても「どんな理解もすり抜けてしまうもの、タイトルだけみても得られないもの」を描くというテーマは、リヒターならではのものだろう。写真と絵の関係性についても多く語られており、それもまた独特で、写真を描く理由は、客体的な正当性を絵画にもたらすためだと言う。多くのアーティストが主題の為に考え、制作し、そして表現を構築しているのに対して、リヒターはそういったアーティストを横眼で見ながら、まったく異なった視点で制作を続けてきたのである。
他のアーティストに関する発言も多く、その中でも特にリヒターが好意的な意見を述べているのが、デュシャンとジョン・ケージだ。リヒターにとっては、作品を作る能力よりもみる能力、芸術へとつながる必要なクオリティが見えるかどうかが重要であり、レディメイドは、それに対して根本的な提示をしているのだと言う。ジョン・ケージの偶然性の作品についても肯定的で、偶然と形式については手本にしているとも語っているのが納得のいく箇所だった。
リヒター独特の言葉で重要なものは、この「形式」という表現で、この本の中で度々登場する。この言葉の意味を慎重に掴み取ることがこの本を読み進める楽しさとなるだろう。
何より描くことが前提であるというところに画家としての強い誇りを感じる。


英語塾を開校し、授業の傍ら、英検や受験問題の分析や学習方法を研究しています。皆さまの学習に何か役に立つ事があれば幸いです。https://highgate-school.com/