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第6回読書会 小林秀雄「Xへの手紙」を読む

参加者: 岩本、澤井、西、外館
選書: 岩本

今回は、小林秀雄の代表作の一つとして知られる「Xへの手紙」を題材にし、読書会を開催した。選者である岩本が学生の頃に読み、感銘を受けた経験から、今回はこの作品が題材となった。

岩本からは特にニ点指摘があった。一つ目は、以下の引用についてのそれぞれがどのように考えるかである。
「とまれ、小説を書こうと思って書かれた小説や、詩を書こうと思って書かれた詩の氾濫に、一切の興味を失って予った今、俺は他人のそういう言葉が、俺の心に衝突してくれる。極めて稀な機会だけを望んでいると言っていい。」
小林秀雄のこの文章は、コンセプトを考え、作品を制作している岩本にとっては学生時代、衝撃的なものであった。選者としては、他の参加者がどのようにこの文章を捉えるか興味があったのである。

参加者である澤井君からは、日本画と言う芸術がプロセスを重視するため、小林秀雄の言うような考え方で、作品を制作するのは稀かもしれないと言うような意見があった。

プロダクトデザインを専攻する西さんからは、デザインの制作はクライアントを第一義に考えるため、こういった作品制作デザインよりファインアートの領域だろうという意見があった。

外館君からは、ドストエフスキーの著書との関連性が指摘された。小林秀雄の掛け算を使った文章表現と、ドストエフスキーの著作に関連性を感じさせる文書が実際あることも興味深い。

ニ点目は、数十年前に比べて、人文系の学者や思想家、小説家との作品が社会に与える影響が薄くなってきているのではないかという問いである。現代では、思想家の発言よりむしろ、ホリエモンやひろゆき、成田雄輔といった経営者やタレント性を持った学者の意見が、社会の中で大きな影響与えると考えている。この点にも3人で議論をした。

現代ではSNSが発達しており、それぞれが自分の興味ある情報を個人で得ているので、世間の考え方も細分化されているのではないかと言う意見がとても興味深かった。
秋元康がどこかで語っていたが、最近ヒットの仕方も大きく変わっているようである。まず、とてもコアのファンにヒットし、それがドミノ倒しのように興味のない人たちに感染していく。そして少しずつヒットが広がっていき、徐々に大きくなるといった現象が最近見られるようだ。
情報の得方が変わったことで、社会を捉える考え方や興味の対象が細分化され、情報化社会のあり方が大きく変わったことが要因の一つではないか。

最後に、「Xへの手紙」と言うタイトルについてである。自分の内面を告白する要素を持っている為、Xを誰と捉えるかを想像するのは楽しい。
この作品は、友人に宛てた手紙と言う形式をとっているという意見がとても興味深かった。Xを、もう一つの自分に当てた手紙と言う捉え方もできるが、あえて親しい友人と言う設定にすることで、文章の中に小林秀雄、独特の意見や本質を得た格言などが大きく散らばりめられる作品となったのではないかと言う考察も、今回の読書会の興味深い点の1つと言える。

選者である岩本としては、坂本龍一や小林秀雄といった一流の芸術家が、考えて制作した作品と言うのは良い作品ではないと共通して発言していることが気にかかっている。
今日、芸術作品を制作すると言う事は、販売すること、作品がどう見られるか、また相手を楽しませるといった目的のため、たくさんの意図やコンセプト、感情が複雑に絡み合ってできるものであると考える。
しかし、一点目にあげた小林秀雄の引用文のように、そういった複雑な思想なども全く及ばない根源的な箇所から、表現する(作品を制作する)事で生まれる衝動的な作品と言うのはあり得るはずである。そういった作品を制作することによって、人間の芸術表現の本質が、もしかしたら新しい在り方が見つかるかもしれないと思うと、思考を超えた作品制作に期待を持つのである。

英語塾を開校し、授業の傍ら、英検や受験問題の分析や学習方法を研究しています。皆さまの学習に何か役に立つ事があれば幸いです。https://highgate-school.com/